二輪車のすり抜け走行は違法?

弊社は二輪車で商品の配達を行う事業所です。ライダーには渋滞時以外の走行中のすり抜け(前方の車の間を縫うように走行する行為)は事故の可能性が高まるので、厳に禁じています。しかしながら信号や渋滞などで四輪車が止まっている場合のすり抜けを禁じてしまうと、二輪車配達の最大メリットである配送スピードが損なわれてしまいます。停止している四輪車の横を走るすり抜け行為は違法なのでしょうか?

■自動二輪車のすり抜け行為の違法性

 自動二輪車によって、進行中、あるいは駐停車の車両の間をすり抜けて走行する行為は、一般に珍しい行為ではありません。しかし同行為(以下「すり抜け行為」といいます。)は、道路交通法に直接規定されているものではありません。

 

 すり抜け行為が直接規定されていないということは、それを直接規制する規定がないということであり、道路交通法上、すり抜け行為自体が直ちに違法になるものではないということになります。

■他の規定違反に該当する場合

 ただし、すり抜け行為が他の道路交通法等の規定に反するような態様でなされた場合には、同行為は違法となります。

 

 走行中のすり抜け行為は、追越し(道路交通法第2条1項21号:自車の進路を変えて他車の側方を通って前方に出ること)ないし、追抜き(走行する車線を変えずに他車の前方に出ること)を伴うことが多く、その態様によっては違法となる場合があります。

 

 例えば、すり抜け行為が追越し禁止場所での追越し(同法第30条)や、横断歩道等から30m以内での追越し等(同法第38条3項)になる場合、車線変更禁止違反(同法第26条の2)の規定に反する場合、歩道や走行が禁止されている路側帯を走行するような場合には、各規定違反となります。

 

 また、信号待ちや渋滞等で停止している車両の間のすり抜け行為についても、原則として違法ではありませんが、上記の車線変更禁止や、割り込み等の禁止(同法第32条)に該当するような場合は違法ですし、すり抜け行為によって信号待ちの一番先頭に出る際に停止線を越えたり信号を無視したりするような状況になった場合にも、違法となります。

 

 さらに、すり抜け行為が各規定に違反しないような場合でも、その態様が道路や交通状況等に応じて他人に危害を及ぼすような速度、方法によるものであった場合には、安全運転義務違反(同法第70条)にもなりえます。

■過失割合への影響

 交通事故による民事上の損害賠償請求において、危険なすり抜け行為を行った側の過失割合が高くなることもあります。

 

 ここでは過失割合が高くなった事例を2つ取り上げます。1つ目の事例ですが、2車線の道路をそれぞれ走行中の2台の自動車の間をすり抜けて追い越そうとした自動二輪車が、一方の自動車に接触して転倒し、他方の自動車の後方の車輪に轢かれたと認定された事案です(大阪地方裁判所令和元年10月29日判決)。

 

 本事案では、転倒後に轢かれた自動車の過失を認めず、また最初に接触した自動車との関係についても、2台の自動車を追い越そうとして非常に狭い隙間を通行した結果本件事故に遭ったもので、その運転は非常に危険といわざるを得ないとし、自動二輪車の過失割合を80%と認めました。

 

 2つ目の事例ですが、自動車の右後方をすり抜けて、前方に出ようとした自動二輪車が、右側車線に車線変更をした自動車の後方に衝突した事案です(東京地方裁判所平成30年5月15日判決)。

 

 まず、裁判所は自動車が後方確認を怠たったため、自動二輪車を見落とした過失を認定しました。

 

 一方、自動二輪車には前方で自動車が右ウインカーを出して、右側車線への進路変更が予測できたのに、制限速度を大きく上回る速度ですり抜け走行をしており、自動車の間近に迫るまでその存在に気が付かず衝突した過失を認めました。

 

 また、時速20~30キロメートルの最高速度違反で走行し、車列の間をそれより更に高速ですり抜け走行するという極めて危険な運転をして、本件事故を発生させたことは重大な責任があるとし、自動二輪車に60%の過失割合を認めました。

■自動二輪車の安全運転のために

 以上のとおり、すり抜け行為自体は直ちに違法となる行為ではありません。

 

 しかし、各規定違反になりうる行為ではありますし、なにより周囲の状況や速度等によっては、交通事故を誘発する可能性が高い場合もあります。すり抜け行為の態様によっては事故が生じた場合の過失割合も高くなることもあります。

 

 自動二輪車の運転を行う場合には、道路交通法に違反するような運転行為や、危険なすり抜け行為は行わないよう、十分注意する必要があります。

 

 特に質問の事業所のように、自動二輪車を業務で多用するような場合には、この点についての従業員への安全教育を徹底すべきといえます。

執筆 清水伸賢弁護士

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