遮断機のない踏切での人身事故

2024年4月に遮断機のない踏切で、9歳の女児が電車にはねられ死亡しました。調べると遮断機も警報器もない踏切は「第4種踏切」と呼ばれており、全国の踏切の7.4%が該当するそうです。地方に車で出張する機会の多い弊社としては、事故防止のために、第4種踏切での事故事例や裁判例を紹介したいので教えてください。

■第4種踏切とは

 踏切は、第1種から第4種までに分類されており、第1種は、自動遮断機が設置されているか、または踏切保安係が配置されているもの、第2種が一定時間を限り踏切保安係が遮断機を操作するもの(現在全廃されています。)、第3種が踏切警報機と踏切警標がついているもの、そして第4種が踏切警標だけのものです。

 

 鉄道会社としては、第1種に移行できる箇所は移行する努力を行っているようですが、全ての踏切を第1種とするのは予算の問題などにより難しい面があり、単に踏切を廃止して横断できなくなれば当該地域の住民の生活に支障が生じる場合があるなどの事情があり、第4種踏切は未だに残っています。

 

 これらの第4種踏切は、主に線路を横断する必要性から設けられている面があるため、必ずしも見晴らし等が良い場所ばかりではなく、通行者が電車の接近などを確認しにくい場所に存在することもあります。

■踏切事故の裁判例

・進入した車両に責任を問われることが多い

 線路内に進入して事故が生じた場合、多くは事前に踏切があることを認識していた横断者において、その安全確認が不十分であったケースが多くなっています。

 

 他方電車の運転手は、警笛を鳴らしたり、異変を感じた際には減速したりするなどの限定的な措置をとることしかできない場合が多いため、基本的には進入した側に過失が認められ、鉄道会社側に生じた損害を請求されることが多くなっています。

・鉄道会社に踏切の設置責任が問われることも

 踏切事故が生じた際、事故に遭った被害者や家族が、踏切の設置状況自体や、警報器や遮断機を設置していなかったことなどに瑕疵(法律上、設置状況に問題があること)があるとして争いになることがあり、最高裁判所は踏切の設置の瑕疵の有無について基本的な考え方を示しています(最高裁判所昭和46年4月23日判決)。


また、 

「踏切道における軌道施設に保安設備を欠くことをもって、工作物としての軌道施設の設置に瑕疵があるというべきか否かは、当該踏切道における見通しの良否、交通量、列車回数等の具体的状況を基礎として、前示のような踏切道設置の趣旨を充たすに足りる状況にあるかどうかという観点から、定められなければならない。

 そして、保安設備を欠くことにより、その踏切道における列車運行の確保と道路交通の安全との調整が全うされず、列車と横断しようとする人車との接触による事故を生ずる危険が少くない状況にあるとすれば、踏切道における軌道施設として本来具えるべき設備を欠き、踏切道としての機能が果されていないものというべきであるから、かかる軌道設備には、設置上の瑕疵があるものといわなければならない。」

としました。

 また、鉄道会社側からの運輸省鉄道監督局長通達で定められた地方鉄道軌道及び専用鉄道の踏切道保安設備設置標準に従つて保安設備を設ければ、社会通念上不都合のないものとして、民法上の瑕疵の存在は否定されるべきであるという主張に対しては、

 

「右設置標準は行政指導監督上の一応の標準として必要な最低限度を示したものであることが明らかであるから、右基準によれば本件踏切道には保安設備を要しないとの一事をもつて、踏切道における軌道施設の設置に瑕疵がなかつたものとして民法717条による土地工作物所有者の賠償責任が否定さるべきことにはならない。」

としています。

 

 すなわち、具体的な踏切の設置状況によっては、鉄道会社の責任が認められることもあります。

 

・設置の瑕疵についての裁判例

 第4種踏切であっても裁判所は基本的にはこの考え方に従って判断しているものと考えられ、具体的な設置の状況などの事実をふまえて判決をしているものといえます。

 

 以下に鉄道会社の設置の瑕疵を認めた3件の裁判例を紹介します。

 

 第一に、鉄道会社側の責任を認めた高松高等裁判所平成14年5月10日判決では、問題となった踏切の設置状況は以下の通りです。

 

  • 通行者から電車、電車からの通行者の見通しが共に悪く、本件踏切直前に来るまで駅方向から接近中の下り電車を発見することが困難である
  • 近くの踏切の警報音も聞こえにくく、別方向の電車と錯覚する危険がある
  • 本件踏切は自転車に乗ったまま一時停止せずに進入することが容易な構造になっている

 以上の状況を認め、本件踏切は、踏切としての本来の機能を全うし得る状況になかったものと認められるとして、設置・保存に関する瑕疵があったと認めています。

 

 第二に、前橋地方裁判所平成16年5月14日判決では、同じく踏切の状況等を以下のように具体的に考慮しています。

  • 踏切付近の見通しが悪い
  • 自転車に乗って、さほど減速しなくても進入することができる状態である
  • 付近でも死亡事故が生じていた
  • 事故当時、1日あたりの電車の通過本数が多かった

 

 このような状況から、第4種のままでは踏切道としての本来の機能を全うしうる状況にはなかったとし、鉄道会社の責任を認めています。

 

 第三に、広島地方裁判所平成21年2月25日判決でも、事故現場の踏切の状況等を以下のように検討しています。

  • 踏切付近の西側の見通しが悪い

  • 振動や騒音を小さく抑える機能を持つロングレールが使用され、電車の音の程度も低く、更に近くの道路の交通量の多さのために、踏切付近において、列車の接近を音や振動によって感知するにも一定の困難が伴う

  • 踏切の長さなどから、通行者が列車との衝突を回避する時間的余裕を確保することが困難である

  • 照明設備が設置されていない

  • 電車の通行頻度も多い

 

 以上の本件事故当時の状況を基準に、本件踏切における見通しの良否、交通量、列車回数等の具体的状況を基礎として考えた場合、列車と人車との接触を確実に防ぎ得る踏切警報機や踏切遮断機が設置されていないために、列車と本件踏切を横断しようとする人車との接触による事故が生じる危険が少なくなかったことは明らかであるとしました。

■終わりに

 以上のように、踏切は決して安全な場所に設置されているとは限らず、現在設置されている第4種踏切でも、たまたま事故が生じておらず、裁判で争われたりしていないだけで、民法上、土地工作物として設置又は保存に瑕疵があると評価されうるものも存在する可能性があります。

 

 上記の裁判例は、鉄道会社の責任が認められた事例ですが、過失がどのようなものであろうと、踏切事故によって生じる被害は甚大なものになりますので、予防策を十分に採ることが必要です。

 

 踏切を横断する際は、必ず一旦停止をして、窓を開けて視覚や聴覚等を用いて十分な安全確認を行う必要がありますので、事業所では折を見て従業員に指導するようにしてください。

執筆 清水伸賢弁護士

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