危険ドラッグの使用による交通事故

■今回の相談

 最近、危険ドラッグを使用して交通事故を起こすケースを報道で見聞きします。従業員に指導するにあたって、危険ドラッグの所持や使用、また使用しての運転はどういった罪に問われるのか複雑でわかりにくいので困っています。また、万が一ですが、従業員が危険ドラッグによる死傷事故を起こした場合には、会社はどういった責任を問われるのでしょうか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆危険ドラッグと自動車の運転

 いわゆる危険ドラッグの使用と、使用して自動車を運転した場合の処罰についてみると、大きく

  1. 「薬物の使用等自体に対する処罰」
  2. 「薬物を使用した状態で運転を行うことに対する処罰」
  3. 「同運転行為によって他人に被害が生じた場合の処罰」

に分けられます。


◆「薬物の使用等自体に対する処罰」

1・法律の規制

 薬物を規制する法律には、大麻取締法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、あへん法、毒物及び劇物取締法、薬事法などがあります。

 いわゆる危険ドラックと呼ばれる薬物との関係では、このうち特に薬事法において、中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物について、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて「指定薬物」とし、製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲受などを処罰の対象としています(第76条の4、第83条の9、第84条20号)。

 なお、薬物の使用等については両罰規定が定められているので(第90条)、使用等が会社の業務として行われているような場合(通常は想定できませんが)には、法人等の使用者も罰金刑による処罰が予定されています。

 しかし、当該薬物が危険であるとされても、「指定薬物」とされるまではどうしても時間がかかり、また指定されても成分等を一部変えるだけで対象外となってしまうという問題点が指摘されています。

2・条例による規制

 そこで、いくつかの都道府県においては、薬物の濫用防止に関する条例等の名称で、知事が指定する薬物について製造、栽培、販売、授与、所持、購入、譲受、使用等を罰則をもって規制する条例が規定されるようになってきており、そのような条例を検討している県も増えています。その規定の内容は少しずつ異なりますが、上記各法律に該当しないが危険な薬物を、知事が「知事指定薬物」に指定することにより規制の対象とするのが一般です。

 同条例による指定は、薬事法による指定よりも短期間で行われることになります。なお、条例では通常、知事が指定した薬物についての使用等について罰則も定められており、同条例に違反した場合、法律による規制と同様、刑事処罰の対象となります。

 以上のような規制は、自動車の運転の有無にかかわらず、薬物の使用等自体を処罰の対象とするものです。

◆「薬物を使用した状態で自動車の運転を行うことに対する処罰」

1・危険性帯有者

 道路交通法では、安全な運転に支障を及ぼすおそれのある病気や、覚醒剤や麻薬の中毒者など、将来的に事故を起こす恐れがあると考えられる一定の者を「危険性帯有者」とし、その者の住所地を管轄する公安委員会が、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は最大6か月まで、期間を定めて免許の効力を停止することができるように規定しています(第103条)。

 いわゆる危険ドラッグについては、直接その使用等が規定されているわけではありませんが、同条8項は「前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。」に「危険性帯有者」とすることを認めており、危険ドラッグの場合、同規定が適用されると考えられます。

 その是非や要件等については議論もあると思われますが、警視庁が同規定によって、交通違反等がなくても免許を停止する運用を始めるとの報道もあり、少なくとも危険ドラッグを所持していたり、過去に使用していたりという事情により、危険性が認められれば、自動車を運転していなくても、免許停止等の処分がされる可能性があると考えておくべきでしょう。

2・過労運転の禁止

 道路交通法第66条は、「何人も、前条第一項に規定する場合(酒気帯び運転)のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」と定めています。同条の違反には罰則が定められており、危険ドラッグの使用によって、正常な運転ができないおそれが有る状態に陥った場合、自動車を運転すると罰則の適用が可能です(危険ドラッグの場合は第117条の2の2第7号)。

 報道によれば、警視庁は本年8月以降、危険ドラッグの使用により、正常な運転ができないおそれがある状態で自動車の運転をしていた場合、同条に基づく現行犯逮捕を行う運用を始めたようです。

 なお、安全運転管理者を選任しなければならない「自動車の使用者」は、同条違反の運転を命じ、又は容認してはならず(第75条1項4号)、罰則もあります(危険ドラッグの場合は第117条の2の2第10号)。また会社の業務として行われていたような場合には、両罰規定により会社自身も処罰の対象となります(第123条)。

 なお、道路交通法にいう「薬物」は、上記の薬事法や条例の指定を受けていなければならないわけではないと解されますので、指定を受けていない危険ドラッグを広く含むと考えるべきでしょう。

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4月22日(月)

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