積荷の梱包材が傷んだ際の賠償責任

弊社は家電量販店から委託をうけて、家電を専門に運搬している運送事業所です。先日、家電量販店から「お客様から梱包のダンボールに凹みがあったとクレームがきたから、賠償してくれ」と言われたのですが、中身の商品が壊れたならまだしも、ダンボールをはじめとした梱包材まで完全に保護する必要はあるのでしょうか?

■商品の破損による賠償請求

 運送事業者が商品を運送したことにより商品が破損した場合、通常は運送事業者が注文者に対して生じた損害を賠償する必要があります。

 

 運送契約の内容や注文者の指示等によっては、運送事業者が契約を解除されたり、再配送する義務を負ったりすることもありますが、いずれにせよ運送事業者が運送中の破損の危険を負担するのが原則です。

 

 ただ、商品自体には破損がないのに、外装の破損だけを理由として運送事業者が損害賠償義務を負うかという点については、必ずしも明確に定まっているとはいえません。

■外装の破損の問題

 そもそも、商品を梱包しているダンボール等の梱包材の破損について、わずかな破損で運送事業者が全て責任を負うとすると、その責任が重くなりすぎます。

 

 通常の運送の過程では、積荷に対してある程度の物理的な衝撃が加わることは予想されるのであり、そもそも商品を梱包材等で荷造りするのは、そのような衝撃等から商品本体を守るためのものです。逆にいえば、梱包材等については、ある程度破損や汚損することがあることは前提とされているといえます。

 

 しかし他方で、近年の消費者意識の高まりなどからすれば、外装にわずかな破損や汚れがあっただけでも、その商品価値が落ちてしまうということも考えられ、特に食品や飲料等については、外装の破損や汚損によって消費者が購入しなくなってしまうことがあるといえます。

 

 交通事故の裁判例にも、積荷の全てが商品として販売することを目的とした調味料等の食料品であったケースで、まだ使える商品が残っていたとしても、食料品という性質上、積荷の全てが商品価値を完全に喪失して全損となったと評価するようなものもあります。

■外装の破損の責任

 梱包材等の外装自体も運送を委託した商品の一部であると考えれば、外装破損の責任も運送事業者となりそうですが、運送時に梱包材等に全く傷を付けないよう対応しなければならないとすると、運送事業者に多大な負担となります。

 

 貨物自動車運送事業者は、国土交通省が定めた標準貨物自動車運送約款を自社の運送約款とすることで認可を受けたものとみなされますが(貨物自動車運送事業法第10条第3項)、同約款の第11条に「荷送人は、貨物の性質、重量、容積、運送距離及び運送の扱種別等に応じて、運送に適するように荷造りをしなければなりません。」とされており、運送に適する荷造りは荷送人の義務とされています。

 

 荷造りは荷送人の義務ですので、運送事業者が梱包も請け負うような契約内容であったり、外装の破損も運送事業者が責任を負うという契約内容であったりしない限りは、通常の運送の過程で外装に汚れや破損があったとしても、商品自体に破損等がなければ運送事業者は責任を問われないことが原則です。質問のような場合も、商品自体に問題がなく、ダンボールの凹みが具体的に商品価値を落とすようなものではない場合には、原則として運送事業者が責任を負う必要はないといえます。

 

 しかし実際には、商品自体が破損等していないにもかかわらず、外装が破損していることを理由に荷受人に受取を拒否される事例も少なくないようです。

 

 なお、外装の破損については、運送事業者が責任を負う貨物事故のうち、約3割が商品自体には異常がない「外装異常」によるとの調査結果(平成26年全日本トラック協会調べ)があります。

■外装破損に対する対応

 事実上運送事業者に外装破損等の責任が負わされることがある現状などをふまえ、国土交通省、国税庁、農林水産省、経済産業省、中小企業庁など、飲料メーカーや運送事業者を所管する関係省庁などで共同主催する「飲料配送研究会」は、2019年7月26日、飲料配送研究会報告書を取りまとめ、飲料配送で包装資材の傷や汚れについて輸送・保管などに支障をきたす場合を除き商品としての販売を許容すべきだとする指針をまとめています。

 

 同報告書では、配送中の貨物の毀損範囲と損害賠償の対象範囲についてメーカーが合理的な基準を設け、運送事業者と共有することを要請し、併せて、標準貨物自動車運送約款の適用細則に、毀損に伴う損害賠償の対象範囲は実際に毀損した商品に限定されることを盛り込みました。

 

 同報告書では、段ボールなど包装資材の扱いについて、商品である中身が毀損していなければ、包装資材に傷や汚れがあっても、輸送・保管などに支障をきたす場合を除き、そのままの荷姿で販売することは許容されるべきだと提言しています。

 

 また、これまで貨物の毀損範囲はメーカー側だけの判断によることが多かったのを改め、包装資材の外観などから毀損範囲を推定する場合、飲料メーカーが合理性のある判断基準を作成し、あらかじめ運送事業者との間で共有した上で、それに従って毀損範囲を決めることとしています。判断基準が作成・共有されていない場合には、必ず運送事業者と協議の上、毀損範囲を決定すべきとしています。

 

 さらに、標準貨物自動車運送約款の適用細則では、毀損に伴う損害賠償の対象範囲は、実際に毀損している商品に限るとしています。

 

 以上の報告書は、飲料配送についてのものであり、必ずしも拘束力をもつものではありませんが、飲料以外の運送契約においても、標準貨物自動車運送約款だけではなく、関係者間においてその解釈等も個別に協議し、外装破損の責任や、返品のルール等を明確にしておく必要があります。

 

 実際には商品や外装の性質、メーカーから顧客までの運送・流通の経路、等にはいろいろな考慮要素があるため、具体的な基準等を定めるのが難しい面はありますが、通常の運送の過程で生じた外装の破損についての責任の有無、あるいは破損の程度による場合分け等、関係者間で事前に協議し、契約書で責任の範囲と所在を明らかにしておくべきです。

 

 また、荷送人との関係では外装破損の協議が出来ていたとしても、荷受人が拒否することもありますので、関係者全てとの間で協議をしておくべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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