さる2016年1月15日、長野県軽井沢町でスキーバスが国道バイパスから転落し、15人が死亡、26人が重軽傷を負うという悲惨な事故が発生しました。
死亡者の多くが20歳前後の若者であり、遺族の悲しみは深く、非常に痛ましい事態となりました。
自動車の運行を管理する立場の皆さんは、この事故を他山の石として、背因として指摘されている点などを参考に、自社の安全運転管理や運行の管理に問題点がないか、今一度、チェックしてください。
事故の報道で目立ったのは、事故を起こした貸切バス会社で「点呼の未実施」などがあり、運行管理の基本が守られていなかったことです。
事業用自動車における点呼は法的な義務ですが、自家用自動車の事業所でも、安全管理上は朝礼やグループミーティングなどの機会に、出発前の運転者とコミュニケーションを深めることが極めて重要です。
点呼や朝礼をしないということは、その日の運転で注意してほしいことがあっても、伝える手段がないということです。また、運転者の体調や健康状態をチェックし、日常点検整備の結果などを聞く機会が失われます。
厳冬期のように道路状況や気象状況の変化が激しいときは、とくに出発時の指示が重要であり、迂回路などを知らせるときも地図を見せて具体的に指導する必要が生じます。
この事故では、運転者が高速道路から坂の多い一般道路に降りるなど予定にないルートを走行していたことも、事故の一因ではないかと指摘されています。
旅行会社の配布した経路図どおりに走行していれば転落事故は発生しなかった可能性があり、経路の選択は非常に重要であることがわかります。点呼や朝礼でその日の経路を確認することで、運転者が勝手にルート変更をする危険が防げます。
また、ミーティングの機会に経路を話題にすることで、他の運転者から「道路の工事」や「道路改変による混雑・危険の発生」などの情報を得ることがあります。
こうした情報を活かして混雑による遅延の可能性を指摘したり、事前に安全な経路への迂回を検討することなどができます。
転落事故の原因の一つとして、運転者がアップダウンやカーブの多い山道における大型自動車の運転操作に習熟していなかったのではないかという疑問点も指摘されています。
その正否はともかく、経験の浅い運転者には山道などの通行を避け、なるべく平坦な道を走行させることが管理者の役割です。
点呼・朝礼の機会があれば、その日の天候・道路状況と運転者の技量などを勘案して、「今日は路面状況が悪い。君はあの峠は慣れていないので、少し時間がかかってもよいから、平坦な国道◯号で行きなさい」など的確な指示をすることができます。
【こんな事故も起こっています】
●健康診断の結果を軽視し、「狭心症」発作から
観光バスの追突事故が発生
平成26年9月26日16時5分頃、貸切バスが乗客13名と添乗員1名を乗せて神奈川県平塚市の国道を走行中、車両故障により停止していた高所作業車に追突し、運転者(56歳)と添乗員の2名が重傷を負い、14名が軽傷を負う事故が発生しました。
国土交通省事故調査委員会の分析により、運転者が運転中に冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症の発作を起こし、左胸の苦しさから前屈みとなって前方から目を離し、その後視線を上げたところ停止していた作業車両が目前に迫っていて、急ブレーキを踏んだものの間に合わず追突したものと判明しました。
運転者などが健康診断で「不整脈」などの異常所見診断を受けた場合は、産業医に相談しましょう。また、従業員が50人未満で産業医を選任していない事業所は「地域産業保健センター」を利用できます(厚生労働省が所管)。
( ※ 最寄りの地域産業保健センターを探すには、各都道府県「産業保健総合支援センター」に問い合わせてください)
このほか、最近、主に自動車運送事業者を対象に運転者の健康管理を援助する団体なども発足し、セミナーや支援活動を展開しています。
上記の地域産業保健センターと違って有料のサービスですが、こうした団体に相談してみるのも一つの対策になるのではないでしょうか。
【関連記事】
■ バスドライバーの健康管理をテーマに講習会を開催 (2016年3月18日)
■ 貸切バスの安全確保の徹底について国土交通省が通達 (2016年1月16日)
■ 健康管理を徹底していますか? (2015年10月1日)
●ワンー・ツー・スリーで意識づける
朝礼・点呼時には、安全運転に役立つ情報を与えることが必要ですが、口頭で注意されてもドライバーの印象には残りにくいのが実情です。
点呼簿などに教育内容をメモして口頭で説明する管理者が多いと思いますが、それだけではインパクトに欠け、ドライバーの意識にも残りません。
シンク出版発行の「運行管理者のためのドライバー教育ツール」(貨物自動車運送事業者向け)は、イラストやキーワードを中心にした教育教材です。
ドライバーに「ワンー・ツー・スリー」のわかりやすいキーワードで印象づけて、安全運転ポイントを印象づける内容です。
「これなら、短時間で効果的な指導ができる」と現場の管理者にも好評です。
単行本「バス事業者のための点呼ツール」は、点呼の実施方法から実際に点呼をする際に役立つ「安全指導場面」を30場面収録した、バス事業者様のための点呼ツールです。
言葉だけでは伝わりにくい安全運転のポイントや注意事項も、イラストがあればより具体的に危険や安全運転ポイントをイメージすることができます。
また、近年改正された道路運送法や、運輸規則等の改正もわかりやすく解説しています。