整備不良が原因で発生した事故

弊社は印刷会社ですが、先日高速道路を走行していた社員の運転する社有車がバーストして側壁に衝突する事故を起こしました。事故の原因を調べてみると、タイヤの空気圧が不足していました。幸いなことに今回は単独事故で済んだのですが、このような整備不良が原因で他人を巻き込んだ事故を起こすと、事業所はどのような責任に問われますか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆整備不良の責任

・整備不良車の運転の禁止

 一般に自動車の使用者の車両の整備義務は、道路運送車両法に規定されており、また道路交通法62条は、「車両等の使用者その他車両等の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、その装置が道路運送車両法第三章(・・・略・・・)の規定に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等を運転させ、又は運転してはならない。」と規定しています。


 運転者だけではなく、車両を使用する者、車両等の装置の整備について責任を有する者それぞれに、具体的に使用する車両が整備不良の場合には、運転してはならないと定められているのです。

 ここに「車両を使用する者」とは、車両を使用する権限を有し、その運行を支配し管理する者のこととされており、通常は自動車検査証に記載されている使用者がこれにあたるとされます。なお、リース契約やローン契約の場合、所有者と使用者が異なることがありますが、事実上使用や管理、整備を行う使用者が責任を負うと考えるべきです。


 また、同条の「その他車両等の装置の整備について責任を有する者」とは、道路運送車両法50条に基づいて選任され、同法所定の届出がなされている整備管理者などいいますが、裁判例によれば、整備管理者だけではなく、会社の内部規定、または会社内部の慣行による上司の指示により、整備管理者の代務者と定められた者をも含む、とされていますので、注意が必要です。


 整備不良の車両を運転させ、又は運転した場合には、罰則の適用があります。故意に行った場合には三月以下の懲役又は五万円以下の罰金(同法119条1項5号)、過失で行った場合でも十万円以下の罰金(同法同条2項)が科されることになります。


 また、両罰規定があるため、法人(会社)についても罰金刑が同様に科されることになります(同法123条)。

・民事責任

 整備不良が原因で交通事故が生じた場合で、同整備不良をもって過失があると認められた場合には、事故により生じた損害を賠償する責任は、整備義務を怠った者に生じることになります。


 整備不良の車両を運転してはならないという義務は運転者のみが負っているものではないため、整備不良の過失と、事故及び損害の発生との間に相当因果関係が認められれば、運転者だけではなく、自動車の使用者や、整備担当者にも責任が認められる可能性があります。


 裁判例等をみると、整備不良を唯一の原因とする事例よりも、整備不良に加え、運転者の運転方法やその他の注意義務違反を併せて過失と捉えるものが多いといえ、そのような場合には、運転者は当然責任を負いますし、会社は責任を免れるような事情がない限り、使用者責任や運行供用者責任を負うことになります。


 また、被害車車両に整備不良が存した場合で、同整備不良が事故や損害の発生に一定程度関与している場合には、過失相殺されることがあります。

・刑事責任

 質問のケースでは単独事故ですんでいますが、上記のように整備不良の車両を運転していること自体が許されない行為ですので、事故の有無に関係なく、整備不良の車両の運転が摘発されれば上記の道路交通法62条違反の罰則が適用されます。


 さらに、整備不良が原因で他人を巻き込んだ事故が起き、他人が死亡したりけがを負ったりした場合には、運転者に自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致死傷罪が成立する可能性が高くなります。


 整備不良が原因で事故が起これば直ちに同罪が成立するというわけではありませんが、事故が整備不良を主たる原因であり、運転者等も整備不良を認識していた、あるいは認識できたのに、特に対応せず漫然と運転を継続し、それによって他者が死傷したというような状況であれば、同罪の適用される可能性が高くなるといえます。さらに、車両の使用者が整備不良であることを知りながら業務のために強引に運転させていたような場合には、共犯とされる可能性も否定できません。


 同罪は、被害者の傷害の程度が軽ければ成立しないとされていますが、成立すれば、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金という重い罪の適用があります。

・点検を実施できる体制を整え、指導することが大切

 運転者等に課される自動車の整備義務は、タイヤの空気圧だけではなく、各ブレーキや自動車灯に関するものなど種々あり、各整備の不良は、それぞれ事故の原因となる可能性があるといえます。そして、事故が生じた原因が整備不良であったとされた場合には、運転者、及び事業者(会社)に責任が生じる可能性が高くなります。


 そのため、特に、日常的に業務として自動車を使用する会社等では、まずは整備不良の車両を運転させないように、日々の点検や整備を確実に実施することが求められます。


 法定点検を受けるのはもちろんのことですが、燈火類やタイヤ周りに異常がないかをチェックする日常点検を確実に実施できる体制を整え、従業員に指導することが整備不良による事故を防ぐポイントとなります。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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