子どもとの交通事故のリスクを教えて下さい

弊社の周辺には幼稚園と、小学校があり多くの子どもが通園、通学をしております。近年、業績拡大により社有車での営業を考えているのですが、従業員には子どもに対する注意を徹底しなければなりません。万が一、子どもとの交通事故を起こしたら、大人との交通事故に比べてどのようなリスクがありますか?

■子どもに対する法律上の規定

 道路を通行するに際し、一般に子どもは成人に比べて判断能力や行動能力が低いといえます。急な飛び出しや、自動車の前後で遊ぶなどの行動も多く、また体も小さいため、視界に入りにくく、傷害の程度も大きくなりがちです。

 

 そのため、子どもを保護すべき要請が高いといえ、道路交通法上も一定の配慮がされています。

 

 まず、道路交通法14条3項では、児童(6歳以上13歳未満の者)もしくは幼児(6歳未満の者)を保護する責任がある者は、交通のひんぱんな道路又は踏切若しくはその附近の道路において、児童若しくは幼児に遊戯をさせてはなりません。

 

 また、保護者もしくはこれに変わる監護者が付き添わないで、幼児を歩行させてはならないと規定しています。

 

 

さらに、同法同条4項では、児童又は幼児が小学校や幼稚園等に通うため道路を通行している場合において、誘導、合図その他適当な措置をとることが必要と認められる場所での措置について定めています。

 

 警察官やその他同場所に居合わせた者は、誘導や合図などの措置を採ることにより、児童又は幼児が安全に道路を通行することができるように努めなければならないとされているのです。

 

 加えて同法は、71条において運転者の遵守事項を定めていますが、同条2号の1は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行または歩行を妨げないようにすることを遵守事項として定めています。

 

 また同条2号の3でも、児童、幼児等の乗降のため停車している通学通園バスの側方を通過するときは、徐行して安全を確認することを定めています。

 

 このように、保護すべき必要性が高い子ども(児童、幼児)との間で交通事故が起きた場合、成人に対する事故の場合とは少し異なる点があります。

■子どもと交通事故における過失の問題

(1)子供と信頼の原則

 まず、成人の事故の場合には、他人が交通秩序に従った適切な行動を採ることを信頼するのが相当である場合には、他人の不適切な行動によって生じた交通事故については責任を負わないとする、いわゆる信頼の原則が適用されます。

 

 しかし、子どもは判断能力や行動能力が低いため、交通秩序に従った適切な行動を採ることを期待できないことが考えられ、成人と同様に考えることはできないことになります。

 

 そのため、成人であれば信頼の原則によって免責ないし過失相殺されるような場合でも、子どもが相手の事故の場合には認められないことがあるといえます。

 

 子どもに対する交通事故では、運転者に過失が認められる範囲は、成人に比べて広いといえるでしょう。

(2)過失相殺の可否

 子どもに対する交通事故においては、子どもの行動等にも事故発生に寄与した面がある場合、子どもの過失を認めて過失相殺できるかが問題になります。

 

 過失相殺とは、損害の公平な分担という見地から、事故が生じた原因について被害者側にも責任がある場合には、損害賠償額を調整する(減額する)ものですが、判断能力や行動能力が低い子どもにも責任があるとして過失相殺を認めてよいかという問題です。

 

 この点について、最高裁判所の判例では、成人と同等の能力までは必要ではなく、「事理弁識能力」があれば、過失相殺できると判断しています。

 

 この「事理弁識能力」とは、物事の善し悪しが一定程度分かる、あるいは物事の行為から結果が生じることが理解できる程度の能力といわれ、この判断能力等を有している場合には、過失相殺をしてよいと判断するものです。

 

 過失相殺が認められるかどうかの具体的な判断は、各事案によりますが、5歳位でも事理弁識能力が備わっていると判断した裁判例も多くあります。また近年では、必ずしも能力の有無を明示せず、子どもの行動等が客観的に事故発生にどのように寄与したのかという面を見る裁判例も出てきています。

 

 なお、被害者本人に事理弁識能力がない場合でも、幼児の父母とか、引率の教師など、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者に過失があった場合には、「被害者側」の過失として、過失相殺することが認められています。

(3)子どもとの事故は原則、運転者の過失割合が高くなる

 子どもに対する交通事故の場合には、過失相殺の判断でも運転者の責任が重くなることが一般です。

 

 訴訟等で利用されている過失割合の一般的な認定基準によっても、歩行者が児童の場合だと、運転者の過失割合は5%から10%程度高くなり、幼児の場合には10%から20%高くなるとされています。

 

 その他にも、法律や判例上の影響ではありませんが、子どもに後遺症が残る場合や死亡した場合などには特に、親や親族等の被害感情は強くなることが予想されますし、事故態様によっては報道等もされ、強い社会的非難を受ける可能性もあります。

 

 運転者としては、特に幼児や児童が周囲を歩行している際には、すぐに止まれる速度で走行するなど慎重な運転を心掛けることが必要です。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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