
テレビや新聞よりもインターネットから多くの情報を得ている人は多いのではないでしょうか。
通販サイトが「あなたへのおすすめ」を提示してきたり、動画配信サービスが好みに合いそうな作品をピックアップしてきたりと、インターネットは私たちの好みをよく知っていて、それに合った提案をしてくれます。
便利で心地よいこの仕組みですが、実はその裏側に、安全に関わる重要な問題が潜んでいます。
今回はフィルターバブルと呼ばれる、情報の偏りによって、異なる意見や情報に触れることができない危険性について解説します。

フィルターバブル(Filter Bubble)は、インターネット活動家のイーライ・パリサーが2011年の著書『The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You』で提唱した概念です。
テレビや新聞は不特定多数に向けて情報を発信するため、なるべく多くの人が関心を持つ情報を届けようとします。
一方、インターネットでは多くのサービスにログインした状態で利用するため、誰がどのような情報を検索し、好んで見ているかをサーバー上のプログラムが把握しています。
この仕組みを使って、情報発信者はユーザー一人ひとりが好みそうなコンテンツを推測し、おすすめとして提示します。
同じことは検索サイトやニュースサイト、SNSでも行われています。
検索したり記事を読んだり「いいね」を押したりしているうちに、自分が興味を持ちそうな情報や、自分の意見に反対しない情報が優先的に表示されるようになります。
こうして自分の周りには自分の好きなもの、同じ意見の人だけが自然に集まり、それ以外のものが見えなくなっていきます。
パリサーはこの現象を「フィルターバブル」と名づけました。情報の個別最適化が作り出した見えない泡の中には、自分にとって心地よい情報ばかりが集まります。
しかし自分が泡の中にいることは意識しづらく、泡の中の世界があたかも「世界の全体像」であるかのように感じてしまうのです。
しかもこの個別最適化は非常にさりげなく行われており、情報発信者側に悪意があるわけではありません。ユーザーになるべく長く滞在してもらおう、たくさんクリックしてもらおうとしているだけなのです。

フィルターバブルは安全に関わる判断にも影響を及ぼします。
たとえば、ワクチン接種に関する情報が典型的です。
ワクチンの副作用が怖いと思って関連の記事などをいくつかクリックするうちに、ワクチンの重篤な副作用の事例とか、ワクチンは打つべきではないといった意見とか、場合によってはワクチンには誰かの陰謀で放射性物質が混入されているなどの根拠のない情報が次々と自分の画面に現れます。
気になって更にクリックをしていくと、自分の周りにあるそういった情報の濃度がますます濃くなっていくという仕組みです。
ワクチン接種に関する正しい判断をするためには、ワクチンの副作用のリスクと、ワクチンを打たないことによる病気のリスクを冷静に天秤にかけて判断しなければならないのですが、一方の意見だけが重くなるので、天秤が正しく機能せず、誤った判断をした結果、自分のリスクを高めてしまうかもしれないのです。
ワクチンの話はあくまで一例で、フィルターバブルはあらゆることにおいて、私たちが「中立的に比較して見極める」という作業を阻害するということを意識する必要があるのです。

フィルターバブルの中は心地よいものですが、自分とは異なる意見を知るチャンスや、知らなかったタイプの情報に出会うチャンスが失われます。
まず大切なのは、フィルターバブルの存在を意識することです。自分が見ている情報が、自分に最適化されたものであるということを知っているだけで、情報の受け止め方は変わります。
そのうえで泡の外に出ようと思うなら、具体的な方法がいくつかあります。
個別最適化がされていないテレビや新聞などのマスメディアに触れてみること、インターネット上の各種サービスから一度ログアウトした状態で検索してみること、おすすめされる以外の情報を自分から積極的に取りに行くことなどが挙げられます。
安全に関わる情報を得る場面では、特にフィルターバブルへの警戒が必要です。
災害情報や安全対策について調べる際には、普段見ているソースだけでなく、意識的に異なる視点の情報にも触れるようにすることが、バランスの取れた判断につながります。

執筆:島崎 敢 近畿大学准教授