◆第8回 交通科学シンポジウム その2 

パネルディスカッション

◆実地に求められる運転と薬剤の課題

  コーディネーター 津久井一平/(財)航空医学研究センター顧問

  パネリスト 全講師

◆健康起因事故の分析には、もっと詳細な調査が必要

 コーディネーターの津久井氏は、それぞれの講演内容を踏まえた上で、実務家やドライバーへのアドバイスがないか、パネリストに話題提供を求めました。

 

一杉氏 本日の4講演に共通することは、

 ・疾病の管理には薬剤が不可欠である

 ・自動車運転に支障のない薬剤を選択すべき

 ・選択にあたっては客観的なエビデンス(症状・副作用の証拠)を元にして、良好な選択をする

──の3点ではないかと感じました。

 エビデンスの面で、私自身、大変勉強になりました。

 

会場からの質問 フィンランドでは、死亡事故の10%が健康起因というお話がありましたが、日本の警察統計ではわずか0.07%です。大きな違いがありますが、なぜこのように差が大きいのでしょうか?

一杉氏 私は、10%という数字が妥当であり、0.07%というのは実態と乖離しているのではないかと思います。日本では死亡事故の剖検率が低いことと、剖検例の結果も反映されていないことが関係しています。失礼な言い方を覚悟すれば、現場の警察官の判断のみに頼りすぎていると言えます。

 フィンランドの論文を実際に読みますと、1件1件の交通事故を多くの関係者が集まり詳細に深く検討していることがわかり、信頼性が高いと考えます。この数字のギャップは、事故原因調査の姿勢の違いであり、日本の課題を示していると言えます。

 

◆添付文書にこだわらない議論を

津久井氏 添付文書についていろいろな意見がありましたが……

堀氏 添付文書がすべてをカバーできないという問題は今日の講義を聞いていて私自身も痛感しました。文書の記載はあくまで薬事法に基づく範囲であり、実際に処方する医師などの裁量権を縛っているものではないのです。

 車の運転への影響は、薬の側面からだけ見てはいけないという話題もありましたように、添付文書に縛られた議論をしないで、いろんな角度からみた、運転への影響を考えていくことが将来の改善に結びつくと感じました。私共の立場からすると、添付文書以外の情報提供の仕方を工夫し、アップデートの情報や本日のような論点についてもっとアクティブに伝える努力をしていくべきではないかと思います。

◆薬剤師の服薬指導の責任も大きい

津久井氏 今は、医薬分業がすすみつつありますので、薬剤師の指導のあり方も重要な課題となっているのではないでしょうか。

木津氏 薬剤師にとっては添付文書の位置づけは重いものがありますので、つい「添付文書通り」にという風になりがちの「堅い」面がまだまだあると思います。

 私自身、学生から実際に「明日試験があるけれど鼻炎の薬を飲んだ方がいいでしょうか」と相談を受けることがあります。鼻水や涙が出てどうしようもないが、試験のとき「眠くなるのも困る」という難しい課題です。このとき、「今まで、この薬を飲んだことがある?どの程度の眠気だった」といったことを聞きながら、一緒に考えていくことが一番大切だと考えています。

 一律に「副作用がある」ことだけを強調しすぎると、患者さんは「副作用があるなら飲むのを止めよう」となってしまう恐れもあります。一杉先生の指摘されたように「薬を飲まないことによる弊害」も避けなければなりません。ですから、これからの薬剤師は、患者さんの生活のパターン、どんな時間帯に運転をされるのかといったことを踏まえて、詳細な相談にきちんと応じていくことが大切だと思います。

◆イギリスでは事故時の眠気調査を重視

佐々木氏 運転の眠気に関しましては、例えばイギリスでは事故原因調査で「睡眠短縮の影響で眠気が発生し交通事故を起こしたのではないか」という側面で調査をしています。SRVA(Sleep Related Vehicle Accident) という考え方ですが、

 1 天気がいいのに事故が起こってしまった

 2 アルコールを飲んでいないのに事故が起こった

 3 車両に故障など問題がなかった

 4 スピードが出ていないのに事故が起こった

 5 警察が眠気の要因を指摘している

 6 ブレーキ痕がなかった

 7 道路から脱線するか他の車両の後部にぶつかる

といった7項目をチェックしていて、SRVAの事故が多いとして眠気防止のキャンペーンをしています。

一杉氏 わが国では、航空業界では詳細な事故原因調査をしていますが、自動車事故関連では、つくば地区で試験的にミクロ分析を行っている程度で、まだ不完全だと考えます。

 

会場からの質問 タクシー会社の運行管理者の者ですが、管理者の方から「この薬を飲んでいるなら運転を控えるように」、といった指導をドライバーにするのは、実際にはなかなか難しい面があります。

津久井氏 飛行機の乗務員管理では、自己申告が法で定められていて、第二世代の抗ヒスタミン薬などを服薬したあとも、飛行勤務につくには倍の時間を開けることになっています。つまり1日1回の処方であれば24時間の倍の48時間は開ければ問題はないという指導です。但し、それを判断する公的な医師がいますので、パイロットはやはり少し特殊でしょうが、運転者の眠気予防の指導として何か方向性はあるでしょうか?

 

一杉氏 先ほど木津先生、佐々木先生の講演をお聞きしていると、新しい第二世代の抗ヒスタミン薬に関しては、客観的にみて眠気が起こりにくいという点で、薬剤間でほとんど差がないというふうに感じました。皆さんもそうではないでしょうか。

 にも関わらず、添付文書では運転禁止の記載もあり、非常にわかりにくい。そこで、第二世代薬は運転上の注意程度に留めて、信頼性があるというような方向性を示して添付文書も整理していくと、指導する側もやりやすいのではないかと思います。

 

◆医師も薬剤師も問診の精度を高めていく努力が重要です

木津氏 確かに、文書は誰でも納得できる記載でないといけないですね。海外の実態も踏まえて、整理していくことも望ましいのではないかと思います。

 一方で、現実的な服薬指導を考えた場合、やはり、個々の患者さんとのコミュニケーションが今、重要だと考えます。

  たとえば、患者さんに「何か処方する薬以外に、別の薬を飲んでいますか?」とお聞きすると、飲んでいるという方が多いのですが、それを他の医師や薬剤師に伝えているかと聞くと「伝えていない」と答える方が非常に多いのですね。ですから、薬を併用している方が多いという前提で、抗ヒスタミン薬も飲み合わせの悪いものをチェックする必要があります。

 

一杉氏 主治医の役割も大きいと思います。医師・薬剤師がきちんと問診してその患者さんにいい薬をフィットしていくことが大切ですね。

 

木津氏 問診の精度を高めるのは難しいことですが、患者さんに対する多様な聞き方が求められます。

 「自転車に乗った時ふらついたことはありますか」

 「何かとろうとしたとき、アレっと、取り落としたことはありませんか」と色々な聞き方をします。また「眠くなったことがありませんか」という漠然とした聞き方ではわからないので、「飲んでからどれくらいたって眠くなりますか」という聞き方も必要です。

 薬が切れたはずの時間帯に眠くなっている場合は、別の原因で眠くなっている可能性もありますから。

 アンケートによると、今飲んでいる抗ヒスタミン薬を変更したことがある患者さんは非常に多いです。症状が緩和されなかったり、副作用に悩んだりして、皆さん切実なものがあります。一人ひとりの患者さんのそうした苦労により沿って、聞いていくことが大切です。

 

津久井氏 重要な服薬指導の示唆をいただき、ありがとうございました。今後の方向性として医学教育にも人間工学的な面を入れていただきたいですね。また、自動車事故調査について、精度を上げていくことを求めていきたいと思います。 

一杉氏 医師に対しては卒前教育だけでなく、実地医家への生涯教育として、自動車の運転に関する薬剤や疾病の影響について啓蒙していくことが大切だと思います。

津久井氏 今のお言葉をまとめとしたいと思います。長時間、ありがとうございました。

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