運転適性把握の重要性(2)─適性を欠く人を見逃していませんか?

 運転適性を把握する上で重要なことは、運転者の性格特性や運転特性だけでなく、本来、運転者としての適性を欠いている人を早期に発見することです。

 自動車運転死傷行為処罰法のなかに新たに危険運転致死傷罪の対象として、自動車の運転に支障を及ぼす「疾病の症状」「アルコール・薬物などの影響」が追加されたことは、よくご存知だと思いますが、最近、適性を欠く運転者による疾病や薬物に関連した悲惨な交通事故例が目立っているからです。

■免許を取得できない危険な疾病が見逃される危険

 このような事故を起こした運転者のなかには、本来、交通事故の免許を取得できなかったり、更新が制限される可能性のある人も隠れています(下表を参照)。

 このため道路交通法の改正によって、免許取得・更新時の質問票による調査と虚偽の申告に対する処罰が厳しくなりました。

●鹿沼市・クレーン車6人死亡事故  

 2011年4月、栃木県鹿沼市で26歳の男がクレーン車を運転中にてんかんの発作で意識を失い、小学生6人が死亡した。

【刑事罰】懲役7年

 

 

 過去にてんかん発作が原因の5件を含む12件の交通事故を起こしていたが、これらを隠し、虚偽の申告で免許を更新していた。前日の夜に抗てんかん薬を飲み忘れて発作を発症した。  
●福山市・登校児童4人重軽傷事故

 2011年5月、福山市の県道38歳の男が軽乗用車を運転中にてんかんの発作で事故を起こし、小学生4人に重軽傷を負わせた。

【刑事罰】禁錮1年

 

 

 過去に少なくとも2回、てんかん発作が原因とみられる事故を起こしていた。また、医師から運転を止められていたが、通勤が不便になるとして、更新の際に意識喪失の事実を伏せていた。  
●水戸市・追突7人死傷事故

 2011年8月、水戸市の国道で60歳代の男がインスリンによる低血糖症状に陥り、意識喪失発作を起こして多重追突、3人が死亡し4人が負傷した。

【刑事罰】禁錮3年

 

 

 以前(2009年)にも同様に、糖尿病の低血糖症状による意識障害から追突事故を起こしており、今回の事故を予見することができた。

 医師の指示に従わず、治療薬のインスリンを注射後に食事をしなかった。

 

■過去の物損事故なども軽視しないでチェックしよう

 「糖尿病」や「てんかん」などの既往がある運転者であっても、治療を受け、症状をコントロールできている人であれば、免許の更新などには何の問題もありません。

 ですから、疾病に対する偏見を助長しないよう注意する必要がありますが、問題は、医師の指示を守らなかったり、症状を隠して運転している人の存在です。

 

 これらの運転者は、大事故を起こす前に軽微な追突事故を起こしたり物損事故を起こすことが少なくありません。

 ですから軽微な事故であっても、事故を起こした運転者に対しては、事故原因を明確にして、適性を厳しく問うことが重要です。

 

 事故原因が明らかに「わき見」などのヒューマンエラーであったり、運転経験が浅いための操作ミスなどである場合は、原因に即した指導をすればよいのですが、「なぜ事故を起こしたのかよくわからない」といったケースは要注意です。

 一時的に意識を失う疾病などが隠れていないかチェックしてください。

 

 また。前回述べたように、自動車安全運転センターの発行する運転経歴証明書などで、過去の事故を調べることも重要です。

■多量飲酒癖や生活習慣の異常を早期に発見しよう

 「飲酒運転の根絶」を呼びかけてもなかなかゼロにならないのは「アルコール依存症」の患者が隠れているからです。

 アルコールや薬物の依存症も病気であり、「意志の力」ではコントロールできなくなっているので、精神科など専門医の治療を受ける必要があります。

 これらの人は運転者としての適性を欠いていますが、自覚のない場合が少なくないため、その多くは事故などを起こさないと発覚しないのです。

 

 事業所では、以下のような兆候に目を配り、依存症の疑いがある運転者には受診を指示しましょう。

 

 ● 多量の飲酒をする人間として知られている

 ● 酒の席のケンカやトラブルなどを起こしている

 ● 肝臓などの病気で少し長く入院した

 ● 休日は朝から酒を飲むという噂がある

 ● 目つきや顔つきが最近変化していると職場で話題である

 ● 普段は顔色が悪いが、急に興奮したり元気になる

 ● ハーブのような植物片を吸っているところを目撃された

 

■アルコール依存症患者の9割近くが飲酒運転の常習者

 中国新聞社が、広島県断酒会連合会の加盟11団体のアルコール依存症患者や元患者に行ったアンケート調査によると、回答のあった236人のうち、「飲酒運転の経験」があると答えたのは205人(86.9%)にも上っています。
 そのうち、137人(66.8%)が「日常的に繰り返していた時期がある」、59人(28.8%)が「数回」と答えており、この二つで95%以上を占めています(2012年の調査)。
 また、飲酒運転を繰り返した理由として、依存症の影響をうかがわせる「いけないと思ってもやってしまった」という意見が一番多くみられました。


■マンガでわかる「運転における健康リスク」

健康管理と安全運転

 この小冊子では、ドライバーが健康管理を徹底していなかったために発生したと思われる、重大事故等の6つの事例をマンガで紹介しています。

 

 各事例の右ページでは、垰田和史 滋賀医科大学准教授(医学博士)の監修のもと、日々気をつけなければならない健康管理のポイントをわかりやすく解説しています。

 ドライバーが健康管理の重要性を自覚することのできる小冊子です。

 

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