「ながらスマホ」の死亡事故に求刑を上回る判決

トラック運転者の「ながらスマホ」による事故
時速80キロで、220mの間わき見走行

 

 運転中にスマートフォン(スマホ)で画面を見たりメール操作をしたりする、いわゆる「ながらスマホ」行為による交通事故が増加し社会問題化しています。

 重大事故も多発していることから、2019年には道路交通法が改正され、罰則が強化される見込みです(注1参照)。

 

 今回紹介する裁判例は、そうした罰則強化の動きを先取りしたともいえる判決です(2018年3月19日判決)。

 裁判長が検察の求刑を上回る判断を示したことで、注目されました。

 

【事故の状況】

 2017年11月21日午前10時55分ごろ、被告Aは高速道路上で大型トラックを運転中にスマートフォンのアプリを操作したり落としたスマホを拾うなどして約10秒間、前方の注視を怠ったまま時速約80キロで走行し、前方の渋滞中の車列に直前まで気づかず追突しました。

 この事故で乗用車を運転していた愛知県の会社員男性Bさん(当時44歳)を死亡させたほか、3台の車を巻き込んで4人にけがを負わせました。

  

【判決は2年8か月の禁錮刑──求刑の1.4倍

 検察庁は事故の被告としてAを過失運転致死傷罪で起訴し2年の禁錮刑を求刑しましたが、大津地裁の裁判官は、検察側が「ながらスマホ」による事故を過小評価していると指摘し、求刑を大幅に上回る禁錮2年8か月の実刑判決を言い渡しました。

【裁判所の判断】

■「一般的な過失運転の量刑では軽すぎる」と判示

ながらスマホ事故

 裁判長は次のように量刑理由を述べています。

 

運転中にドライブ計画アプリを立ち上げて

 入力し、約10秒間もわき見

 

 「被告は、左手に持ったスマートフォンを起動してドライブ計画アプリを立ち上げ出発地の入力操作をしたあと、スマホを床上に落としてこれを拾うなど、約10秒間もわき見をしていて事故を引き起こした。

(中略)……運転者としての基本的な注意義務に違反したことは言うに及ばず、通常の過失態様を逸脱する運転と評価すべきであって、犯行態様の危険性は極めて高い」と厳しい認識を示しました。

 

ながらスマホは量刑が重い

○ゲーム・遊びのアプリではなく、仕事用

 のアプリでも責任は重い

 

 さらに、「被告は、荷主先へのおおよその到着時刻を調べていたのであって、走行中にアプリを操作する緊急の理由はなかったから、通常の過失運転を逸脱するスマホ「ながら運転」を選択したことへの非難の程度は相当に高いというべきである。

 ……(中略)…… 閲覧していたアプリがゲーム用やエンタテインメント用のアプリではなく、一定の実用性のあるアプリであっても、被告人に有利に考えることは適当ではない」としました。

 

○ながらスマホ運転は、比較的新しい過失運転

 致死傷の類型であり、危険性が極めて高い

 

 また、検察官の求刑を上回った件については、「(検察は)スマホながら運転という比較的新しい社会的類型の危険性やその中での本件事故の危険性を過小評価している。……従来の過失運転致死傷の量刑傾向を前提として、これにとらわれたものと評価でき、求刑は軽すぎると考える。(中略)……(ながら運転に関する)名古屋地裁平成29年5月11日判決、名古屋高裁平成29年9月26日判決(注2)などを検討した結果、禁錮刑を相当長期間とすることが適当であると判断した」と述べています。 

【大津地裁 2018年(平成30年)3月19日判決】 

 ※判決概要は大津地裁判決文=事件番号平29(わ)471=より引用しました(裁判所ウェブサイト)。なお、

  控訴審の大阪高裁も2018年10月4日の判決公判で一審判決を支持し弁護側の控訴を棄却しています。

 

■注1■

 2019年1月28日開会の第198回通常国会に、道路交通法の一部改正案が提出される見込みです。

 

 警察庁が公表した改正試案によると今回の改正は次の2つが大きなポイントです。

 [1] 自動車の自動運転技術の実用化に対応した規定の整備 

 [2] 携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備 

 

[2]に関しては、携帯電話がらみの罰則など以下の3点が改正される見込みです。

  1. 運転中の携帯電話使用等に関する罰則の強化
  2. 携帯電話使用等に関する反則金の限度額の引上げ
  3. 携帯電話使用等(交通の危険※)を「免許の仮停止」の対象行為として追加

  ※「交通の危険」とは、携帯電話などを使用していて交通事故など道路における危険を生じさせた

  場合をさし、必ずしも携帯電話使用の運転者が事故を起こした場合とは限らず、他車に危険を生

  じさせた場合なども該当します。

 

[1]に関しては、自動運転の定義を明確にして、2020年をめどに整備が期待されている「レベ

 ル3」の自動運転を想定し、一定の条件の自動運転が確保された場合であって直ちに運転に復帰で

 きる態勢では、運転者がスマートフォンやナビゲーションシステムを凝視することを認める内容が

 含まれます。

  これは、自動運転技術への研究開発が進んでいる状況に対応するための布石であって、改正後す

 ぐに一般の運転者に影響が生じる項目とは言えません。

 

■1. 携帯電話使用等に関する罰則の強化

 (道路交通法第71条第5号の5の規定に違反した場合の罰則)

改正ポイント

携帯電話の使用等

(交通の危険)

携帯電話の使用等

(保持)

改正前

3月以下の懲役または

5万円以下の罰金

5万円以下の罰金keinisyose

改正後

1年以下の懲役または30万円以下の罰金
6月以下の懲役または 10万円以下の罰金

■2. 携帯電話使用等に関する反則金の限度額の引上げ

 (道路交通法第125条関係・別表2に定める反則金の限度額)

改正ポイント

携帯電話の使用等

(交通の危険)

 

携帯電話の使用等

(保持)

 

改正前

・大型車 2万円

・普通車 1.5万円

・小特等 1万円

・大型車 1万円

・普通車 8千円

・小特等 6千円

改正後

非反則行為となり

違反者には

罰則が適用される

・大型車 5万円

・普通車 4万円

・小特等 3万円


※法改正で変更となるのは「反則金の限度額」。2019年2月1日現在の反則金は、道路交通法施行令によっ

 て限度額の範囲内で定められ、実際には

 携帯電話の使用等(交通の危険)──大型車1.2万円/普通車9千円/小特等6千円

 携帯電話の使用等(保持)─────大型車7千円/普通車6千円/小特等5千円 となっています。


■3. 運転中に携帯電話を使用する違反をして交通事故を起こし、人を死傷させた場合は、免許の効力仮停止の対象とする

■注2■

 名古屋地裁 平成29年5月11日判決とその控訴審、名古屋高裁 平成29年9月26日判決

 

 平成28年8月11日に、愛知県春日井市で信号のない横断歩道を自転車で横断していた29歳の女性が、直前までポケモンGOゲームをしていてスマートフォンを充電しようとした26歳の男が運転する自動車にひかれて死亡するという事故が発生した。

 名古屋地裁の裁判官は、「運転中は運転動作に集中するという運転者としての基本的な姿勢をないがしろにしてスマートフォンの操作や機能維持(充電)を優先させた末に、著しい前方不注視の状態で本件事故を惹起したものといえ、単純な過失による事故とは一線を画する」として、禁錮2年6月を言い渡した(求刑 禁錮3年6月)。

 

 名古屋高裁も1審名古屋地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。  

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