無理な運行計画を指示していませんか?

無理な運行計画

 運行計画を立てるとき、平均走行速度や休憩時間などに十分な余裕を持って、運転者が急ぎの心理に陥らないようにスケジュールを考えていますか。

 運行計画を甘く考えていると、安全運転の確保はできません。

 

 このたび、国土交通省が公表した事業用自動車事故報告書でも、無理な運行計画に基づいた運行指示により、貸切バスが制限速度をオーバーして追越しなどをせざるを得ない状況になり、重大な追突事故を起こした事例が紹介されています。

 

 今回は、この事例をもとに、実態にあわない運行計画がいかに運転者を危険な意識に追いやり事故に結びついているかを考えてみましょう。

 

こんな事故が発生しています

■貸切バスがダンプに追突して路外に転落

貸切バスがダンプに追突
図は国土交通省:事業用自動車事故調査報告書より作図

 さる平成27年7月14日午前3時頃、岡山県に本社をもつバス会社の大型貸切バス(運転者:50歳男性)が、三重県四日市市の東名阪自動車道を乗客25名を乗せて走行中、前を走っていた大型ダンプに追突しました。

 衝突の衝撃で両車両ともガードレールを突き破って約2m下の茶畑に転落して横転し、貸切バスの運転者と乗客2名の計3名が重傷を負い、貸切バスの乗客と大型ダンプの運転者の計22名が軽傷を負いました。

 

 現場は高速道路でしたが、制限速度は時速80キロに規制されていました。

 

 貸切バスは、走行車線を時速90キロで走行していたことに加えて、時速60キロの低速度で走行していた前方のダンプとの相対速度を十分に認識しないまま、追越しをかけようとしていました。

 

 そして第2車線の車などを気にしながら走行していて、ダンプとの車間距離が急激に縮まっていることに気づくのが遅れた結果、追突してしまいました。

■事故の背景──急がざるを得ない無理な運行計画

貸切バスの東名阪追突事故

夜間の高速で追越しを繰り返す

 ドライブレコーダーの記録によると、このバスの運転者は、追突事故を起こす前まで大型トラックなどスピードが遅い車両に追いつくたびに、車線変更して追い越すということを頻繁に繰り返していました。

 

 出発地の新宿から事故地点まで、154回の車線変更をしていたことが確認されています。

 

 さらに、時速90キロ前後の速度での走行中に、車間距離が約15~40mとなる状況がたびたび確認されました。

 

 運転者は、以前に追越し時の速度が105キロを超える走行などが見られ、管理者に指導されたことがあり、運転者自身の運転特性もあったかもしれません。

 

 しかし、運行状況にも問題があったようです。

 

運転者「この運行の設定には無理があると思う」

 国土交通省の調査に対して事故を起こした運転者は「運行指示書で指示された主な経由地の発車時間、到着時間に合わせるためには、高速道路では平均時速95キロで走行する必要があり、この運行の設定には無理があると思う」と述べています。

 

貸切バスが四日市市で追突

運行基準図より速い速度の運行指示

 バス会社に運行委託をした業者の運転基準図では、高速道路等の走行速度については、規制最高速度時速40~80キロの区間では、区間ごとの規制最高速度が平均速度として設定されています。しかしこれでは、渋滞等による遅れを考慮した現実に即した基準とは言えません。

 

 さらに、実際に運転者に持たせた運行指示書を調べてみると、事故地点を含む高速道路上の掛川PAから土山SAまでの運転区間(区間距離199.6km)を2時間15分(平均時速88.7キロ)で走行することになっていて、運転基準図の時間2時間26分30秒(平均時速81.7キロ)を上回る速度での運行を指示するものとなっていました。

 

 高速道路といっても、一時的に車両が増えて車線の走行速度が制限速度より低下することが度々ありますので、2時間を平均時速89キロで走行するためには、実勢速度はそれよりも速い状態を維持しないと難しいと考えられます。

 

 夜間は、最高速度が時速80キロの大型トラックが多数走行しています。このなかを90キロ以上の速度を維持して走行し続けるため、やむにやまれぬ追越しの連続行動であった可能性があります。

 

 また、運行指示書には、休憩地点及び休憩時間を記載した具体的な指示はされていませんでした。 

事例からの教訓

■実態に即した余裕のある運行指示をしよう

余裕を持った運行計画

 同種の事故を防止するためには、高速道路でも時速60キロ程度の低速車がいることを予測するなど、運転者への危険予測訓練などを通じた指導が必要でしょう。

 ただし、運行計画に無理があると、このように無理な追越しなどを繰り返すことになり、危険予測能力の高いベテラン運転者でもミスの可能性が高まります。

 

 運行計画を立てる場合には、以下のポイントを守りましょう。 

★道路の混雑など交通状況を予め把握して、実勢速度でどの程度の走行が可能かを考え、到着時間を割り出し、指示を行います。

★そのとき、時速80キロ規制の区間だから平均速度80キロなどという計算を改め、実勢速度を低めに見積もって、行程の遅れを計画に含めましょう。また、十分な休憩時間を盛り込みましょう。

 運転者が余裕を失い、頻繁な追越しを繰り返す運転をしないで済むように計画してください。

★指示した計画と実際の運行があっているか、定期的に現場パトロールや運転者へのヒアリングなどでチェックし、常に安全な運行ができるように改善を行いましょう。 

 

★事業用自動車の場合は、荷主や旅行会社の協力が不可欠です。旅行業者などに対しては、「余裕のない到着時間の設定は運転者に無理な追越しや進路変更を強いる結果に繋がる」と主張する姿勢が重要です。事故事例等を紹介して、事故のリスクが非常に高まることを伝え、余裕のあるスケジュールを要請してください。

【資料出所】

■事業用自動車事故調査報告書〔貸切バスの追突事故(三重県四日市市)№1574101

 国土交通省 事業用自動車事故調査委員会 平成29年2月22日 詳しくはこちらを参照 

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■バス事業者のための点呼ツールを発売

 指導用テキスト「バス事業者のための点呼ツール」は、点呼の実施方法から解説し、点呼用資料として、実際に点呼をする際に役立つ「安全指導場面」を30場面収録したバス事業者様のための教材です。

 

 言葉だけでは伝わりにくい安全運転のポイントや注意事項も、イラストがあればより具体的に危険や安全運転ポイントをイメージすることができます。

 

 また、近年改正された道路運送法や旅客自動車運送事業運輸規則等の改正ポイントもわかりやすく解説しています。

 

【詳しくはこちら】

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