全損した営業車の修理費用が全額補償されません

弊社の営業車が高速道路で追突され、全損してしまいました。しかし保険会社からは時価額以上の補償はできないと言われ、大変困っています。何とか補償してもらうことはできないでしょうか? 

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆全損の場合の損害賠償

 いわゆる全損とは、文字通り全部が損傷し、修理不可能となったような場合と、修理は可能だが、修理費が時価額を上回る場合があり、前者を物理的全損、後者を経済的全損ということもあります。

 

 我が国における損害賠償請求の基本的な考え方は、実際に生じた損害を賠償するものです。海外では、不法行為等を行ったこと自体に制裁的意味合いを持たせて、実際に生じた損害額以上の損害賠償責任(いわゆる懲罰的損害賠償)を認めるところもありますが、我が国では原則採用されていません。

 

 交通事故の物損についても、基本的には実際に生じた損害、すなわち事故当時の当該車両の価値を賠償するということになります。

◆全損の損害賠償の範囲

 このように、全損の場合でも、事故当時の当該車両の価値が損害額となるため、通常保険会社は時価額以上の補償はできないと主張しますし、裁判所としても、修理費用と時価額等の間にそれほど差がないような場合には、全損とせず修理費用相当額を損害として認める場合もありますが、基本的には事故によって生じる損害以上の賠償を認めることはないといえます(いわゆる慰謝料も、生じた精神的損害に対する賠償です。)。

 

 ただし、実際に自動車が全損し、別の自動車を用意しなければならないという場合には、廃車費用や代車費用、消費税や自動車取得税、登録費用や車庫証明取得費用、検査登録等にかかる費用等の、買い換えにかかる諸費用が生じます。

 

 どの費用がどこまで認められるかは必ずしも明確な基準が確立されているとはいえず、裁判例によって認められた内容が異なるものもありますが、近年の裁判例では、これらの諸費用のうちの相当額を損害として認めるものが多数です。

 

 また損壊した自動車に特別な加工をしていたような場合も、同加工によって付加された価値が残存している場合には、損害として認められる場合もあります。

◆「時価額」とは

 なお、「時価額」とは、当時のその物の価値と解釈されますが、具体的に時価額自体が争いになることもあります。

 

 時価額は、損壊した自動車と同一の車種、年式、走行距離や車検の状況などが同じ程度の自動車の中古車市場流通価格で判断され、同基準は判例も認めています。

 

 時価額の算定について、実際には、有限会社オートガイド自動車価格月報(いわゆるレッドブック)が利用されることが多いようです。ただ、レッドブックの価格より、一般のエンドユーザーに対する販売価格が相当程度高額で、差があるような場合には、別の資料等で同型の自動車の中古車市場価格を証明することも検討すべきでしょう。

◆買い替え諸費用等を損害額と認めた裁判例

 まず時価額について、最高裁昭和49年4月15日判決は、「原則としてこれと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車の中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきものである」としています。

 

 また、損害の範囲について、被害車両の時価額だけではなく、買い換え諸費用等も損害額として認める裁判例は多数あります(東京地裁平成22年2月10日判決、大阪地裁堺支部平成22年1月18日判決など)。

 

 なお、名古屋地裁平成15年2月28日判決では、時価額が金260,000円、修理費が金398,870円であるとされる事案で、登録費用や納車整備費用等の買い換え費用が金114,615円かかるので、修理費が経済的全損とする場合を著しく上回るとはいえない(時価額と買い換え費用の合計は金374,615円であり、修理費との差は金24,255円)ことから、修理費用相当額を損害額として認めています。

 

◆事前の対策

 そのため、そのような場合の備えは自社で検討しておかなければなりません。まずは交通事故が起きないような安全対策を行うことが肝要です。事故が生じた場合に備え、全損した車の新車価格相当額を保証する「車両新価特約」や、時価額を超えた修理費用を負担した場合に、その差額を保証する「対物全損特約」、「対物全損時修理差額費用特約」、「対物超過修理費用特約」などといった、全損の場合に対応する保険を検討しておくのも一つの手段といえます。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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