路上に寝ている泥酔者との事故2

◆判例の紹介

1 運転者の責任を認めなかったもの

 運転者の民事責任を認めなかった判例として、交差点を直進する自動車が、交差点内で右折待ちして停止している対向車の後ろから右折してきた車と衝突したケースがあります。

 交差点で右折しようとする車両が停止しているのに、その後続車の運転者が停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けるという違法かつ危険な運転行為をすることなど、特別の事情のない限り、予見することができないから、そのような後続車の有無・動静を注意して交差点を進行すべき注意義務はないとして、直進車運転者の過失を否定したものです(平成3年11月19日最高裁判所第3小法廷判決)。


 また、刑事責任を認めなかった判例として、約30キロオーバーで走行していた車両が、黄色信号表示で交差点に進入したところ、交差道路の赤信号に従わないで交差点に進入してきた被害車両と衝突した事案があります。

 このケースでは、特別な事情のない限り運転者は、車両が対面信号機に従わずに交差点に進入することはないであろうことを信頼して交差点に接近すれば足りるのであって、あえて対面信号機の赤色灯火表示に従わずに交差点に入る車両のあることまでも予想して、そのような車両との衝突を避けるべく指定最高速度を遵守し、速度を調節して進行すべき自動車運転上の注意義務はないとして、信頼の原則を適用して被告人の過失を否定し、無罪が言い渡されました(平成23年5月16日名古屋高等裁判所判決)。


2 運転者の責任自体を認め、過失相殺等を行ったもの

 しかし、路上にいる歩行者と自動車の事故では、概ね運転者の責任を認め、過失相殺をする事例が一般的といえるでしょう。

 裁判例としては、例えば相当程度飲酒し、路上で足を挫いて幹線道路上の歩行者信号が赤であるのに横断歩道付近に座っていた被害者と衝突した件で運転者の過失割合を4割とした事例(平成7年3月28日東京地方裁判所判決)や、酔いと疲れで道路上に寝ていた者を交差点の右折時に轢いた件で運転者の過失割合を6割7分とした事例(昭和47年9月11日東京地方裁判所判決)、高齢の被害者が車道上で転倒して寝ていたところを車が衝突した件で、運転者の過失割合を8割とした事例(平成21年6月19日岡山地方裁判所判決)などがあります。

 なお、交通事故の過失相殺率の一般的な認定基準では、車と路上に寝ている人との過失割合は、原則として昼間であれば運転者の過失割合は7割、夜間であれば5割とされており(別冊判例タイムズ第16号108頁~110頁)、場所や路上に寝ていた人の年齢等によって、概ね3割~8割くらいまでの間で過失相殺されているようです。

◆交通法規の遵守と「まさか」に備える気持ちを持って運転することが大切

 以上のように、自動車と歩行者との事故においては、運転者に注意義務違反等が認められることが多く、歩行者に落ち度があってもそれは過失相殺で検討される事例が多いといえます。

 これは、運転者は運転時には常に危険予測をしなければならないものであり、質問のような事例の場合、実際には、路上に寝ている者がいたとしても、運転者が法定速度を守り、適切に前方を注視しつつ運転している限り、早期に発見した上で事故を回避できる事例が多いためであると思われます。

 そのため、質問のような事例においては、基本的には信頼の原則が適用されることは難しいといえ、適用のためには、例えば運転者が速度や車線等について交通法規を遵守し、前方を注視していても、なお路上に人が寝ていることなど予想も出来ず、発見も出来なかったというような、特別の事情が必要といえるでしょう。

 ただ、質問の事例のような場合は、逆にいえば、慎重に運転している限り「交通事故」が発生しない事例であるともいえます。会社としては、従業員に対し、交通法規をしっかりと守り、危険予測を行って慎重に運転することを強く指導しておくべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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