マイカーの業務利用における事故の会社責任

■今回の質問

 弊社ではときどき、遠地に出張する際に、従業員がマイカーで直行、直帰をしています。「万一のときの保険は大丈夫かい?」と尋ねると、従業員は「任意保険に入っていますし、業務利用でも月に数回だったら問題ないそうですよ」といっています。
 これまでは事故も起こっていないので問題はないのですが、万が一事故になった時には、会社にはどういった責任が問われるのでしょうか。また、どのような対策をしておくべきか教えて下さい。

 

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

1・従業員の交通事故等についての会社(事業主)の責任

 会社の車を使用して業務を行っている従業員が交通事故を起こした場合、会社は使用者責任(民法715条)や、運行供用者責任(自賠法3条)の規定に基づき、被害者に生じた損害の賠償義務が課せられます。

 

 使用者責任は、会社の「事業の執行につき」(事業そのもの、及びこれと密接に関連する業務)で車を利用していたと認められる場合であり、運行供用者責任は、いわゆる「運行支配」、及び「運行利益」が存在するとされる場合です。

 

 事故を起こした従業員と、会社とを比較すると、会社に資力があることの方が圧倒的に多く、事故の被害者の立場からすると、損害の賠償を確実にさせるため、従業員だけではなく会社に対して請求することは非常に多いといえます。

2 従業員がマイカーを使用する場合

 従業員がマイカーを使用する場合でも、会社が業務におけるマイカーの使用を認めている場合には、会社は前項の責任を負うことになります。設問のような出張は、会社の業務そのものですので、万一事故等が起きれば、会社も責任を負うことになります。

 

 会社として、マイカーの使用を明確に認めるわけでも、明確に禁止しているわけでもないような場合には、会社の責任の有無は、マイカーの使用状況についての客観的事情や、当事者の意思を検討して判断されます。

 

 その結果、少なくとも会社が業務におけるマイカー使用を黙認していたといえるような場合には、会社は責任を負います。設問のような場合も、たとえ月に数回でも、会社がマイカーで出張に行くことを認めているのであれば、会社は責任を負うことになります。


 なお,マイカーについては,従業員の通勤に使用されているような場合も問題となります。判例上は,マイカーの使用が通勤のみに限られており,会社の業務に使用されていないような場合には,会社の責任を否定するものが多くなっています。

 

 しかし,特に明確な規定もなく,通勤のみならず業務にも使用されているような場合には,会社は責任を負うことが多くなるでしょう。

3 事前の対策

 従業員がマイカーを使用するにあたり、会社がすべき対策は以下のとおりです。

 

(1) マイカーの使用を認める場合に必要な対策
 会社が従業員のマイカーの使用を認める場合には、事故の場合は基本的に会社も責任を負わなければならないと考えておくべきであり、従業員への交通安全教育や任意保険への加入は必ず必要です。

 ただ、どのような場合でも全て会社の責任とされることを回避するために、使用する自動車の範囲や、会社の業務の範囲等も明確に定めておくべきです。


具体的に採るべき対策としては、

 

1・従業員への交通安全教育
 一般的に、業務において自動車を使用する会社は必ず従業員への交通安全教育をしておくべきです。

2・任意保険への加入
 会社として損害保険に加入することも必要でしょう。また,マイカーを業務に使用して事故にあった場合、まずは従業員個人の保険が適用されることが多いので、マイカーを使用する従業員に対して任意保険への加入を確認し、義務づけておくべきです。

3・車両管理規程・使用規程の完備
 車両管理規程や、車両使用規程を明文で完備しておき、業務に使用すべきマイカーや業務の範囲、費用負担等を特定しておくべきです。


規程内容としては、例えば、

  • マイカー使用の許可制や登録制の制度
  • 許可または登録,あるいは取消,更新基準
  • 任意保険加入の義務づけ(契約書写しを提出させるなどの対応)
  • 使用する自動車の特定方法,届出方法(車検証のコピーを提出させるなどの対応)
  • 業務利用の範囲・時間・方法
  • 会社の費用負担(ガソリン代,高速道路代,自動車保険料等)

4・上記規程等を含む,会社内の規程の従業員への周知徹底
 会社におけるマイカーの使用態様を明確化した上で,それを従業員に周知徹底させ,遵守させておく必要があります。

(2) マイカーの使用を認めない場合に必要な対策
 会社が従業員のマイカーの使用を認めない場合には、業務に利用される実態などが無いようにしなければなりませんし、明確に禁止して、会社として黙認していたと判断されないようにしておかなければなりません。

 

 具体的な対策としては、就業規則や車両管理規程等で、業務に使用することを明確に禁止しておくべきであり、さらに禁止を従業員に周知徹底しておく必要があります。

 

 なお、業務利用はさせないが、通勤には使用させるような場合には、通勤に限る旨を明確に規定しておき、車両管理規程等により、通勤に使用する自動車を特定し、業務に利用することを禁止しておくなどの対応が必要です。通勤とはいえマイカーを使用するため、任意保険の加入もしておくべきでしょう。

 

 また、規程等があっても、事実上業務に使用されており、それを会社も黙認していたとされれば、会社が責任を負うことになるので、そのようなことがないよう注意が必要です。

4・マイカー管理の状況をチェック

 以下にマイカーの業務利用に関し、最低限行っておくべき事項についてチェックリストを作成しましたので、管理状況をチェックしてみて下さい。

マイカーの業務利用を認めている場合
□ 従業員に交通安全教育を行なっている
□ 従業員の保険の加入状況を確認している(保険証券の写しを提出させている)
□   会社の自動車保険の適用範囲にマイカーの業務利用を含めている
□ 業務に利用するマイカーの車検証の写しを提出させている
□ 車両管理規程や車両使用規程を備えている
□ 同規程を従業員に周知徹底している
□ 業務利用の日時や、移動場所(ルートも含む)、範囲を明確にしている

マイカーの業務利用を認めていない場合
□ 就業規則や車両管理規定等でマイカーの業務利用を禁止している
□ マイカーの業務利用の禁止を従業員に周知徹底している
□ マイカーの業務利用の実態がないかチェックしている
□ 出張の際には、目的地への交通手段を確認、指示している

(具体的な事案によってはこれらの対応だけでは足りないとされる場合もあり、実際の会社や業務の状況に応じての検討が必要ですので、ご注意下さい)

(執筆 清水伸賢弁護士)

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