自転車通勤等の安全指導をしていますか

■自転車利用に関心をもつ人が増えている

コロナ対策で自転車通勤

 新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなって、都心部を中心として通勤や営業・配達などに自転車を活用しようとする人が増えています。

 満員電車やバス、混雑した駅での感染リスクを避けようという心理が働いているからです。

 ただし、自転車利用は交通事故時に死傷災害につながる可能性が高いので、事業所としては利用する人の実態把握に努め、事故防止指導を行う必要があります。

 

 従業員の中には通勤方法の変更をきちんと申請する人がいる一方で、通勤手当の支給を失うことを恐れ「一時的なら構わないだろう」といった軽い意識で、会社に黙って自転車通勤に切り替えている人もいるようです。

 

 自転車通勤を原則として禁止している事業所があるでしょうが、テレワークなどができない場合、感染予防のためには従業員の事情を調査して条件付き通勤を許可することを考えるべき状況となっています。

 自転車通勤に対する合理的な通勤手当の支給を明示して、隠れ自転車通勤を防ぐようにしてください。なお、無届けの自転車通勤の場合は通勤手当の詐取や不正取得と解釈される可能性があるので、その旨も周知しておきましょう。

■通勤・業務時の自転車事故災害を防ごう

多発する自転車事故

 通勤や業務時の自動車事故を防ぐためには、クルマの安全運転指導と同様に事故防止のポイントを繰り返し強調しておくことが重要です。

 

 警察庁の調査(2015年~2019年の合計)によると、自転車の事故では自動車と衝突して死亡・重傷事故となる割合が77%と非常に高く、その特徴としては、

  • 出会い頭衝突による事故が約56%で最も多く発生
  • 右左折時衝突も26%と多発
  • 自転車側に安全不確認や一時不停止等の違反が多く見受けられる

などがあげられます。

 

 自動車との衝突事故では自転車側の被害が非常に大きくなりますので、とくに交差点での行動に注意を促すとともに、一時停止箇所での確実な停止と確認、左側通行、夜間におけるライト点灯義務など、自転車の交通ルールを再確認しておきましょう。

 

自転車事故の多発パターン
自動車対自転車事故

※図は警察庁のwebサイトより引用 → 自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~

■賠償保険の付保を義務づける

 交差点や歩道走行時などでは、自転車による歩行者への加害事故も発生しています。

 警察庁の統計によると、自転車と歩行者の衝突により歩行者が死亡または重傷となった事故のなかで、損害賠償保険等の加入が確認された自転車運転者は約60%にとどまっています。

 歩行者の被害態様によっては多額の賠償責任が生じるおそれがありますので、通勤などを認める場合は自転車の賠償保険等に加入することを義務づけましょう。会社業務の場合は、予め事業所で保険に加入しておくことが重要です。

 

 なお、自治体によって自転車賠償保険の付保をすでに義務づけている都道府県・市町村が増えています。自動車保険・損害保険の特約や手軽に加入できる自転車保険が数多くありますので、通勤や業務使用を認めるときに付保を確認してください。

■スマホ等にわき見する「ながら運転」の危険

自転車のながら運転事故

 自転車事故で最近目立つのは、スマートフォンなどを見ながらわき見運転をしている自転車の危険行動が原因となった事故です。

 多発しているウーバーイーツなど配達代行サービス配達員が乗る自転車の事故では、スマートフォンで配達先の道順を確認していて信号や一時停止を見落として衝突するケースが発生しています。

 

 通勤する従業員に対してもスマートフォンアプリなどで抜け道を探して走行することがないように徹底しましょう。

 

 また、歩道上を走行中にスマートフォンにわき見して歩行者と自転車が衝突する事故も発生しています。

 会社の業務で自転車を利用していて歩行者が死傷した場合、事業所には使用者責任が発生します。

■誤った使用法や整備不良に注意

自転車チェーン外れ

 また、長らく使用していなかった自転車をきちんと整備しないままいきなり通勤に使用したり、普段乗っていなくて運転に慣れていないため誤った乗車方法で使用して、自損事故にあうケースがみられます。

 

 独立行政法人・製品評価技術基盤機構の報告によると、通勤等を始めて間もないときに事故が発生しやすく、チェーンが緩んだ状態で走行し走行中にチェーンが外れ、ペダルが空回りしてバランスを崩し、転倒するといった事故が多発していることに警鐘を鳴らしています。

 

 また、ハンドルに荷物を掛けていて荷物が前輪に巻き込まれ、転倒して負傷したといった事故例などが報告されています。

 自転車の整備と正しい利用方法などの基本も今一度指導しておきましょう。

 

■自転車も「あおり運転」は重罰が適用される

自転車のあおり運転

 なお、2020年6月30日に施行された改正道路交通法により、いわゆるあおり運転は「妨害運転」として厳しい罰則が適用されることになりましたが、この罰則は、高速道路でのあおり行為など一部の違反を除き、自転車の行動に対しても適用されます。

 

 たとえば、妨害目的で自転車が車の前に危険な進路変更をして相手を急停止させるなど、交通の危険が生じるおそれのある行為を行った場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金という重罰が科せられます。

 

 さらに、自転車に乗って一定の「危険行為」をして3年間に2回以上違反きっぷを切られると、3時間の自転車安全講習※を受講する義務が発生しますが、この危険行為項目に妨害運転違反が追加されました。

(※講習を受講しないと5万円以下の罰金刑)

自転車の妨害運転違反    

 ●逆走して進路をふさぐ           ●幅寄せ(安全運転義務違反)
 ●危険な進路変更  ●不必要な急ブレーキ
 ●ベルをしつこく鳴らす  ●車間距離の不保持
 ●追越し違反(左側追越し)  ※妨害目的で交通の危険を生じるおそれに限る

【参考】

 ・改正道交法 ─「あおり運転」を厳罰化/2020年6月30日施行(最近の法令改正)

 ・食品配達会社の事故における損害賠償責任は?(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)

 ・自転車の違反による交通事故の責任(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)

 ・自転車の加害事故について指導していますか(危機管理意識を高めよう)

 ・信号のない交差点での四輪車と自転車の事故(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)

 ・自転車通勤の事故対策を考える(危機管理意識を高めよう)

 ・交通事故の判例ファイル16 (自転車の重過失)

 ・違反を繰り返す自転車の利用者に「自転車運転者講習」を義務づけ

 ・自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~(警察庁WEBサイト)

 ・知ってる? 守ってる? 自転車利用の交通ルール(政府広報オンライン)

 

■自転車通勤をする従業員の安全運転度をチェックしておこう(自己診断型)

 自転車の運転に免許証は必要ありませんが、そのため、交通ルール・マナーを十分に理解しないまま危険な運転をしている人が後をたちません。

 

 このテストは日頃の自転車の運転を振り返り、48の質問に「ハイ」「イイエ」で答えることで、普段どれぐらい自転車を安全に運転できているかを簡単に知ることができます。自己チェック型の教材のため、集合教育ができない事業所での活用にも適しています。

 診断結果をみて反省することで、日々の自転車の安全運転に活かすことができます。

 

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