
「避難所」と「避難場所」の違いを説明できるでしょうか。
どちらも「避難」という言葉が含まれているので同じようなものに感じますが、実はこの2つ、目的も機能もまったく異なります。
「避難指示が出たら近くの避難所に行けばいいや」と思っている方は、この違いを知らないまま、いざという時に危険な判断をしてしまうかもしれません。
日本語の「避難」という一つの言葉の中に、実はまったく性質の異なる2つの行動が含まれています。この違いを理解しているかどうかが、災害時に命を守れるかどうかを左右します。

英語の「Evacuation」と「Sheltering」は、どちらも日本語では「避難」と翻訳されます。しかし、この2つの言葉はニュアンスがかなり異なります。
Evacuation(避難場所への避難)とは、命を守るために危険な場所を離れる行動を指します。目的は「危険から逃れること」であり、行き先は安全でありさえすればどこでも構いません。
広い場所、頑丈な建物、高い所など、安全な場所であればどこでもEvacuationの行き先になり得ます。行政用語では、この行き先を「避難場所(Evacuation area)」と呼びます。
一方、Sheltering(避難所での避難)とは、災害によって家が壊れるなどして帰宅できない場合に、さしあたり雨風をしのぐことを指します。
これは災害の最初の危機が去った後に、住む場所を失った人が一時的に身を寄せる場所です。行政用語では「避難所(Shelter)」と呼ばれます。
つまり、Evacuationは「災害が迫っている最中の緊急行動」、Shelteringは「災害後の生活再建までのつなぎ」であり、目的も時間軸もまったく異なるのです。
この2つの区別を理解していないと、命に関わる判断ミスにつながります。
冒頭の「避難指示が出たら近くの避難所に行けばいいや」を読み解いてみましょう。「避難指示」の「避難」はEvacuation、「避難所」の「避難」はShelteringです。
つまりこの文は「Evacuationする先はShelterでいいや」という意味になります。しかし、行動の目的と行き先の機能が一致していません。
Evacuationの目的は「危険な場所から離れる」ことであり、必ずしもShelterに行くことが正解ではないのです。
小中学校などはShelterがEvacuation areaを兼ねているため、理解はさらにややこしくなります。そしてShelterもEvacuation areaも災害種別ごとに適切かどうかが決まっています。
例えば高台にあるので津波のEvacuation areaとしては適切だが、崖が近くにあるので土砂災害のEvacuation areaとしては不適切な場所などがあります。
Shelterは災害が去ったあとに行くのなら、建物が健全であれば、基本的にどこでも大丈夫です。一方、Evacuation areaは命を守る場所なので、必ずしも建物は必要ありません。
避難所や避難場所として指定されている場所は、どの災害種別で使えるかの表示があります。普段からこの表示を確認しておくとよいでしょう。

では、実際にどのように行動すればよいのでしょうか。まず、そもそもEvacuationが必要かを判断します。
今いる場所が洪水や内水氾濫による浸水の心配がなく、土砂災害や津波の危険もなく、建物が壊れる心配もないのであれば、そもそもEvacuationする必要はありません。
事前にハザードマップをよく確認し、安全な場所の丈夫な建物にいるのなら、無理に動いて無駄にリスクを上げないことが重要です。
Evacuationが必要な場合は、行き先を柔軟に考えます。近所のShelterが唯一の選択肢ではありません。 今より安全な場所でありさえすればよいので、高台や広場、車の中なども選択肢です。もちろん、親戚や知人の家、職場、ホテルなど安全な場所にある建物でも問題ありません。
そして何より、早めに行動することが大切です。避難指示は「これ以上そこにいたら、本当に命の危険がある」という最後通牒です。そこまで待っていては遅すぎます。災害が近づいてからでは風雨が強くなり移動に危険を伴い、暗い時間になるとリスクはさらに上がります。逆に、早ければ早いほど楽に、安全にEvacuationできます。
地震は予測できないため、たまたま危険な場所にいて被害に遭うことは避けられません。しかし台風や豪雨の場合は、予測された時点で適切にEvacuationすれば、被害を確実に避けられます。
Shelteringも同様に、必要かどうかの判断が重要です。例えば地震のあと、自宅が余震で崩れるかもしれないとか、家財が散らかりすぎて寝られない等の場合はShelterに行くことを検討するべきですが、そうでなければ基本は在宅避難をしておくのが快適性やプライバシーの確保の観点からも推奨されます。
EvacuationとShelteringの違いを正しく理解し、適切な行動を心がけることが、命を守ることにつながるのです。そしてできるだけ、EvacuationもShelteringも必要ない安全な場所にある丈夫な家に住むことをおすすめします。
執筆:島崎 敢 近畿大学准教授