防災対策はケースバイケースであり、「これをやっておけば大丈夫」という万能な正解はありません。
しかし、地震防災においてほぼ全員に共通しておすすめできる対策を一つ挙げるとすれば、最初の揺れで怪我をしないための準備です。
最初の揺れで怪我をすると困るという点は、個人の属性も地域の特性も家族構成も季節も時間帯も関係ありません。
大災害の直後は救助や医療の人員・設備・資材が圧倒的に不足するため、平時のように適切な医療を受けられる保証はありません。
さらに、津波や火災など地震に付随する危険が迫った時に、怪我をして逃げられなくなれば、生き延びる確率は大幅に下がります。

家具固定とは、地震の揺れによる家具の転倒・落下・移動を防ぐために、家具を壁や床、天井などに固定する対策のことです。
「家具」と言っていますが、冷蔵庫やピアノやOA機器など、重くて大きくて、倒れたり動いたりすると怪我をするもの全般を指します。
阪神・淡路大震災では、建物内で負傷した人の約46%が家具の転倒・落下を原因としており、ガラスの飛散による負傷(約29%)を加えると、実に4分の3が家具やガラスによって怪我をしています(内閣府防災情報)。
家具固定の方法にはいくつかの種類があり、効果の高さに差があります。
最も強力なのはL字金具とネジによる壁への固定です。家具と壁をネジで直接つなぐため、大きな揺れにも耐える力があります。
L字金具が使えない場合は、突っ張り棒(ポール式)とストッパー(家具の前面下部に挟むくさび型の器具)の組み合わせが有効です。
どちらか一方では十分な効果が期待できませんが、組み合わせることでL字金具に近い効果が得られるとされています。ただし、吊り天井など天井に十分な強度がない場合には、突っ張り棒の効果は限定的です。
また、上下に分かれるタイプの家具は、忘れずに連結金具で上下を固定しておくことが重要です。

地震防災の優先順位として、まず考えるべきは建物の倒壊から身を守ることです。
しかしながら、日本の建物は建築基準法で厳しく規制されているため、日本で建物の倒壊の被害に遭うことは稀です(ただし、古い建物などで不安がある場合には耐震診断を受け、必要に応じて補強や転居をしてください)。
建物の耐震性が確保されている場合、次に重要なのが家具固定です。
内閣府の令和4年の調査では、いずれかの家具・家電の固定を実施している人の割合は約52%ですが、「ほぼ全ての家具・家電の固定ができている」と回答した人は約16%にとどまっています。
多くの家庭で対策が不十分なのが実情です。家具の転倒は怪我だけでなく、避難経路を塞ぐという二次的な危険も生みます。
火災や津波が発生した際に、倒れた家具が通路を塞いで逃げられなくなるケースは十分に想定されます。
また、コピー機など車輪がついた重い機器は、地震時に部屋中を走り回り、壁との間に挟まれると致命傷を負う危険があります。
固定以外にも、できることはたくさんあります。
家具の配置を工夫して、普段人が長く滞在する場所に倒れてこないようにすることや、家具同士を合体させて倒れにくくする対策です。
そもそも背の高い家具を置かず、低い家具に買い替える。これらはすべて有効な対策です。
「賃貸だからL字金具は使えない」と思っている方は、ダメ元で大家さんに相談してみることをおすすめします。住人が怪我をするリスクを考えれば、許可してくれる大家さんもいるかもしれません。家具固定で開く穴は数ミリ程度で、パテ埋めすればほとんど目立ちません。
大家さんの立場からも、重い家具の転倒で死亡事故が起きれば事故物件になりますし、危険が予見できたのに対策を拒否した場合、責任を問われる可能性もあります。
車輪のついた重い機器は、まず車輪をロックし、可能なら床や壁に固定しましょう。床への固定はネジが理想ですが、粘着式のストッパーでもそれなりの効果があります。
ガラス戸には飛散防止フィルムを貼り、食器棚の扉にはストッパーをつけておくと、特に自宅で靴を履いていない状態での怪我を防げます。
いずれの対策も単独では万能ではありませんが、やればやるほどリスクは下がるし、たとえ外れてしまっても、生き延びるための数秒の猶予を与えてくれるかもしれません。
(※家具固定について詳しくは東京消防庁のWEBサイトをご参照ください)
備蓄や避難計画など他にもやるべき防災対策はたくさんありますが、それらは全て最初の揺れを生き延びた後の対策です。
まずは発災直後に身を守るための家具固定から始めてみてください。
執筆:島崎 敢 近畿大学准教授