運転経路の指導は万全ですか

■経路ミスから踏切事故が発生し、死亡災害につながる

運転経路の選択ミス

 

 さる9月5日午前11時40分ごろ、横浜市神奈川区の京急本線の踏切で、快速特急列車と大型トラックが衝突する事故が発生、トラックの運転者(67)が死亡し、30人以上の乗客がけがをしました。

 

 トラックは事故を起こした踏切を通過する予定はなく、運行の途中で経路を間違えたことから、狭い道に迷い込んでしまったと考えられています。

 急いで元の経路に戻ろうとして現場の踏切に入り込み、通過できずに電車と衝突したものです。

 

 事業所では運転者が慌てて危険な経路に入ってしまわないよう、この機会に朝礼や点呼での指導について再確認しましょう。 

こんな踏切事故が発生した

■運行ルートの走行経験はあったが、途中で違う道を行って隘路に入る

京急踏切事故

 

 大型トラック(13t)は5日午前中に横浜市内で果物を積み、国道15号を千葉県成田市に向かっていましたが、途中の交差点でUターンして首都高速道路に乗る経路を予定していたにも関わらず、この交差点で右折してしまい、京急電車の高架をくぐって狭い市街地道路に入りました。

 

 しかし、前方の道路は高さ制限2.8mのトンネルがあったので、線路脇の狭い道を通って広い道路に戻ろうとしたようです。

 最初は踏切前の交差点を左折しようとしましたが、道幅が狭く標識などに車体が当たりそうで、何度切り替えしても曲がりきれなかったため、右折して踏切から国道に戻ろうとしました。

 

 4分近くにわたって何度も切り返した末に、遮断機をくぐり抜けるように踏切に進入した後、何らかの理由で車が動けなくなったときに電車がやってきました。

 電車は衝突後60~70m近くトラックを引きずり、運転者は車外に投げ出されて死亡しました。衝突の衝撃で電車の先頭から3両目までが脱線し、子どもを含む乗客34名が怪我を負いました。

経路の指導を再度徹底しよう

■経路指導だけでなく踏切事故の防止防止策にも言及

朝礼・点呼における指導

 警察の捜査資料によると過去2回の運行記録から、死亡した運転者が同じ配送で国道の交差点をUターンし首都高を利用していたことが判明しています。

 今回、なぜ別の道に迷い込んだかは今後の調査・分析を待つことになります。

 

 現場には京急電車の社員2名も居合わせて、運転者と相談しながら数分間に渡ってトラックの切替しを手伝っていました。

 踏切内の障害物検知装置も作動していたので電車の自動ブレーキがかかるはずでした。

 このことから、国土交通省の運輸安全委員会は鉄道事故調査官を3名派遣して鉄道会社から事情を調査しています。

 

 同省は、トラック運送会社を特別監査し、事業用自動車事故調査委員会の「特別重要調査対象」としても事故原因を調査中ですが、取り急ぎ自動車運送事業者に対して経路の指導を徹底するように通達を発しました。通達では、以下の3つのポイントを徹底するように求めています。

 

1 点呼時での指導

 点呼時において、運転者に対し、通行な可能な経路を選択する等、事業用自動車の運行の安全を確保するための必要な指示を行うこと。

(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条関係) 

 

2 踏切事故の防止

 乗務員に対して、踏切内で運行不能となった場合は、非常押しボタンを押すなど速やかに列車に対して適切な防護措置をとるように指導すること。

(貨物自動車運送事業輸送安全規則第16条関係)

 

3 指導・監督の徹底

 運転者に対する指導・監督において、運転者があらかじめ運行経路についての情報を把握し、通行が困難な経路を避けるなど、適切な運行経路を選択するように促すこと。

 (貨物自動車運送事業輸送安全規則第16条関係)

■ベテランでも経路を熟知しているとは限らない

運転経路

 報道によると、事故を起こした運転者は所属する運送会社に昨年入社したということですが、トラックの運転経験は20年以上あり、ベテランドライバーと言えます。

 

 こうした経験豊かな運転者でも、経路ミスによって余裕を失い、事故を起こしてしまう可能性があるということに改めて気がつかされた事故です。

 管理者は、朝礼や点呼などで経路を再確認し、危険箇所などの指導をすることがいかに重要かを認識しておきましょう。

 

 なお、運転者が交差点でルート通りUターンしなかったのは、誤って右折したのではなく、国道が渋滞していて曲がりにくかったか過去にUターンしたときその後非常に時間がかかった経験などがあって、抜け道がないかと考えて右折した可能性もあります。

 

 そこで、経路の説明をするときには、経路を外れるとどのような危険があるかを具体的に知らせて(例えば高さ制限に引っ掛るので進行できない等)、そのルートを指定した理由を納得してもらう必要があります。

 

 さらに、経路を設計するときは距離だけを優先するのではなく、現場の道路をよく知る運転者の意見を聞いて、より安全で運転者にとって走行ストレスの少ない経路を選択することが重要です。

 

 なお、大型トラックやバス専用のカーナビゲーション等の場合、大型車通行不可の道路を避けて案内しますが、一般の地図アプリケーションなどでは道路規制はわかりませんので、安易にスマホアプリ等を使用すると狭い道に入りこんでしまう危険があります。

 

 今回のような事故事例を説明することで、抜け道やミスなどによる経路の逸脱が大きな事故に結びつく可能性をよく理解させましょう。

■豪雨時は経路上のアンダーパスに注意させよう

写真はイメージです。記事中の事故とは関係ありません
写真はイメージです。記事中の事故とは関係ありません

 また、京急踏切事故と同日の9月5日、三重県いなべ市にある鉄道をくぐるアンダーパス道路で中型トラックが水没し、50歳の運転者が死亡する事故が発生しました。

 

 三重県では前日の4日夜からの局地的大雨で川の増水や土砂災害に対する警報が発令されていました。

 現場のアンダーパスに進入したトラックは、雨水に満たされた道路で水没して進めない状態となり、運転者が午前1時40分頃会社の配車担当者に携帯電話でSOS通報した後は連絡が途絶え、午前3時に社員が現場に駆けつけたときには完全にトラックが水没した状態でした。

 翌朝の警察官による捜索で、運転者の死亡が確認されました。

 

 豪雨災害などの発生時には、たとえ定められた経路であっても、アンダーパスや川沿いの道路を避けて、平坦な幹線道路などを走行するように常日頃から指導しておくことが大切です。

 

 朝礼や点呼時には気象情報に注意し、大雨の予報であればアンダーパス等の通行を禁止して待機場所や迂回路を具体的に指示するように徹底しましょう。

■現場で迷ったら警察官に頼ることも指導

経路の管理・指導

 運転者が道路上で困難に出会ったとき、自分ひとりで解決しようとしないで、早めに警察官を呼ぶことも大切です。

 

 あるトラックドライバーが、鉄道高架手前の高さ制限標識を見落として、高架の直前で自車が通行できない危険性に気づき、立ち往生したことがありました。

 

 後方には渋滞車両の列ができ、追い詰められた運転者は「無理にでも行ってしまおうか」と一瞬思ったものの、鉄道事故を起こすと会社が潰れるという管理者の教えを思い出し、携帯電話で110番通報して事情を説明し助けを請いました。

 

 すぐにパトカーが現れ、警察官が後続車を脇に寄せる交通整理をしてトラックに対してはバック誘導し、高さ制限のない安全な道路に導いてくれました。

 警察官は違反キップを切らずに、高架の前で無理をせずにすぐ連絡してくれたのは良かったと言って、「標識に気をつけて行ってください」と見送ってくれたそうです。

 

 運転中に車が通れないような場所に迷い込むとパニックに陥りますが、落ち着いて対処すれば必ず道は開けます。

 京急踏切事故の場合も、運転者は荷物の遅れや自分のトラックが狭い道路を塞いでいることに責任は感じ慌てていたでしょうが、鉄道職員がすぐに警察官を呼び、気持ちを落ち着かせるように対処していれば、トラック運転者が命を失うことはなかったかも知れません。

■迂回路を間違えて隘路にはまることがある

西日本JRバスが迂回路を間違える

 高速道路が事故や災害などで途中から通行止めになったり、大規模な渋滞が発生して、やむを得ず高速を降りて迂回路(うかいろ)を走行するといったことがあります。

 こうしたケースで運転者が迂回経路の選択を誤る場合もありますので注意しましょう。

 

 2018年8月26日の夜、定期運行の高速バスが、阪和自動車道の20km渋滞を迂回するため和歌山県内でインターチェンジを降りて迂回路として指示された県道に入ったものの、運転者が途中で分岐を間違えて狭い山道に入り込み、立ち往生した事例がありました。

 

 山道は崖沿いで、道幅は車1台通るのがやっとでしたが、バスがカーブミラーに当たってサイドミラーが脱落したり、車体がガードレールや岩と接触したりしたため、転落の恐怖を感じた乗客から停車を求める声が上がり、約1キロ山道を進んだ場所で午後8時ごろ動けなくなりました。

 

 幸い乗客38人にけがはなく、バス会社が手配したタクシーで自宅に送り届けられました。

 残ったバスは和歌山県警署員の誘導を受け、車体をこするなどしながらなんとか脱出し、サイドミラーの修理などをしてバスが大阪市内に戻って来たのは翌日午前2時ごろだったそうです。バス運転者がこの迂回路を走行したのは今回が初めてで、途中のY字路で道を間違えたようです。

 

 バス事業者では、再発防止策として、運転手が進路を間違えたと感じた場合には安全な場所に停車し、運行管理者に連絡して指示を仰ぐように周知しました。

【参考】

■「貨物自動車運送事業者が運転者に対して行う指導・監督の指針」

 (7)適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通の状況

当該貨物自動車運送事業に係る主な道路及び交通の状況をあらかじめ把握させるよう指導するとともに、これらの状況を踏まえ、事業用自動車を安全に運転するために留意すべき事項を指導する。この場合、交通事故の事例又は自社の事業用自動車の運転者が運転中に他の自動車又は歩行者等と衝突又は接触するおそれがあったと認識した事例(いわゆる「ヒヤリ・ハット体験」)を説明すること等により運転者に理解させる。
道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号)第2条、第4条又は第4条の2について同令第55条の認定を受けた事業用自動車を運転させる場合及び道路法第47条の2第1項に規定する業用自動車を運転させる場合及び道路法第47条の2第1項に規定する許可を受けて事業用自動車を運転させる場合は、安全に通行できる経路としてあらかじめ設定した経路を通行するよう指導するとともに、当該経路における道路及び交通の状況を踏まえ、当該事業用自動車を安全に運転するために留意すべき事項を指導し、理解させる。

 

■「旅客自動車運送事業者が運転者に対して行う指導・監督の指針」

 (6)主として運行する路線若しくは経路又は営業区域における道路

 乗合バスの運転者にあっては主として運行する路線、貸切バス及び特定旅客自動車運送事業の事業用自動車(以下「特定旅客自動車」という) の運転者にあっては主として運行する経路、一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車 (以下「ハイヤー・タクシー」という) の運転者にあっては営業区域における主な道路及び交通の状況をあらかじめ把握させるよう指導するとともに、これらの状況を踏まえ、事業用自動車を安全に運転するために留意すべき事項を指導する。この場合、交通事故の事例又は自社の事業用自動車の運転者が運転中に他の自動車又は歩行者等と衝突又は接触するおそれがあったと認識した事例 (いわゆる「ヒヤリ・ハット体験」) を説明すること等により運転者に理解させる。
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