今回は、SRKモデルについて説明します。SRKとは、スキルベース、ルールベース、ナレッジベースの頭文字です。
これはラスムッセンという研究者が提唱したモデルで、人間の行動がどのように変化していくかを説明するものです。
皆さんは初めて車を運転したときのことを覚えていますか。クラッチはどれだっけ、ウィンカーはどこだっけ、確認の手順はどうだったか、と教習車の中で考えながら必死に操作していたのではないでしょうか。
初めての文字を書くときも同じです。部首は何だろうと考えながら一画一画を確認して書いていたはずです。
しかし今では、よく知っている漢字をさらさらと書くことができます。この変化を説明するのがSRKモデルなのです。

SRKモデルは、デンマークの認知工学者ラスムッセン(Jens Rasmussen)が提唱した、人間の情報処理と行動のレベルを3段階に分類したモデルです。
ナレッジベース(Knowledge-based)は、慣れていない行動を行うときの処理レベルです。知識を総動員して、やり方を確認しながら意識的に行動します。
ルールベース(Rule-based)は、ある程度の経験を積み、「こういう状況ではこうする」というルールに従って行動できるレベルです。
スキルベース(Skill-based)は、行為が高度に自動化され、意識しなくても実行できるレベルです。ベテランドライバーが運転中にあまり意識しなくても適切な確認をしながら安全に走行できるのは、この段階に達しているからです。
人間は、最初はナレッジベースで行動を開始し、経験を積むことでルールベース、スキルベースへと段階的に移行していきます。
これは脳の省力化メカニズムであり、毎回すべてを意識的に処理していては疲れてしまうため、自動化することで複雑な仕事を同時にこなせるようになるのです。

このSRKモデルは人間の優れた能力を示していますが、同時に安全面でのリスクも含んでいます。
慣れていない行動はナレッジベースで意識的に処理されるため、注意深く行われます。しかし、行為がスキルベースまで自動化されると、意識から外れてしまうのです。
問題は、状況が変化したときです。通常とは異なる状況に直面したとき、本来であればスキルベースからルールベースやナレッジベースへと処理レベルを切り替える必要があります。
しかし、この切り替えがうまくいかないと、いつもと違う状況なのに自動化された行動をそのまま続けてしまうことがあるのです。
もちろん、スキルベースで行える作業は、それだけ練習を積んでいるわけですから、通常の状況では上手に実行できます。
問題は、その自動化された処理が状況の変化に対応できない場合があることです。
注意機能が適切に働き、状況の変化を検知して処理レベルを引き上げることが、安全確保には不可欠なのです。

このSRKモデルの理解は、安全に作業を行うための重要な示唆を与えてくれます。
仕事の重要なポイントで、スキル化されて意識せずに行われるようになった作業を、意識的な処理レベルに引き上げることが重要です。
例えば指差呼称は、このような効果を狙ったものでもあります。
指差呼称を行うことで、自動化された作業を、ルールベースやナレッジベースのレベルに引き上げるのです。
指差呼称には他にもいつくかの効果がありますが、これについては、また別の機会に詳しく説明したいと思います。
執筆:島崎 敢 近畿大学准教授