元トラックドライバ―で近畿大学教授の島崎 敢氏が、交通や防災の用語について、わかりやすく解説するコンテンツです。
島崎氏の多彩な経歴から、どのような用語解説が生まれるか、今から楽しみです。
毎月1日に3つの用語を解説していく予定ですので、ご期待ください。
※島崎 敢教授は企業や団体に出向いての講演活動も行っています。詳しくはこちらから
テレビや新聞よりもインターネットから多くの情報を得ている人は多いのではないでしょうか。
通販サイトが「あなたへのおすすめ」を提示してきたり、動画配信サービスが好みに合いそうな作品をピックアップしてきたりと、インターネットは私たちの好みをよく知っていて、それに合った提案をしてくれます。
便利で心地よいこの仕組みですが、実はその裏側に、安全に関わる重要な問題が潜んでいます。
「避難所」と「避難場所」の違いを説明できるでしょうか。
どちらも「避難」という言葉が含まれているので同じようなものに感じますが、実はこの2つ、目的も機能もまったく異なります。
「避難指示が出たら近くの避難所に行けばいいや」と思っている方は、この違いを知らないまま、いざという時に危険な判断をしてしまうかもしれません。
大きな事故が起きると、私たちは「誰が悪かったのか」を知りたくなります。原因となった人物を特定し、その人を批判することで、事故が「解決した」ように感じてしまいます。
しかし、事故の原因をたった一人の人間や一つの出来事に帰着させることは、再発防止の観点からは極めて不十分です。
今回は、事故がなぜ起きるのかを理解し、どうすれば防げるのかを考えるための、安全科学における有名なモデルを紹介します。
1976年東京都生まれ。
静岡県立大学卒業後、トラックドライバーなどで学費を貯め、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学特任准教授を経て2022年より、近畿大学生物理工学部准教授。2026年より教授となる。
全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など、多くの資格を持つ。
心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。
著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがある。博士(人間科学)。
2025年10月1日より、トラックドライバ―向けに、安全に役立つ情報を発信する「プロフェッショナルドライブ」をYouTubeやpodcast等で配信開始。
もしあなたが洋服メーカーの社長になり、1万枚のTシャツを生産することになったら、S・M・Lの各サイズは何枚ずつ作るでしょうか。同じ数ずつでしょうか。
こんな問いに答えてくれるのが、人間工学の最も古典的な分野である「人体計測」です。
人体計測は、安全な製品や環境を設計するうえで欠かすことのできない基盤であり、私たちが普段何気なく使っているものの多くが、このデータに基づいて作られています。
防災対策はケースバイケースであり、「これをやっておけば大丈夫」という万能な正解はありません。
しかし、地震防災においてほぼ全員に共通しておすすめできる対策を一つ挙げるとすれば、最初の揺れで怪我をしないための準備です。
最初の揺れで怪我をすると困るという点は、個人の属性も地域の特性も家族構成も季節も時間帯も関係ありません。
何かにお金や時間を費やした後、「ここまでやったのだから」という理由だけで、やめるにやめられなくなった経験はないでしょうか。
つまらない映画でも、チケットを買ったからには最後まで観てしまう。読みかけの本が面白くなくても、途中までページを費やしたから最後まで読む。
こうした判断は日常的に起きていますが、実はこの心理が、安全に関わる重大な意思決定をも歪めてしまうことがあります。
スマートフォンから突然鳴り響く、あの独特な警告音。緊急地震速報を聞いたことがない人は、日本に住んでいればほとんどいないでしょう。
しかし、その仕組みをきちんと理解している人は、意外と少ないのではないでしょうか。
「地震を予測している」と思っている方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。
組織やチームで重要な意思決定をする場面を思い浮かべてください。
会議の場でリーダーの方針に疑問を感じても、周囲が賛成している中で「自分だけ反対するのは気が引ける」と黙ってしまった経験はないでしょうか。
このように、集団の調和を優先するあまり批判的な意見が封じ込められ、結果として誤った判断が下されてしまう現象があります。これがグループシンク(Groupthink)です。
私たちは日常的に「視野が広い」「視野が狭い」という言葉を使いますが、人間の視野がどのような仕組みで成り立っているか、正確に理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
人間の目は、左右合わせて約180度以上の範囲を見ることができます。正面側の世界のほぼ半分が見えている計算です。
Work-as-Done(WAD)とは、現場で実際に行われている仕事のことです。Work-as-Imagined(WAI)とは、管理者や設計者が想像している仕事のことです。
この二つの概念は、安全科学者のエリック・ホルナゲル(Erik Hollnagel)がレジリエンスエンジニアリングやSafety-IIの文脈で提唱したものです。
大きな組織であればあるほど、現場で実際にどのように仕事が行われているかを、管理層がすべて把握することは難しくなります。
デジタル・テイラー主義(Digital Taylorism)とは、デジタル技術を活用して従業員の行動を監視・測定・管理する現代的な管理手法のことです。
ホワイトカラーの仕事では、パソコンでの業務がほぼすべてログとして記録できるようになっています。
トラックドライバーやタクシー運転手の現在位置も、GPSによって常に位置が把握され、車両の操作ログも詳細に記録され、それらがAIで分析されるようになっています。
皆さんは「地区防災計画」という制度をご存じでしょうか。
2011年の東日本大震災では、行政が策定した防災計画が、必ずしもうまく機能しなかったという課題が浮き彫りになりました。
自治体の行政機能が麻痺するほどの大規模災害では、自助や共助が機能しなければ、人々の命を守ることはできません。この教訓から生まれたのが、地区防災計画制度です。
CRMという言葉をご存知でしょうか。もともとはCockpit Resource Management(コックピット・リソース・マネジメント)と呼ばれていましたが、現在ではCrew Resource Management(クルー・リソース・マネジメント)という呼び方が一般的です。
航空業界で生まれた概念ですが、実は様々な現場で応用できる非常に重要な考え方なのです。
防災の分野では、「自助・共助・公助」という3つの枠組みがよく使われます。
自助は自分で自分を守ること、公助は行政や消防・警察などの公的機関による支援、そして共助は地域やコミュニティで互いに助け合うことを指します。
近年、大規模災害への備えとして共助が特に注目されるようになってきました。その背景には、公助の限界という現実があります。
私たちは日常、様々な道具を説明書なしに使っています。椅子を見れば座れることがわかり、ドアノブを見れば回して開けることがわかります。
この「物が私たちに何をすべきか教えてくれる」性質を、アフォーダンスと呼びます。
適切なアフォーダンスを持つ道具は直感的に正しく使えますが、不適切なアフォーダンスは誤った使い方を誘発し、事故につながることがあります。
人間は一貫していないことを気持ち悪く感じます。
言っていることとやっていることが違う、昨日言ったことと今日言ったことが全然違う。こういった状況に、私たちは居心地の悪さを感じます。
この心理現象は「認知的不協和」と呼ばれ、実は安全管理の現場で活用できる興味深い性質を持っています……
注意は、人間の認知機能の中でも非常に重要な機能です。
人間の感覚器官は高性能ではありますが、感覚器官から脳に送られる情報量に対して、脳で処理できる情報には限りがあります。
この処理能力の限界こそが、注意という機能が必要とされる理由なのです……
「安心・安全」という言葉をセットで使うことがよくあります。街の看板や企業のスローガンでも頻繁に目にする表現です。
しかし、この二つは実はまったく異なる概念であり、混同すると危険な状況を見過ごしてしまうこともあります。
特に「安心」という言葉は、一見ポジティブに聞こえますが、安全管理の観点からは注意が必要な概念です……
指差呼称は、日本の鉄道業界で発展してきた方法で、今では多くの産業現場で採用されています。「信号よし」「速度よし」と声を出しながら指を差す、あの動作です。
一見すると単純な動作ですが、その背後には認知科学的な効果があります。ただし、何でもかんでも指差呼称すればいいというわけではありません。
むしろ、使い方を間違えると逆効果になることもあるのです…
私たちは日常生活の中で、無意識のうちに多くの行動を自動的に実行しています。
朝起きてコーヒーを淹れる、車を運転する、パソコンを立ち上げる。これらはすべてスキルベースの行動であり、その実体がスキーマなのです。
この自動化は私たちの生活を効率的にしてくれる一方で、安全面では思わぬリスクをもたらすこともあります……
皆さんは初めて車を運転したときのことを覚えていますか。クラッチはどれだっけ、確認の手順はどうだったか、と教習車の中で考えながら必死に操作していたのではないでしょうか。
初めての文字を書くときも同じです。部首は何だろうと考えながら一画一画を確認して書いていたはずです。
しかし今では、よく知っている漢字をさらさらと書くことができます。この変化を説明するのがSRKモデルなのです……
記述的規範とは、周りの人の行動を観察して「ここではこういうことがルールなんだな」と感じ取り、その通りの行動をするという行動様式のことです。これは明文化されていない、いわば「暗黙のルール」に従う傾向を指します。
これに対して「命令的規範」があります。命令的規範とは、法律や規則、マニュアルなど、明文化されたルールのことです……
正常性バイアスは、災害時の避難行動を考える上で非常に重要な概念です。なぜ避難指示が出ているのに人々は避難しようとしないのか。なぜ危険が迫っているのに対策を怠ってしまうのか。
こうした疑問に答える鍵となるのが正常性バイアスです。
正常性バイアスとは、危機的な状況に直面したときに、その異常事態を正常の範囲内として捉えようとする心理的傾向のことです……
サーカディアンリズムという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本語では「概日リズム」とも呼ばれる、私たちの体に刻まれた1日の周期のことです。
最近では働き方改革や健康経営の文脈でも注目されていますが、実は安全管理の観点からも非常に重要な概念なのです……
「運転が上手な人ほど安全」という考えは、多くの人が持っている常識かもしれません。しかし、この常識に疑問を投げかける興味深いモデルがあります。
フィンランドの研究者ケスキネンが提唱した「運転行動の階層モデル」は、運転技術の向上だけでは事故は減らないという重要な示唆を与えてくれます……
昭和のドラマでよく見る場面があります。ヒロインがお父さんに彼氏を紹介しに行くと「お前みたいな男に娘はやらん!」と激怒される。
すると大体の場合、かえって二人の愛が盛り上がってしまう。「いいんじゃない?」と歓迎されるよりも、「ダメだ!」と言われた方が、なぜか気持ちが盛り上がってしまうのです……
心理的安全性は、最近とても注目されている概念です。きっかけはGoogleのプロジェクト・アリストテレスという研究でした。
Googleという巨大企業は世界中に散らばるたくさんのチームにできるだけ高いパフォーマンスを発揮してもらいたい。そこでチームがどのくらい効果的に仕事ができているか(Team effectiveness)と、心理学の知見から働く時間などの物理量まで、思いつく限り250個ほどの変数の相関を取ってみたのです……