アルコール依存症が疑われるドライバーへの対処法

飲酒運転は一時に比べればかなり減少しましたが、それでもなかなか根絶されません。この厳罰化の中、今も飲酒運転をしてしまう人はアルコール依存症なのではないかと考えてしまいます。弊社にもお酒が大好きな社員がいるのですが、アルコール依存症かどうかは不明です。このような社員がいる場合に、会社はどのような対応を取ればよいのでしょうか?

■飲酒運転撲滅の取り組みと事業者の義務

 国土交通省は、飲酒運転撲滅のための取り組みとして、旅客自動車運送事業運輸規則や貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正や、関係通達の改正等を行っており、旅客自動車運送事業者や貨物自動車運送事業者等の運送事業者には、飲酒運転を防止するために具体的義務が課されています。

 

 酒気を帯びた乗務員を乗務させてはならないことが各規則で明示されており、また点呼を行う運行管理者の補助者は、運行管理者資格者証の交付を受けている者とされています。

 

 さらに各事業者は、乗務の開始前、終了後等において実施することとされている点呼の際に、運転者の顔色や呼気の臭い、応答の声の調子を目視等で確認することに加え、アルコール検知器を用いて点呼しなければなりません。

 

 アルコール検知器は営業所ごとに備える必要があり、常時有効に保持し、同検知器の故障の有無も定期的に確認しなければなりません。また遠隔地での電話点呼の場合でも、運転者にアルコール検知器を携行させ、運転者が所属営業所を出発する前に検査を実施して検知結果を報告させる必要があります。

 

 これらの検知器は、製作者が定めた取扱説明書に基づいて適切に使用、管理、及び保守しなければいけません。

 

 具体的には、電源が確実に入ること、損傷がないことは毎日確認しなければなりません。また、少なくとも週1回以上は、酒気を帯びていない者がアルコール検知器を使用した場合に、アルコールを検知しないこと、またアルコールを含有する液体又はこれを希釈したものを、口内に噴霧した上でアルコール検知器を使用した場合に、アルコールを検知することを確認しなければなりません。

 

 なお、バス・タクシー・トラック事業の運転者が、所属営業所以外の営業所においてアルコール検査を行う場合には、同営業所の運行管理者等の立ち会いが必要とされています。近年ではスマホ等と連動して日時や場所、数値等をチェックできるアルコールチェッカーもあります。

■事業者の行うべき対応

 事業者には以上のような義務が課されているので、事業者としては、各事業所において、乗務前後の対面点呼ができる体制を整える必要があります。

 

 対面でなく電話その他の方法で行う点呼の場合においても、アルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認が確実に行える体制ができているかなどを確認しなければならず、日々その体制を維持し、不備を改善する必要があります。

 

 事業者としては、ドライバーにアルコールが検知されたら、物理的に運転業務には就けないような設備(アルコール・インターロック装置)等の導入も検討すべきでしょう。

 

 さらに、アルコール検知器の携行や酒気帯びの有無の測定方法及び測定結果の確実な報告等、事業者の飲酒運転防止のための措置については、定期的に運転者等への指導を徹底し、遵守させるべきです。

 

 もちろん、同管理体制等の遵守だけではなく、そもそも飲酒運転が禁止されている理由や、飲酒運転事故事例等を周知し、運転者に対して飲酒運転を根絶するよう意識づけなければなりません。

 

 その他にも、通常の交通事故対策と同様に、機会があれば交通安全教育を実施し、飲酒運転等の機会の排除等を行うべきであり、また被害者に対する補償等に備え任意保険への加入も必要です。

■アルコール依存症が疑われる従業員への対応

 アルコール依存症は疾患であり、自分自身では飲酒のコントロールが出来ず、またアルコールに耐性ができていることが多いため、飲酒量も多くなります。

 

 アルコールが抜けると不快な離脱症状が出てくることもあり、そのためさらに飲酒を繰り返すという悪循環に陥ります。普段から飲酒欲求が強く、酷い場合には就業中でも隠れて飲酒を行うこともあります。

 

 飲酒運転で検挙されたり、解雇されたりするなどの問題が起きても飲酒を止められず、長期的・継続的な治療を行うことが必要になります。

 

 そのため、従業員がアルコール依存症であれば、運転業務に就かせることは困難だといえるでしょう。ただ、飲酒運転の事実やその疑いなど、具体的な事情がなく、依存症でも無いのに、疑いがあるというだけで、私生活においても全面的に飲酒を禁止したり、単に飲酒が好きというだけで不当に業務から排除したりすることは雇用主としては許されません。

 

 また、会社が従業員の意思に反してまで依存症の検査等を強制することも許されないでしょう。

 

 とはいえ、車両運転が必須である業務では、同業務に応じた適性と職務遂行能力判断のために合理的かつ客観的に必要な範囲で、健康診断の実施や、特定疾患の有無についての調査を行うこと自体は否定されません。そのため、具体的な状況や従業員の意見も踏まえた上で、確認する方法を構築すべきです。

 

 従業員にアルコール依存症の疑いがある場合には、運転前の点呼等をより慎重に行ったり、報告を義務づけたりすべきですし、また万一飲酒した場合に備え、アルコールインターロック装置などを導入し、物理的に運転ができないような体制にしておくことも必要です。

 

 飲酒運転が行われた場合の懲戒制度を明定して周知することも必要ですが、また従業員に対して健康上の相談を受け付け、またカウンセリング等を受けられるような窓口を設置する措置も有効です。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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