サーカディアンリズムという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本語では「概日リズム」とも呼ばれる、私たちの体に刻まれた1日の周期のことです。最近では働き方改革や健康経営の文脈でも注目されていますが、実は安全管理の観点からも非常に重要な概念なのです。
私たちは24時間いつでも同じように働けると思いがちですが、実際には体のリズムに大きく左右されています。
午前中は比較的元気で、昼食後に一時的に眠気が襲い、午後にまた活動的になり、夜遅くから明け方にかけて覚醒レベルが最も低下する。
このような周期は、私たちの意思とは無関係に存在しているのです。
サーカディアンリズムとは、約24時間を周期とする生理的な変動のことを指します。
体温、ホルモン分泌、睡眠と覚醒、血圧など、さまざまな生理機能がこのリズムに従って変動しています。
このリズムは体内時計によってコントロールされており、外部の光や温度などの環境要因によって調整されながら、ほぼ一定の周期を保っています。
人間も自然の生き物であり、地球の自転という大きなリズムの中で生きているということを改めて認識する必要があります。
サーカディアンリズムと事故が相関するという研究データも存在します。
特に注目すべきは、覚醒レベルが低下する明け方の時間帯に事故が増加するという事実です。
明け方や深夜はもともと社会全体の活動量が少ないため、事故の件数は少ないのですが、例えば「走行距離あたり」のように分母を揃えてみると、事故が際立って多いことがわかっています。
明け方や深夜の時間帯は、体の覚醒周期が最も低い状態にあり、どれだけ本人が「頑張ろう」「気をつけよう」と意識していても、生理的に注意力や判断力が低下してしまうのです。
このことを自覚しないまま、「自分は24時間同じように働ける」と思い込むべきではありません。
夜間の運転や深夜勤務、早朝作業など、体のリズムに逆行する時間帯での業務は、本人の意思や努力だけでは補いきれない危険性を含んでいるのです。
江戸時代の時計は現代とは異なる時間の概念を持っていました。
現代は1日を24等分していますが、江戸時代は日の出と日の入りを基準に昼と夜をそれぞれ6等分していました。つまり、夏は昼の1時間が長く夜の1時間が短く、冬はその逆になるという、季節によって時間の長さが変わるシステムでした。
もちろん、現代社会で鉄道の時刻表を作ったり、グローバルに活動したりするには、統一された時間システムが必要です。しかし、江戸時代の時間の作り方は、人間の体のリズムや季節の変動に寄り添ったものだったのかもしれません。
大切なのは、私たちが現代社会のシステムや都合によって、ある意味で「不自然な生活を強いられている」と自覚することです。
夜間に運転しなければならない、深夜勤務がある、早朝から作業を始めなければならない。こうした状況は、現代社会に生きる以上、ある程度は受け入れざるを得ません。
しかし、だからこそ「自分の体に合っていないことをしている」という自覚が重要になります。
体のリズムに逆行する時間帯には、普段以上に体調管理に気を配る、十分な休息を取る、作業中の注意レベルを意識的に高める、といった対策が必要です。
サーカディアンリズムという自分の身体のリズムを理解し、それに対応した安全管理を行うことが、事故を防ぐ第一歩となるのです。
執筆:島崎 敢 近畿大学准教授