「危険予測意識」を持って運転させよう

■「ルール遵守」だけでは事故を防ぐことはできない

右折車の危険行動
「感情をコントロールできるドライバー…」より

 

 さる5月8日、大津市の交差点で不用意な右折車の行動により右直事故が発生し、歩道上にいた保育園児が巻き込まれて死亡しました。

 

 事故の発生後、改めて交通ルールを守ろうという機運が生まれ、各地で「名古屋走りはやめよう」とか「伊予の早曲がりは危険だ」といった指導が行われています。

 右折時などに直進車優先のルールを守ることは、確かに重要です。しかし、一方で自分の優先権を信用しすぎて、漫然と走行してしまう危険にも注意が必要です。

 

 世の中で犯罪がゼロとはならないように必ずルール違反をする人が現われます。

 交通事故を防ぐためには「自分がルール違反をしない」ということだけではなく、相手が危険なことをしても事故を防ぐにはどういう行動すればいいか?という視点が求められます。

 

 事故の原因となった運転者を批判するのは簡単ですが、車という危険な機械を歩行者のすぐ近くで動かしている以上、自分自身が意図しないまま加害者となる責任を考える必要があります。

 第三者の被害を防ぐためにも、危険予測がいかに重要であるかを指導しましょう。 

 

■常に他車(者)の危険行動をイメージして予測する

 

■もらい事故でも過失責任は発生する

 交通整理を行っていない交差点で右直事故が発生した場合、民事訴訟では一般的に右折車の過失が8割、直進車の過失が2割とされて、右折車の責任割合が大きくなります(※1)。

 

 大津の事故では右折車だけでなく直進車側も交差点での確認が甘かったことを理由に書類送検されましたが、その後不起訴になっています。

 直進車側に刑事責任が問われない場合でも、最低2割程度は過失責任があるとされている事実を自覚することが重要です。

 

■相手のルール遵守を期待をしない

 こうした状況では、直進車側の運転者が「相手は無理な右折をするかもしれない」と予測して、相応の構えをすることで事故を回避したり被害を軽減できるケースが少なくありません。

 

 私たち運転者が事故から教訓を学ぶ場合、ルール遵守はもちろん、危険な行動をする他車の存在を常にイメージしておくことが重要です。

 

(※1:別冊判例タイムス38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」より) 

予測しているとブレーキが早く踏める

■被害軽減の可能性が高まる

 運転者が漫然と走行している場合と、危険予測をして構えている場合では、事故回避行動をするまでの反応時間に違いが生じると言われています。

 

 長山泰久大阪大学名誉教授の研究によると、ブレーキなどの操作が必要だと危険予測し警戒していた場合の「予測反応時間」が0.75秒であったのに対して、まったく危険予測をしていなかったため驚いてしまった運転者の「驚愕反応時間」は2倍の1.5秒かかりました。

 

 この0.75秒の差を距離に換算すると時速40キロでは8.3m、時速50キロでは10.4mにもなります。

 8~10m手前でブレーキを踏めたとして必ず事故を回避できるとは限りませんが、被害を軽くできる可能性が高まります。

■危険予測で観察力を養い事故防止につなげる

 もう一つ意図的に危険予測を行う重要な点は、的確な予測をするために他の交通参加者を注意して見る必要があり、観察力が養われて事故防止能力が向上することです。

 

 たとえば、前後左右の車に注意しながら走行していると、全ての車が危険な行動をするわけではなく、何となく僅かな動きで「隙きあらば」と進路変更などを狙うようにタイヤが動いている車がいることに気づきます。

 この車は進路変更をしそうだと考えていると、実際に合図もなく危険なタイミングで車を動かします。こうしたヒヤリ・ハット体験を意識して記憶することで感受性が高まり、おかしな車を警戒して車間距離をとったりアクセルから足を離すタイミングが早くなります。急ブレーキがなくなるので、自分が追突される危険も少なくなります。

 

 また、真っ直ぐ走るべき車が異常な動きをすることには理由があって、誤って右折車線に入った直進車が左側車線に戻ろうとしている場合などがあります。道路標識・標示がわかりにくい場所ではよくあることです。

 前方に交差点が近づくと危険な動きをする車が増え、慣れない他府県ナンバー車などの場合はとくにそうした傾向があります。前方の状況に目を配り他車(者)の立場に立って行動を予測する習慣をつければ、より的確に危険を見つけることができます。

■自分のなかに潜む危険な心理を予測する姿勢も必要

 相手の危険行動だけでなく、自分自身のなかに潜む心理的な危険を予測することも重要です。

 

 わき見運転などで事故を起こしたケースをみると、運行経路を確認するために標識を見ていたとか、カーナビの表示を確かめていたといった前方不注視が事故の原因となっていることがあります。

 

 運転者の言い分としては、運転に必要な確認をしていたということです。

 

 しかし、その行動の背景には初めて走行する道路のため、迷ったり分岐を間違えることに不安に感じて長時間標識を見てしまったとか、渋滞のため遅れが生じ、予定経路とは違う道路を通行しようと思って、カーナビゲーションを操作して抜け道を探すといった心理が潜んでいます。

 

 急ぎや焦りの心理に陥っているときに「自分が危険な行動をしがちである」ことを自覚し、急ぐようなときこそしっかり前を見て安全確認を確実にしようと言い聞かせるなど、自分自身の危険な心理に対する構えを持つ必要性を指導しましょう。

■事故のニュースを危険予測に活かそう

■朝早くの時間帯こそ飛出しなどを警戒

 

 事故のニュースも何となく見聞きするのではなく、その原因をよく考えることで、危険感受性を高めることに繋がります。

 

 2019年5月18日午前6時30分頃、三重県鈴鹿市の見通しの悪い交差点で、通学中の高校生の自転車と18歳の会社員が運転するワンボックスカーが出会い頭に衝突し、高校生が意識不明の重体となる事故が発生しました。

 

 車の運転者は過失運転傷害罪の疑いで逮捕されました。こうしたニュースをみると若い運転者の乱暴運転が原因と決めつけてしまいがちです。 

 しかし複数の報道によると、自転車が出てきた道に一時停止標識があったとされていますので、自転車が停止線で止まらずに出てきた可能性も考えられます。

 

 時刻が6時半と早朝で交通量が少ない時間帯だったので、双方とも交差交通はないと油断していたのではないでしょうか。

 1時間程度あとであれば、通学・通勤の車や自転車が増えてきて互いに警戒しますので、かえって重大事故は発生しにくかったと思われます。

 

 早朝であっても、部活や早出出勤のため自転車や車がやってくることはあります。こうした教訓を自分が朝早く運転するときに意識する必要があります。

 

 何も飛び出す感じがしないような時間帯こそ、稀に大きな事故につながる危険が潜んでいることをイメージして、見通しの悪い場所では危険予測意識を高めることが大切になります。 

■危険への認識度は運転者によってまちまち

 運転者に危険予測意識を高めなさいと言っても、すぐに事故防止効果を期待するのは難しい面があります。

 

 経験が浅かったり感受性の鈍い運転者は、自分が安全運転をしているつもりでいて、どのような危険を予測すればよいのか的確に認識していないからです。

 

 そこで、管理者は2月に1回など定期的に危険予測勉強会を実施して運転者の危険感受性を高める活動を継続しましょう。 

 

 交通場面の映像を見せて運転者同士で考えられる危険を討議させたり、チェックリストで危険要因に対する認識度をテストしたりして、どの程度危険を予測する能力があるのか判断したうえでテーマを決めて指導していきます。

 題材としては、以下のようなものが考えられます。

  • 事故の報道ニュース──テレビの事故報道などを録画して状況を紹介する
  • ドライブレコーダー映像──社有車等に設置したドライブレコーダーの運転映像を使用する。事故場面でなくても他車の行動などの危険要因をピックアップできる
  • 過去に自社の運転者が起こした事故事例を図や写真などで再現する
  • 危険予測訓練用の冊子、CDROM等を活用する
  • インターネットのwebサイト上にある無償の危険予測訓練映像を活用する
  • 危険場面への気づきを自己診断するチェックテストなどを活用する 

 → 図は小冊子「見えない危険を読むイメージ力を高めよう」より


★参考ページ★

 →  見えない危険を読むイメージ力を高めよう

 →  事故を防ぐ危険認識度チェック

 →  危険予知トレーニングシート集(自動車事故対策機構webサイト)

 →  実写版/危険予知・事故回避トレーニング(JAF日本自動車連盟webサイト)

 →  危険予測トレーニング(本田技研工業(株)の交通安全webサイト)

 →  事故の過失割合について教育していますか?

 →  接触していない事故の責任(安全管理法律相談)

 →  交通事故の損害の大きさを指導していますか 

 

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