物損事故でも事故報告を怠らない

 交通事故といえば人身事故を指し、軽微な物損は事故に入らないと思っているドライバーも少なくありません。

 車同士の物損事故の場合、事故を調べた警察官も「事故証明書は発行されますから、後は当事者で相談してください」といって帰ってしまいますので、ドライバーは人身事故に比べて軽視しがちです。今回は、物損事故の問題を考えてみましょう。

「軽微な事故なら~」という甘えから事故隠し

 さる8月、N市で市営バスが起こした物損事故100件以上を営業所が相手方や警察に報告せず、その一部は相手方に連絡しないまま、「示談が成立した」などと事故報告書に虚偽の内容を記載していたことが、市交通局の発表により明らかになりました。内部調査で判明したものです。

 

 交通局では「縁石やガードレールなどに傷が無ければ、相手側と警察に報告しなくてよいと判断していた。今後、報告するように対応を改めたい」と述べています。虚偽報告などを含めて、物損事故に対する甘い考えが根底にあったことは間違いありません。


 同市交通局では、道路交通法違反の疑いにより全営業所で警察の捜索を受けました。

物損事故でも報告義務がある

 運転者は、たとえ物損事故であっても警察署(警察官)に事故を報告する義務があります(道路交通法第72条第1項)。これには車両単独事故も含まれます。


 ただし、道路以外の場所(私有地など)で起こった事故は交通事故には含まれません。管理された工場構内などでトラックが建屋のシャッターに衝突した破損した程度の事例まで報告義務があるわけではありません。


 警察への交通事故報告を怠ると、道路交通法第72条の違反()に問われる恐れもありますが、何より社内でも報告を怠るようになり、「事故隠し」傾向が広まる危険性があります。

 物損事故も必ず警察官と上司に報告することを徹底しておきましょう。

物損 → 人身事故に変わることは少なくない

 追突して相手車のバンパーが凹んだ程度であり、相手方ドライバーも「大丈夫です」と言うので物損事故だと思い込んでいたところ、後日、「ムチ打ち症状が発症した」と言われ人身事故に変わることは少なくありません。


 きちんと事故を警察に届けていた場合、事故調書(物件事故報告書)があれば物損を人身に切り替えることは可能ですが、事故の届けがない場合は大変です。

 物損事故では実況見分調書は作成されませんが、診断書などを根拠にして、人身事故に切替え申請をすることができます。

 

 その場しのぎの金銭のやりとりで済ませていたものが大きな補償に変わる可能性もあり、保険会社も事故報告がないと免責を主張しますので、話がこじれてトラブルのもととなります。

物損事故は隠されやすい

 しかし、なぜ、市バスのような公共交通機関で事故隠しが発生したのでしょうか。


 その背景には、「交通事故として報告すると、事業所が無事故表彰から外される」「事故防止委員会にかけられるので担当者が面倒だ」「指導担当者の人事考課に影響する」といった心理があることが考えられます。


 また一方で、ガードレールや電柱などは口をきけないので、「隠しやすい」という面があるのも事実です。「停車時に他車に当てられた、誰かに当て逃げされた」という言い訳も成り立つからです。

物損隠しはやがて人身事故に結びつく

 しかし、たとえ結果は物損でも、現実に車両が「当たって」いるわけですから、原因を精査し事故の再発防止指導をしないと、いずれそのドライバーは大きな人身事故を起こす可能性があります。


 実際に、助手席のオーディオプレイヤーにわき見をするクセがあり、軽微な追突物損事故を起こしていた運転者が、3か月後に「わき見運転」で保育園児の列に突っ込み、4名を死亡させた事故事例もあります(川口園児死傷事故)。

細かい物損事故を真剣に取り上げよう

 物損事故報告を徹底するためには、以下の点をもう一度見直しておきましょう。


① 法的義務の周知徹底
 交通事故は物損事故でも、法的な報告義務があることをドライバーを含めた全従業員に徹底して指導しましょう。


② CSR=社会的な責任の自覚
 事業活動のなかで道路交通を利用し利益を得ている企業が、交通事故隠しをすることは企業の社会的責任からみると重大な問題です。この点をアピールしましょう。

 事故を隠す企業は、取引先・市民・消費者からの信頼を失います。


③ 人身事故の芽を摘む
 物損事故も事故であり、たまたま人に当たらなかっただけです。物損事故を軽視して放置すると、やがて大きな人身事故につながるということを強調し、事業所全体の意識を高めましょう。


④ 車両の点検、清掃などに管理者が立ち会う
 物損事故は車両のキズなどに現れます。定期的に車両清掃などを行い、管理者や他のドライバーが立ち会って点検することで、軽微な物損事故を発見しましょう。

 事業所によっては、管理者が車庫の車を1台ずつパトロールして報告のない物損事故の有無を調べている例もあります。


⑤ 無事故表彰の基準を柔軟にする
 物損事故を1件でも報告すると表彰が全くなくなるような規定を改め、物損事故と人身事故を区別している事業所もあります。軽微な物損事故の場合、表彰の過程では事故カウントするか柔軟に判断し、迅速な報告と再発防止策の策定を評価すると効果があります。

 

*道路交通法 第72条第1項 後段
 交通事故があつたときは、(中略)……その車両等の運転者等は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に、当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

【罰則】3月以下の懲役または5万円以下の罰金
【交通事故の定義】車両等の交通による人の死傷もしくは物の損壊があったとき
 (道路交通法第67条による)

(2011.10.31更新)

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