あおり運転に対する罰則強化

2017年6月の東名高速道路でのあおり運転事故以降、社会問題化しているあおり運転ですが、いよいよ罰則が強化されると聞きました。どのような内容になるのか解説をお願いします。

■あおり運転に関する道路交通法改正

 近年、社会問題化していたいわゆるあおり運転については、道路交通法等には直接取り締まりを定める規定があるわけではありませんでした。

 

 そのため実際にあおり運転が問題となる場合には、道路交通法上の車間距離保持義務違反や、安全運転義務違反等の違反行為として摘発したり、さらにあおり運転によって具体的な被害が出た場合には、刑法上の暴行罪や傷害罪等によって摘発したり、また運転態様や被害の状況によっては、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(いわゆる自動車運転死傷行為処罰法)上の危険運転致死傷罪を適用するなどしてきました。

 

 しかし、あおり運転の悪質性がクローズアップされる中、従前の道路交通法上の違反行為に対する罰則では軽すぎるとの意見が高まり、また高速道路上で自動車を停止させるような危険な行為自体が、自動車運転死傷行為処罰法上の危険運転とされていないことが問題と言われてきました。

 

 人に罰を科すためには、どのような行為が犯罪になるのか、その場合どのような罰をうけるのかということが予め明確に定められている必要があります(罪刑法定主義といいます)。犯罪となる行為が予め定められておらず、後から犯罪とされるようなことがあれば、人々の自由な行動が制約されてしまうからです。

 

 今回の改正は、その観点もふまえ罪となるべきあおり運転の定義等を明らかにし、厳罰化したものといえ、道路交通法の改正は2020年6月末から施行され、自動車運転死傷行為処罰法の改正は7月となる見込みです。

■あおり運転に関する改正の概要

1・規制対象行為の拡大・明確化

 まず、道路交通法上のいくつかの違反行為について、「他の車両等の通行を妨害する目的で、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によって行った」場合を、妨害運転として、処罰の対象としています。

 

 対象とされるのは、通行区分(17条4項)、急ブレーキの禁止(24条)、車間距離の保持(26条)、進路の変更の禁止(26条の2の2項)、追越しの方法(28条1項または4項)、車両等の灯火(52条2項)、警音器の使用等(54条2項)、安全運転の義務(70条)、最低速度(75条の4)、停車及び駐車の禁止(75条の8の1項)です。

 

 さらに加えて、これらの交通の危険を生じさせるおそれのある方法によって行ったことにより、高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者を、処罰の対象とする規定を新設しました(117条の2の6号)。

 また、自動車運転死傷行為処罰法上の危険運転として、自動車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で運転する行為、並びに高速道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止または徐行させる行為が含まれることになっています。

2・罰則の強化

 前項に記載した道路交通法上の各違反行為に対する刑罰は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金、あるいは5万円以下の罰金だけとされており、改正後も同行為だけが行われれば、同刑罰となります。

 

 これに対して、今回の改正で認められた妨害運転に該当する場合(他の車両等の通行を妨害する目的でこれらの行為で、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした場合)に対しては、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とするとされました。

 

 さらに、妨害運転によって高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者については、5年以下の懲役、または100万円以下の罰金とされています。

 

 なお、上記の新設された自動車運転死傷行為処罰法の危険運転致死傷罪に該当すれば、傷害の場合15年以下の懲役刑、死亡の場合には1年以上(20年以下)の有期懲役刑となります。

■改正による効果

 今回の改正によって、近年社会問題となっているあおり運転行為や、それに基づく事故が抑止されることが期待されており、また改正前に比べ,あおり運転によって被害者が生じた場合に,あおり運転をした者に対し,被害者やその家族の被害感情に一定程度沿うような刑罰を与えることが可能となりました。

 

 ただ、「他の車両等の通行を妨害する目的」や「道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法」の意味自体は、必ずしも明確であるとはいえない面もあります。

 

 そのため、具体的な解釈適用によっては、処罰の範囲が広がりすぎたり、事案によって差異が生じたりする可能性があるといえ、今後の運用状況等を慎重に見極めていく必要があります。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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