駐車場で人身事故を起こしたら…

弊社では時々、駐車場内で軽い物損事故が発生しています。もし、駐車場で人身事故を起こした場合、刑事責任や被害者への賠償責任といった民事責任は当然のこととして、免許停止といった道路交通法による行政処分は適用されるのでしょうか?駐車場で人身事故を起こしてしまった場合に、会社やドライバーがとるべき行動や、かかってくる責任について教えてください。 

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆駐車場での事故の責任

 道路交通法上の道路は、道路法第2条1項に規定する道路(いわゆる公道)、道路運送法第2条第8項に規定する自動車道(専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のもの)のほか、「一般交通の用に供するその他の場所」も含みます。

 

 そのため、駐車場が私有地であっても、交通の状況からみて、不特定の人や自動車が自由に通行できる場所で、現実に通行に使用されている場所であれば、道路交通法上の「道路」とみなされます。実際には多くの駐車場が道路交通法上の道路とされると思われます。

 

 自動車を運転して、人身事故を起こした場合、通常、運転者に生じる法的な責任としては、1・刑事上の責任、2・民事上の責任、3・行政上の責任が考えられますが、駐車場が道路交通法上の道路とされる場合には、これらの責任は基本的にいわゆる公道における事故と変わらないと考えるべきです。

 

 一方、進入するのに管理者の許可を要するなど、不特定多数の者が自由に通行できないような場合には、道路交通法上の「道路」に該当しないことになります。

 

 以下では、道路ではない駐車場で人身事故を起こした場合について検討します。

◆1・刑事上の責任

 通常、交通事故における刑事責任としては、その生じた人身事故の態様や傷害結果によって、刑法上の責任、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律による責任、道路交通法上の責任が生じます。

 

 このうち、駐車場が道路ではない場合であっても、自動車運転過失致死傷などの被害者に生じた死亡や、けがの結果についての責任には変わりはありません。道路交通法上の道路でなかったとしても、自動車の運転によって死亡や傷害の結果が出た以上、刑事責任に問われます。

 

 なお、道路交通法上の刑事責任とは、道路交通法上の義務違反に対して懲役刑や罰金刑などの刑事罰が規定されているものをいいます。例えば負傷者の救護義務(第72条第1項前段)や、警察への報告義務(同後段)などは、道路上での事故の際の義務を定めている規定であり、道路ではない駐車場では適用されず、同条項違反による刑事罰は科せられないことになります。

 

 実際にも駐車場などで起きた事故について、道路交通法第72条1項の「交通事故」にあたらず、警察への報告義務等がないとされた裁判例があります(東京高裁平成17年5月25日、松山地裁平成21年7月23日、大分地裁平成23年1月17日など)。

 

 ただ、具体的な場合に、事故の場所が道路交通法の適用を受けるのかどうかを判断することは難しく、また道路交通法上の文言にあたらないだけで、自動車運転過失致死傷などを免れるわけではないため、実際に事故が生じた場合には、速やかに救護や警察への報告等は行わなければなりません。

◆2・民事上の責任

 民法上の不法行為責任、使用者責任、自賠法の運行供用者責任等の損害賠償責任については、特に人身事故の場合には、治療費等の損害額は事故が起きた場所で変わるものではありません。

 

 そのため基本的には道路ではない駐車場であったからといって損害額が軽減される理由がなく、基本的にその責任は変わらないといえます。

 

 ただし、道路ではない駐車場には、道路標識等もなく、優先道路等が決まっているわけでもないことが多いため、駐車場内の交差点での事故の場合など、その過失割合の算定が難しくなる場合があります。

 

 また、道路ではない場所での事故の場合、原則として自賠責保険による賠償の対象にならない場合や、任意保険でも利用できない場合もあり、事故を起こした者が事実上負担しなければならない額が多額になることもあるため、注意が必要です。

◆3・行政上の責任

 交通事故が生じた場合の行政上の責任の根拠は道路交通法ですので、道路ではない私有地などで速度超過や一時停止違反等(そもそも制限がないと思われますが)をしたとしても、行政上の責任は生じません。

 

 しかし、人身事故が起きた場合には、道路外であっても責任が生じることになります。人身事故を起こした場合、すなわち死亡や傷害の結果が生じた場合には、道路交通法自体が、その第103条第1項第7号で、道路外致死傷の場合に運転免許の取消しや停止をすることを規定しており、道路外の人身事故があった場合の行政上の責任を想定しています。 

 

 上記のように、道路ではない駐車場の事故なので、道路交通法上の刑事責任が生じない場合であっても、行政上の責任は別であり、人身事故が生じている以上、免許停止や取消しの処分の対象になるのです

 

 そのため、人身事故の場合は、行政上の責任についても責任を負うことになります。

◆駐車場で人身事故を起こした場合に取るべき行動

 以上からすれば、駐車場内の事故であっても、人身事故においては各責任に大幅な変わりはないと考えておくべきであり、事故が生じた場合には、通常の交通事故と同様の義務が存すると考えて行動すべきです。

 

 なぜなら、まずそもそも道路交通法上の道路かどうかの判断は種々の要素を考慮してなされるものですので、その場で一般的に判断することは困難といえます。

 

 また、道路ではないとして報告義務違反等が処罰されない場合があったとしても、実際に死亡や傷害の結果が出ているのですから、被害者の救護や警察への報告をしないで良いわけではないことは当然です。

 

 その場合、道路交通法上の刑事責任が認められなかったとしても、自動車運転過失致死傷の情状がその分重くなったり、本来行わなければならないことを怠ったことによって、被害が拡大してしまって損害賠償の金額が増大したりするなどの不利益も充分考えられます。

 

 

 そのため、駐車場内で人身事故を起こしてしまった場合も、負傷者の救護や警察や救急車への速やかな連絡等、通常の交通事故と同様の対処をしなければなりません。

(執筆 清水伸賢弁護士)

>> 過去の安全管理法律相談へ

今日の安全スローガン
今日の朝礼話題

12月10日(火)

サイト内検索
運行管理者 安全運転管理者 出版物 教材

──新商品を中心に紹介しています



──ハラスメント、ビジネスマナー教育用DVDを好評発売中です

運行管理者 指導監督 12項目 トラック 貨物運送事業所
交通安全 事故防止に役立つリンク集
安全運転管理.COM 交通安全 事故防止 安全運転管理 運行管理 教育資料 ドライバー教育 運転管理

当WEBサイトのコンテンツの利用、転載、引用については「当サイトのご利用について」をご覧ください。

弊社WEBサイト、出版物においては「普通自転車」を「自転車」と表記しております。

詳しくはこちらをご参照ください。