先日、新聞で7歳の児童の交通事故が突出して高いとの記事を読みました。弊社の近所に小学校があるため、出勤の際や営業所回りなどの際に登下校する児童と遭遇することが多々あります。従業員の教育のために教えて欲しいのですが、万が一、小学生と事故を起こすと大人の歩行者との事故に比べどういったリスクがありますか?
統計等によると、歩行中の交通事故死傷者数は7歳の児童の割合が突出して多いといわれ、「魔の7歳」などと表現されることもあるようです。
7歳の児童の交通事故の割合が多い理由はいくつか考えられますが、まずそもそも子どもの視野は大人の2/3程度の狭さであり、大人が水平方向では150度、垂直方向では120度程度ある視野が、子どもは水平方向90度、垂直方向70度程度しかありません。
しかも、当然子どもは大人に比べれば身長は低く、周囲を見通すことが難しい場合も多く、また自動車からも大人に比べれば目立たないといえます。
交通事故等に対する経験値や知識も乏しく、注意力も大人に比べれば比較的散漫といえる一方、逆に好奇心は旺盛で、周囲の状況に注意せずに道路に飛び出すなどの行動も多いといえるでしょう。
そして、7歳という年齢は、小学校に進学する年齢ですので、今までに比べて飛躍的に行動範囲が広がりますし、子供だけで行動することも増えます。
このような児童が歩行者の場合の交通事故について、大人の歩行者との事故に比べて最も違いが表れると指摘できる点は、過失割合の評価と思われます。
(1)児童側の過失
児童が歩行者の場合の交通事故では、飛び出しによるものも多く、そのような場合には歩行者側の過失があるとして、児童の行動について、過失割合が重く評価されることもあります。
(2)自動車等の側の過失割合
一般的に歩行者の中でも、道路を通行するに際して判断能力や行動能力が低いと認められる者については、これを特に保護する要請が高いとされています。
自動車等の運転者は、歩行者がこれらの者である場合には、さらに注意して運転等を行うべきとされ、特に交通事故における歩行者が幼児や児童、高齢者、身体障害者であった場合には、類型的に自動車等の運転者の責任が重く評価されることになります。
なお、ここでいう児童とは6歳以上13歳未満の者をいい、幼児とは6歳未満の者をいいます。
具体的な事故の態様によって変化はありますが、歩行者と自動車等の交通事故における過失割合の基準では、歩行者が児童又は高齢者であった場合には、普通の成人が歩行者であった場合に比べて自動車等の過失割合が大体5%から10%重くなります。
一方、歩行者が幼児又は身体障害者であった場合には、5%から20%程度重いと評価されるのが一般的です。
交通事故の損害賠償における逸失利益(交通事故による死亡又は後遺障害がなければ本来得られるはずだった将来の利益)は、子どもでも将来的に収入を得られる見込みがある場合には平均賃金によって算定することができます。
そして、一般的に逸失利益の算定期間は、就労可能年齢(18歳)から67歳までとされているため、子どもの場合、大人に比べれば期間自体は長くなることが多いといえます。
ただ、大人の場合は具体的な収入により金額も変わりますし、期間が長くなれば相応の中間利息(将来までの期間中に生じる利息相当額)や生活費相当額は控除されるため、当然に子どもの方が金額が高くなるというわけではありません。
また、被害者がどのような年齢であっても、被害者本人や家族の被害感情が生じますが、特に子どもの死亡事案の場合などには、残された遺族の被害感情は峻烈になる傾向があるといえるかもしれません。
上記のように、児童などは保護すべき要請が高いとされ、児童であるというだけで自動車等の側の過失割合が高くなります。
自動車の運転者としては、十分な危険予測を行い、特にスクールゾーンやキッズゾーン、公園や運動場などの近くでは、子どもの飛び出しなどの行動を予測しながら、慎重な運転を行う必要があります。
また、保護者や学校なども子どもの特性を理解し、子どもに対して都度交通の安全が図られるように、具体的にどのような行動をすべきか、どのような行動をすべきではないかを伝えて教育をしていくべきです。
執筆 清水伸賢弁護士
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