交通事故で後遺障害が残りました

弊社の従業員が歩行中に事故にあい、手の神経に障害が残ったため後遺障害14級が認定されました。相手方の保険会社からは休業損害等をはじめとした慰謝料を支払うと言われているようですが、後遺障害が認定された場合、どのような損害金と慰謝料を請求することができるのでしょうか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆後遺障害とは

1・後遺症と後遺障害

 交通事故で傷害を負った場合、治療を継続してもこれ以上状態が変わらず、機能障害や神経症状などの症状や障害が残ることがあります。いわゆる後遺症といわれるものですが、後遺症のうち、将来的にも元の状態に戻らないと見込まれ、労働能力の喪失を伴う症状があるものは後遺障害といわれます。

2・後遺障害等級とは

 後遺障害は、具体的な症状に応じて1級から14級までの等級で分類されます。1級は、両眼の失明や両腕を失うなどの重大な障害で、


そこから等級の数字が大きくなるほど障害の程度は軽くなっていきます。

 

 自賠責保険では、各等級によって慰謝料額が定められており、また自賠責保険の範囲を超える損害賠償額も、等級によって変わってきます。

 

 なお、一般的には14級に満たない程度の後遺障害は、自賠責保険などの対象にはなりません。損害賠償請求の訴訟などでも比較的認められない場合が多いですが、具体的な症状や障害による労働能力の低下の程度等の主張によっては、裁判所が一定程度の損害賠償を認める可能性はあります。

◆後遺障害に関する損害賠償

 後遺障害に関する損害賠償は、大きく(1)後遺障害慰謝料(2)逸失利益(3)その他があります。

1・後遺障害慰謝料

 後遺障害を負ったこと自体に対する慰謝料です。交通事故の傷害により、入通院した日数に応じて慰謝料の請求ができますが、後遺障害慰謝料は、それとは別に請求できるものです。

 

 なお、自賠責保険から後遺障害等級によって支払われる後遺障害に対する慰謝料は、現在では原則として1級で1100万円~1600万円、14級で32万円と定められています。ただし、同各金額と、実際に相手に後遺障害慰謝料として請求できる損害賠償額は一致しているものではありません。

 

 例えば訴訟などで相手方に後遺障害に基づく慰謝料請求をする場合には、実務上、裁判所は

判例などから導き出される基準を参考にします。この場合の基準によれば、14級の後遺障害慰謝料は110万円とされています。


2・逸失利益

 後遺障害を負ったことによって、労働能力が低下します。そうすると、思うように働けないので、当然将来に渡って、本来得られるべき収入を失うと考えられます。これを逸失利益といいます。

 

 実務では、逸失利益の算定における労働能力喪失の程度は、後遺障害等級の分類に応じて決められています。

 

 労働能力喪失の程度の基準は、1級~3級は100%で、以下段々と値が小さくなっていき、14級では5%となります。

 

 逸失利益の損害額の具体的な算定方法は、(A)基礎収入(年収)×(B)労働能力喪失割合×(C)喪失期間に対するライプニッツ係数です。

(A)の基礎収入は、具体的な収入額を基本としますが、学生などの場合は、平均賃金で算定することがあります。

 

(B)の労働能力喪失割合は、上記の後遺障害等級に応じた割合です。

 

(C)のライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。

 

 本来であれば、上記の基礎収入に労働能力喪失割合をかけた数字に、就労可能期間(一般的には事故時から67才までの、働くことが出来るであろう期間)をかけたものが、損害賠償額となるはずです。

 

 例えば、30才で年収400万円の人が、14級(労働能力喪失割合5%)の後遺障害を負った場合であれば、逸失利益は400万円×5%×37年=740万円となると思われます。

 

 しかし、この740万円は、本来は37年かけて得られるべきものです。それを一度に受け取れば、その740万円を37年かけて運用して利息等を受けることができ、その場合、被害者の利益が大きくなりすぎるという点の指摘があります。

 

 そのため、将来受け取るはずの金銭を前倒しで受けとることにより得られた利益を控除するために使う指数が、ライプニッツ係数です。

 

 上記の例でいえば、37年のライプニッツ係数は、16.711とされますので、400万円×5%×16.711=3,342,200円が、逸失利益としての損害賠償額となります。

 

 なお、いわゆるむち打ち症の場合には、さらに労働能力喪失の期間が短縮され、係数が低くなることがあります。

3・その他

 後遺障害の内容によっては、付添看護が必要な場合や、車椅子や義肢などの装具、家をバリアフリーに改造しなければならないなど、後遺障害と相当因果関係が認められる支出が必要になることもあります。

 

 これらの内容はケースによって様々ですが、このような費用も、後遺障害に関する損害賠償として請求することができます。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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