運転者のイライラに配慮し「危険運転」を防止しよう

 東名高速道路で発生した「あおり運転」事故に関係して、車の前に割り込まれたことにカッとした運転者が事故を誘発したといった事件の報道が多くなりました。

 

 こうした危険な運転をするのは普段から運転行動に問題のある運転者であり、自社の従業員は安全運転をしているので、むしろ「被害者にならないことを心がけて欲しい」と多くの管理者は考えていると思います(※1)。

 

 しかし真面目に安全運転をしている運転者が、相手の無謀な運転にストレスを感じて感情を害しやすいという研究もあります(※2)。

 また、普段は性格が温和で対人関係が円滑な人であっても、運転という特殊な環境ではストレスへの反応が過敏になるとも言われています。

 

 他車へのストレス・イライラから問題のある運転行動に陥らないように、運転者の置かれている状況に配慮し、管理者として指導すべきポイントを考えてみましょう。 

■「あおり」 → 「危険運転」は、重罰に処せられます

 前車と車間距離を詰めた状態で追いかけたりすると「車間距離不保持」(違反点数1点、高速道路では2点)の違反に問われます。さらに意図的な行動で事故を誘発すると、以下の裁判例のように危険運転致死傷罪などで重罰に処せられる可能性があります。

 まず運転者には、あおり運転が「重い罪に結びつく」ことを訴えましょう。

【判決例1──時速100キロの「あおり運転」に懲役9年】

 2007年1月21日、栃木県の国道で相手車がクラクションを鳴らしたことに腹を立て、ライトを点滅させて軽乗用車を時速約100キロで2.5㎞にわたって追跡した乗用車があり、軽乗用車の運転者がハンドル操作を誤り、ガードレールに衝突して同乗者などが死傷しました。

 

 被告は「追い越すためであおり運転はなかった」として、危険運転致死傷罪について無罪を主張しましたが、地裁・高裁とも懲役9年の実刑判決が下されました。

 

 裁判官の判決理由で「軽乗用車を運転していた女性は後方から急速に追いつかれて恐怖を感じ、加速したため事故を起こした。危険かつ悪質な行為」と因果関係を認定しています。

 

(東京高裁 2008年1月22日判決)

【判決例2──急接近して乗用車を追いかけ事故、懲役6年】

 2012年9月11日、乗用車が栃木県矢板市の国道で少女(当時18歳)の運転する車を「少し驚かしてやろう」というイタズラ心から追いかけて、急接近などのあおり行為を繰り返しました。

 

 少女は恐怖を感じて何とか逃げようと進路の安全確認が不十分なまま走行、交差点で他車と衝突し、衝突された運転者が意識不明の重体となりました。

 あおり運転の車はそのまま逃走しました。

 

 その後、逃げた運転者は逮捕され、危険運転傷害やひき逃げなどの罪に問われ、懲役6年の判決が言い渡されました

 

(宇都宮地裁 2013年8月22日判決) 

【判決例3──車間距離6mで事故を誘発、懲役4年6か月】

 2005年9月7日、静岡県藤枝市の県道を走行中、割り込んできた車に腹を立てた運転者が、時速120~130km(法定速度40km)で追い上げ、車間距離約6mまで急接近しました。

 

 前車も加速し交差点に進入、対向車線を右折中のトラックと衝突、トラックを運転していた女性が死亡するなど3名が死傷しました。

 

 運転者は危険運転致死傷罪に問われ、裁判長は「追い上げは短絡的で酌量の余地はないが、今後、車を運転しないことを誓うなど反省している」として、懲役4年6月を言い渡しました。

 

(静岡地裁 2006年8月31日判決)

運転者の「心を安らかにする」ことを心がけよう

■パーソナルスペースのため「自己中心的かつストレス過剰」に

 運転席は基本的に1人ですから、どうしても自分本位な考え方になります。さらに、車という殻をかぶっているので自分が大きくなったように錯覚しやすくなり、大型車に乗るとこの心理はさらに増幅されます。

 

 その反面、車は生身の身体より取り回しが難しく、操作を誤ると相手に大きなダメージを与えるので、技術的に考えても車の周りには車のサイズに応じた大きなパーソナルスペースが必要です。

 このことから、割り込まれたりすると怒りを感じやすくなります。

 

 特にトラックなどに乗る運転者に対しては、大きなストレスのかかる仕事をしているのだから、失礼な態度の車にカッとしやすいのはやむを得ない面があると考え、なんとか心理的影響を減らすように指導することが重要です。

■家族の写真は心を和ませる

 ある中堅運送会社の管理者は、安全運転を推進するため、運転席に家族の写真を飾ることを奨励しています。

 

 社内で家族写真コンテストを行い、明るく楽しい写真を応募した運転者を表彰し、ダッシュボードに吸盤で取り付けるプラスチック製の写真ホルダーをプレゼントしたところ、自分もほしいという運転者が増えて、希望者にも配布することになりました。

 

 「西欧では普通のことだよ」と言って管理者自身、机上に家族の写真を飾っているそうです。

 

 運転者からは、子どもや家族の写真が自分を見ていると思うと恥ずかしい運転はできないし、運転中も「心が和む」と好評です。

■休憩室で味噌汁をサービスして愚痴を聞く

 ある物流元請会社の運行管理者は、営業所の休憩室に集まってくる運転者に対して、自社・協力会社の分け隔てなく、全員に味噌汁のサービスをすることを日課にしています。

 

 コーヒーでもいいのですが、運転者には味噌汁1杯のほうが喜ばれるそうです。

 

 その営業所の休憩室では、味噌汁を飲みながら世間話をするのが日常風景となっています。管理者が口数の少ない運転者に「今日はどうしたの?」と水を向けると、「倉庫のリフトマンに意地悪で後回しにされましてね」とか「高速でおかしな進路変更する車が多くて、往生したんですよ」といった愚痴が出てきます。

 

 愚痴を聞くのが自分の仕事だと割り切って、「ひどいなあ、倉庫には名前を出さずに注意しておくよ」「マナーの悪い車には本当に腹が立つ。でも、相手にすると損だよ」といった相槌を打つように心がけています。

 

 味噌汁を飲みながらほっこりとして愚痴を言ってしまうと、運転者も表情が柔らかくなり明るい気分で運転を再開するということです。 

■運転中にカッとしやすいのは血圧の上昇も影響

 運転していると他人の行動が気になりやすいのは、血圧が上昇していることにも一つの原因があるようです。

 

 運転は車という危険な機械を上手に扱う必要があり、緊張を伴う作業であり、だれでも交感神経が興奮して平穏な状態より血圧が上昇します。

 

 生理学の研究により、人間は交感神経が興奮して血圧が上がっているときには、意識が覚醒し行動などが俊敏になるというプラス効果がある反面、怒りなど感情的な反応をしやすいとされています。

 このため、普段は温和な性格の人でも、運転中は腹を立てやすくなっています。


■「自分の健康を守ろう」と指導

 運転中に相手の行動に腹を立てると、アドレナリンの分泌が進み、さらに血圧が上がるという悪循環に陥ります。

 

 中高年運転者にとって血圧の過度な上昇は健康起因事故に結びつくなど、生死を分ける深刻な事態ともなります。

 運転を休止して、お茶などを飲みリラックスすると副交感神経が優位にたち、血圧上昇も抑えられます。

 

 運転者に対しては

「カッとすると血圧が上がって自分自身を傷つけることになる」

「嫌な車がいたら少し運転を休憩して、気分を変えることで自分の心身を守ってくれ」

といった健康管理面での指導をすることも効果的です。

怒りは上がった血圧をさらに上昇させる

  怒りは、上がった血圧をさらに上昇させる


■「公共の場」を意識し、6秒の我慢を習慣づけよう

 運転中にカッとするなというのはなかなか難しいと思いますが、以下のような内容も指導しておきましょう。

 

■道路は公共の場

 道路は、駅や公園などと同じく皆で共用している公共の場です。公園や駅で少しムカっとしたからと言って見ず知らずの他人と喧嘩を始める人はいません。車という閉鎖空間にいるので、異常な行動をしてしまいやすいことを意識し、駅や公園と同じなんだと意識しましょう。

 

■6秒の我慢で自制できる

 大脳生理学の研究で、一過性の怒りは時間とともに鎮静化し消失していくことが知られています。

 普通は6秒経過すれば、怒りのピークが落ち着きます。この6秒の間に行動を起こさなければ我慢できるのです。

 

 カッとしてもすぐに抜き返すなどの操作をしないで、6秒待ちましょう。

■「撮られている」ことを意識させよう

 なお、最近は重大事故などがマスコミで報道される際に、一般の運転者が提供したドライブレコーダーの映像や路上の防犯カメラ映像がよく使用されます。

 

 昔と違って、誰も見ていない道でもカメラに撮られていることを意識する必要があります。

 

 運転者には「カッとして少し車間距離を詰めたり抜き返しただけでも、相手の撮影するドライブレコーダーや防犯カメラに車のナンバーや会社名が映るかもしれない」と説明し、会社の信用を守るためにも怒りを抑えることの重要性を伝えましょう。


 

【※1 参考ページ】

 「あおり運転」等にあった場合の防衛方法については以下のページを参照してください。 

  →  「あおり運転などの交通トラブルに対する対処は?」(清水伸孝弁護士 解説)

 

 

【※2 参考研究】

  安全運転に努めている職業運転者がいかに感情ストレスにあいやすいか、また感情コントロール

 教育の開発が重要であるという研究テーマの論文です。運転者指導の参考になります。

  →  「ドライバーの感情特性と運転行動への影響

    (財団法人 国際交通安全学会/平成20年度 研究調査プロジェクト報告書) 

 

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