注意は、人間の認知機能の中でも非常に重要な機能です。
人間の感覚器官は高性能ではありますが、感覚器官から脳に送られる情報量に対して、脳で処理できる情報には限りがあります。
この処理能力の限界こそが、注意という機能が必要とされる理由なのです。
もし全ての情報を処理できるのであれば、注意機能など必要ありません。
しかし現実には、脳はそこまで高性能ではないため、注意の仕組みを使って情報を取捨選択しているのです。

注意とは、感覚器官から送られてくる膨大な情報の中から、重要な情報を選択的に処理する認知機能です。
例えば、人間の視野は180度程度あると言われていますが、見えるもの全てを処理できるわけではありません。
重要なところを選択的に処理する、これが注意の働きです。歩きスマホをしていると、スマホの中の情報を処理するために周囲に向ける注意が減ってしまうのは、この仕組みによるものです。
注意には重要な特徴があります。それは、注意の総量を増やすことができないという点です。何かに深く注意するということは、他のものに注意が向かなくなることでもあります。
浅い注意であれば広く見渡すことができるかもしれませんが、広く深く注意するということはできないのです。処理しなければいけない情報が少なければ比較的広い範囲に注意を向けられますが、負荷が高くなるとそうはいきません。
また、注意は視覚とは独立して機能します。目が向いているからといって注意が向いているとは限りません。本を読んでいるのに内容が全く頭に入っていない、という経験をしたことがある方も多いでしょう。
注意は聴覚にも向けられます。本を読んでいるのに、後ろで自分の噂話をしている声が気になって全く集中できない、といった経験もあるかもしれません。
さらに、注意は記憶や思考など、自分の「内側」にも向けられます。昨日あったことを考えていたり、今日の晩御飯のことを考えていたりすると、外に対する注意が不足してしまうのです。

注意の限界を理解していないと、重大な事故につながる可能性があります。
実際に、スマホを持って踏切の前で待っていて電車にひかれるという事故が起きています。本人は遮断器の手前で待っているつもりだったようですが、実際には遮断器と遮断器の間、つまり線路の上で待っていたのです。
深く注意するほど、注意の範囲は狭くなります。集中しすぎてしまうと、それほどまでに、注意が他のものに向かなくなることがあるのです。
事故分析の際に、「注意していないから事故が起きる」と単純に片付けられることがありますが、これは誤りです。
「他のものに注意が向けられていた」というのが実態ですから、必要な対象に注意が向くような対策をする必要があるはずです。

注意の容量不足の端的な解決策として運転や作業などの「スピードを落とす」という方法があります。
これにより、単位時間あたりに処理しなければならない情報量が減るので、限られた注意を必要な対象に向けられるのです。
また、チームで作業する場合は、メンバーが何に注意を払うのかあらかじめ決めておくことが有効です。チームメンバー全員が1つのことに集中するのではなく、複数名の注意を分散すれば、チーム全体のリスクが下がります。
余計なものに注意が向かない工夫も大切です。スマホを見てしまうのはスマホがあるからです。気になるものを周囲に置かないだけでも、リスクが下がります。
内側に向く注意にも配慮が必要です。公私ともに人間関係が良好で、心配事が少ない状態を作っていけば、余計な考え事を考えずに済むので、必要な注意を本来の作業に向けられるのです。
執筆:島崎 敢 近畿大学准教授