自転車との左折事故の過失割合に納得がいきません

 先日、弊社の営業車が交差点を左折しようとしたところ、前方の横断歩道から自転車が走行してきて衝突する事故がありました。歩行者用の信号は既に赤であり、弊社の営業車の過失はほぼ無いと思われますが、○○地裁の判決は弊社の営業車に45%の過失を認めるものでした。

 この判決に納得がいかないのですが、控訴するとまた時間も費用もかかります。控訴以外に法的手続きを取る方法はありますか?

■今回の事故の過失割合

 青信号自転車と普通自動車との事故では、普通自動車の方が過失割合が高くなります。

 

 交差点で普通自動車が左折する際に、歩行者用信号が赤信号で自転車が横断歩道を横断してきて事故が生じた場合、基本となる過失割合は、自転車60%、普通自動車40%とされます。

 

 しかし、過失割合に関する同基準は、あくまでも一般的な目安となる基準であり、具体的事案の内容によって変わるものであり、絶対的に確定したものではありません。裁判においては、裁判所の具体的な事実認定に基づき、個別の判決で同基準と異なった過失割合が認められることは珍しいことではありません。

 

 質問の事例では、普通自動車に45%の過失が認められているため、同基準に比べれば普通自動車側にやや重い責任を認める判決となっており、普通自動車が徐行していないなど、何らかの過失が認められた可能性があります。

 

 そのため、普通自動車側としては控訴するかどうかを検討することになります。

■司法制度での紛争解決とは

 我が国では、原則として私人間で生じる紛争の解決については、司法権に委ねています。

 

 司法とは、紛争に関して法を適用し宣言することによって裁定を下す機能などと言われるもので、社会生活の中で起きる様々な紛争を、誰に対しても平等に適用される客観的なルールである法に忠実に基づいて判断するというものです。

 

 本件のような交通事故に関する損害賠償請求についても、通常の民事訴訟で争われ、その結論が判決という形で示されます。

 

 我が国は三審制を取っており、第一審の判決に不服がある場合には、上訴(控訴<※1>、上告<※2>)することができます。

 

※1控訴…第一審判決に対する不服申立

※2上告…控訴審判決に対する不服申立

 

 上訴にはそれぞれ期間の制限(判決受けた翌日から14日間)があり、期間経過までに上訴しなければ判決は確定しますし、上訴審で判決が出されれば、基本的にはその内容で確定することになります。

 

 このように、司法は紛争解決のためのものであり、判決が確定した場合、原則としてそれによって最終の解決方法になるような制度となっています。

 

 なお、民事訴訟法上は、判決が確定した後に争う方法として再審制度が定められており、一定の事由があれば確定した判決を争うことができます。

 

 しかし、裁判所が出した判決が確定した後も、その内容が簡単に覆ることになれば、紛争解決の意味がなくなりますので、再審事由として定められている事由は限定的であり、実務上再審請求が認められることは極めて困難であるのが実情です。

■裁判手続以外に考えられる手続

★ADR(裁判外紛争解決手続)

 裁判以外で紛争解決を図る手続としては、裁判外紛争解決手続などと訳される、ADR(Alternative Dispute Resolution)の手続が考えられます。

 

 これは裁判によらない紛争解決方法であり、制度としてはあっせん、調停、仲裁の手続があります。また協議という解決方法もあります。

 

 平成19年4月1日には、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR促進法)も施行され、各地の弁護士会や、各種団体等、法務大臣の認証を得た認証紛争解決機関も多くあります。

 

(1) あっせん、調停

 あっせん、調停とは、当事者同士での解決を図る目的で行われ、間にあっせん人、ないし調停委員を入れて話し合うことにより、お互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。

 

 紛争の種類に応じた各種団体で行えるほか、裁判所においても民事調停という制度があります。

 

 裁判所の民事調停では、一般市民から選ばれた調停委員が裁判官と共に両当事者の間に入り、話し合いを進めて紛争の解決に当たります。

 

 民事訴訟と比べて手続も簡単で、費用も安く、時間的にも短く終わることが多いため、主に民事訴訟を提起する前に選択されることが多いといえます。

 

 しかし、民事訴訟による判決が出た後に調停をすることが禁じられているわけではなく、判決で決まった金額の具体的な支払方法や、猶予の協議をするために使っても支障はありません。

 

 ただ、民事訴訟の場合、訴えられた方が反論等もせずに放置すれば、訴えた方が勝つ内容の判決が出されるため、紛争は解決されますが、あっせんや調停はあくまでも話し合いなので、双方が参加しなければ成立しません。

 

 そのため、判決で負けた方が調停を起こしても、勝っている方としてはあえてこのような話し合いに応じる理由はないことが多いといえます。

 質問の事例においては、相手方に有利な判決内容になっていると思われますので、相手方が判決に従う意思であれば、これらは有効な手段とはいえません。

 

(2) 仲裁

 ADRの一つとして、仲裁法に基づく仲裁という制度もあります。

 これは、仲裁合意という、事前に当事者同士が仲裁を受けることの同意をした場合に、仲裁人がその件の解決内容を判断するものです。

 しかし、仲裁合意が出来なければ成立しませんし、仲裁内容は判決と同じ効力を持つとされますので、調停等と同様、そもそも自分に有利な判決が出されている方が受け入れることは難しいといえます。

 

(3) 協議

 私的自治の原則からは、私人間の法律関係等はまずは当事者間の合意によって決めるべきとされるので、判決が確定したからといっても、その内容とは別の合意をすることは、公序良俗に反するような内容等でなければ問題ありません。

 

 そのため、再度交渉をする、ということも方法としてはありえないわけではありませんが、上記同様、自己に有利な判決を得た人にとって応じるメリットがないことが多く、応じることは少ないと思われます。

■判決に対する不服申し立て

 以上のとおり、第一審の判決が出されてからは、控訴以外にその内容を覆るような有効な代替手段は考えにくいといえます。民事訴訟が提起され、判決が出された場合、その判決に不服がある場合には、控訴をすることが最も適切です。

 

 民事訴訟では、控訴審でも再度事実に関する主張等を行うことができ、控訴審判決で事実認定や法律の解釈が変わることもあります。

 

 また、控訴審の審理の中で、第一審の判決内容をふまえ、裁判所から和解が勧試され、和解が成立することもあります。

 

 時間や費用対効果の問題はありますが、控訴することによってまだ事実主張等を行う機会が得られるということでもありますので、その点をふまえて検討すべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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