先日新聞で、ごみ収集車が小学生を死亡させた事故で、ごみ収集業務を業者に委託していた市の責任を認める判決がありました。今回の裁判例に限らず、車両の運行を伴う業務を委託する場合には、委託した側にも運行供用者責任が発生すると認識していますが、具体的にどこまでの安全配慮を委託先に対して行うべきなのでしょうか?
日常生活、あるいは企業活動等においては、いろんな契約がありますが、ある業務を他者に対して委託する場合、業務委託契約という契約が結ばれることがあります。
しかし、一口に「業務委託契約」といっても、その内容は契約当事者である会社等の性質や、委託する業務の目的や内容等によって様々なものがあります。他人の労務を利用する契約には、「請負」「委任」、あるいは「雇用」など、民法その他の法律に規定され、その内容や要件・効果等が定められている契約がありますが(これらを典型契約といいます。)、内容としては請負契約、あるいは委任契約なのに、「業務委託契約」という表題がついている場合もあり、また典型契約のいくつかの要素が複合されていることが多いといえます。
例えば、ある業務を完成させるために委託するが、業務が継続している間にも報酬が発生するような契約の場合、請負(家の建築など当事者の一方が仕事の完成を約束し、もう一方が結果に対して報酬を支払う契約)的要素と準委任(ビルの清掃など、一方がある事実行為を他方に委託し、他方はそれを承諾する)的要素が混合しています。
上記のように、業務委託契約は、契約ごとに内容の違いが大きく、その責任の範囲も変わってきます。例えば委託者は基本的に委託先に業務のやり方等を全て任せて、指示等を行わないような契約の場合と、委託者が委託先に対して事細かく指示をし、指揮命令関係が確立しているといえるような契約とでは、委託者の責任の範囲も異なり、委託者と委託先に指揮命令関係が認められるような場合には、委託者に使用者責任が発生することも考えられます。
また業務委託契約の内容が、車両の運行を伴う業務であり、委託者が運行を支配し、運行による利益を得ていると認められるような事情があれば、委託者が運行供用者責任を負うこともあります。
業務委託契約の内容は契約毎に異なるため、委託者が委託先に対してどこまで安全配慮に関する対応をすべきかについても、契約内容によって変わってきます。
しかし、車両の運行を伴う業務において、委託者に運行供用者責任が認められるような場合には、委託者は委託先に対し、運行供用者責任が免責される程度の安全配慮の措置を採ることが理想といえます。
すなわち、運行供用者責任の免責事由は、
などがあり、これらを委託者において立証できるようにしておかなければならないということになります。
まず、業務委託契約における業務に関する危険を予測しておく必要があります。その上で委託先とも協議し、業務委託契約に基づく実際の業務内容の確認や、従業員(委託者、委託先それぞれ)の安全教育体制、車両整備体制を定めることもすべきです。
運行供用者責任を負うとしても、業務委託契約上、それらの対策の実行者が委託先となる場合もあると思われますが、少なくともそれらの対策を行うことを契約上の義務として定めたり、また実際に事故等が発生した場合を想定し、責任の範囲や求償関係について協議したりすることも考えられます。
具体的な業務が行われている最中も、運行ルートや従業員の勤務状況等、安全配慮に関する対策についての確認を怠らないようにすべきであり、各種の報告を受けたり、必要な指導等をしたりすることも検討します。
委託先の業務体制や従業員の勤務に関することなどについての対策は、当然委託先自身が行うものであり、委託者が指示等を行うべきものではないとも考えられますが、業務委託契約の具体的な内容において、少なくとも上記の免責事由の①及び③について、委託者として必要な改善等ができるような点は、十分に対応しておくべきです。
実際に事故が生じ、委託者に運行供用者責任が問われ、免責が認められなかった場合には、委託先も交えて、再発防止策を十分に検討することになります
また、第三者に対する賠償後、委託先との間の損害賠償の求償関係についても再協議することも考えられるでしょう。
質問の裁判例が、いかなる事情の下に市の責任を認めたかは明らかではありませんが、ごみの収集業務は当然車両の運行が行われることが想定されます。このような業務委託契約を行う場合には、委託側も十分な安全対策を検討し、委託先へ事故防止を徹底するなどの対応が必要といえます。
(執筆 清水伸賢弁護士)