夜間、右側から横断してきた高齢者と事故を起こしました

先日、弊社のドライバーが中央分離帯のある片側2車線の追越車線を走行中、進行方向右側にある中央分離帯から高齢者が現れ、衝突して重傷を負わせてしまいました。そのため、親族から辛辣なクレームと損害賠償請求を受けているのですが、そもそも事故当時は20時過ぎで、すっかり暗くなっており大変見通しが悪い状況であったこと、更に法定速度で走行していたこと、横断の高齢者がルール違反の横断をしていたことから、弊社のドライバーの責任は大きくないと思うのですが、どうでしょうか?

■横断歩行者との事故

弁護士 清水伸賢
弁護士 清水伸賢

 自動車と歩行者とでは、交通事故が生じた時の被害が著しく異なり、明らかに歩行者に大きな被害が生じやすいため、被害者保護ないし優者危険負担の原則から、基本的には自動車の責任が重くなります。

 

 加えて自動車は、その使用態様によっては他者の生命身体の危険を生じさせるものであり、危険責任の原則(危険を発生させるものを管理等している者はその結果生じた侵害について責任を負うとする法的責任論)からも、その責任は重くなります。

 

 ただ、車道を横断する歩行者と自動車との事故についての具体的な過失割合は、信号機や横断歩道の有無、歩道や横断規制の有無、幹線道路かどうか、具体的な見通し状況や夜間かどうか、周囲の環境(住宅街や商店街等か)などによって変わってきます。

 

 また、歩行者が幼児・児童であったり、高齢者や身体障害者であったりする場合や、その他双方の具体的な注意義務違反の内容によっても変化します。

 

 例えば、歩行者が青信号で横断歩道を渡っているところを信号無視で自動車が進入したような場合は、全ての責任が自動車側にあります。

 

 しかしながら、歩行者が信号無視をしていたように、歩行者側に過失があった場合には、その具体的状況によっては、自動車側の過失割合が少なくなります。

■質問のケースの場合

 信号機や横断歩道等がない道路を歩行者が横断した場合、過失割合は基本的には20%とされています(自動車側の責任、損害賠償額が20%減じられる)。

 

 さらに質問では、20時過ぎで周囲は暗く見通しが悪いこと、片側2車線の道路で、歩行者が横断歩道等ではない、右側の中央分離帯から現れていることなどからすれば、歩行者の過失の程度は非常に大きいものといえ、自動車の過失割合は相当程度低くなると考えられます。

 

 他方で歩行者は高齢者であるという事情はありますが、差し引きしても歩行者には少なくとも30%程度の過失割合は認められると思われます。

 

 なお、事故の状況により、歩行者が突然飛び出してくるなど、自動車の運転者が通常は予測できず、また注意をしても避けられなかったような事情がある場合には、そもそも自動車の運転者の過失が認められず、責任を負わないとされる場合もあります。

 

 特に質問のケースでは、通常右側の中央分離帯から歩行者が出てくることが想定できない場合もあるため、自動車の運転者の過失が認められない可能性もあるといえます。

■裁判例等の紹介

 過失の有無や過失割合は、具体的な事故状況等によって様々です。裁判例の中には、具体的な状況を検討し、自動車側の過失割合が20%や30%程度に止まらず、さらに減額された事例や、そもそもの責任を認めなかった事例もあります。

●運転者の過失割合が減じられたケース

1・夜間、横断禁止規制のある道路を歩行横断中の歩行者に自動車が衝突して受傷した事故

 

 運転者には前方不注視の過失があるが、他方、歩行者にも、幹線道路の横断禁止規制のある道路で加害車の直前を横断し、車両の動静に注視していなかった過失があるとして、過失割合が50%とされた事例(大阪地裁平成27年9月29日判決)

2・薬物を使用した状態で、道路中央分離帯付近で他人ともみ合って車道に飛び出した歩行者が、直進してきた自動車と衝突した事故

 

  本件被害者の行動の異常性に照らすと被害者の過失は非常に大きく、かつ、運転者には幾つかの斟酌すべき点があり、現場の状況等も総合考慮すると、横断歩行者の要保護性を最大限考慮しても、本件において運転者側の過失割合を相対的に大とすることは困難で、過失割合は被害者の方が大きいものとせざるをえないとして、運転者の過失割合を40%とした事例(大阪地裁平成25年1月16日判決)。


●運転者の責任を認めなかった事例

1・夜間、片側2車線の国道の中央分離帯に植えられた樹木の間から歩行者が第1車線まで出てきて衝突した事故

 運転者が中央分離帯上にいる歩行者を発見できなかったことについて、注意を怠っておらず、また仮に発見することができたとしても、車道に飛び出して第1車線まで来ることを予想して回避行動を取ることを期待することは困難であり、さらに車道上で歩行者を発見した時には既に衝突を回避することは不可能だったとして、運転者は注意を怠らなかったと認定して損害賠償責任を認めなかった事例(新潟地裁長岡支部平成29年12月27日判決)。

2・夜間、信号機や横断歩道もない交差点付近の幹線道路上において、交差道路から小走りで横断した歩行者が、前照灯を点け時速60キロメートルで走行する中型貨物自動車に衝突された事故

 夜間、幹線道路上に飛び出した被害者の行動は、予期し難く回避不能のものだったして、運転者の過失を認めなかった事例(千葉地裁松戸支部平成27年3月13日判決)。


3・夜間に片側3車線の交通量の多い交差点で、自動車が直進で交差点に差し掛かったところ、中央分離帯の切れ目から飛び出してきた被害者と衝突した事故

 運転手は前照灯をつけて前方を注視する義務等を尽くしており、また、中央分離帯側からの歩行者を想定して減速すべき義務はないとして、運転者の過失を認めなかった事例(大阪地裁平成24年12月26日判決)。

■おわりに

 以上のように、事故の態様や歩行者の行動等、具体的な状況によっては、運転者の過失割合が減ったり、責任が認められなかったりすることはあります。

 

 ただし、基本的には歩行者と自動車の事故は、自動車に責任があるとされることが大多数であるといえますので、出来る限り交通弱者に配慮した安全な運転を行うべきです。

執筆 清水伸賢弁護士

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