アルコール依存症の危険を理解していますか?

■飲酒運転の影に隠れる依存症の実態を知ろう

八街市飲酒運転児童殺傷事故

 依然として悲惨な飲酒運転事故が発生しています。

 

 さる2月23日午前9時50分ごろ、東京新宿駅の前で発生した乗用車と原付バイクの衝突死亡事故では、乗用車の運転者の呼気から基準値のおよそ3倍のアルコールが検出され、呆然と事故現場に立ち尽くす姿が報道されて衝撃的でした。

 

 飲酒運転事故の件数は、平成年間における何回かの道路交通法厳罰化を経て、大幅に減少してきましたが、最近は減少率が低下して横ばいの傾向にあります。

 こうした飲酒事故の背景には、アルコール依存症の患者が潜んでいるのではないかといわれています。

 

 2021年6月に千葉県八街市(やちまたし)で白ナンバートラックによる飲酒運転事故が発生し、小学生5人が死傷する惨事となりました。事故を起こした運転者は業務中に飲酒をする習慣があり、職場で「酒臭い」と話題になっていたことが、事故のあと判明しています。

 この運転者がアルコール依存症であったかどうかは判りませんが、大麻や麻薬、危険ドラッグ等の依存症と違ってアルコールは合法ドラッグであるため、より発覚しにくいという側面があります。

 

 アルコール依存症も他の依存症と同じく病気であり、本人の力だけではどうしようもなくなっているので、周囲の理解と助力が大切であることを理解しましょう。

■アルコール検知器だけでは飲酒運転は防げない

酒気残り対策

トラック飲酒運転の6割が点呼後に飲酒

 国土交通省の情報をもとに全日本トラック協会がまとめた資料によると、令和4年(2022年)中に事業用トラックが起こした飲酒運転事故事例のうち、60%が点呼後に飲酒したものでした。

 

 もちろん、点呼が実施されていなかった事例や点呼時に見逃された事例なども33%ありましたが、飲酒運転をする運転者の多くが、酒気帯び検知を受けて運行のOKサインをもらってから、堂々と飲酒をしているという実態があります。

 

 これらの運転者が病気としてのアルコール依存症かどうかは判明していません。しかし、前夜のお酒が残っていたという酒気残りとは事情が違うことが重大です。

 

 なお、2023年1月の1か月間に事業用トラックですでに3件の飲酒運転事故が発生しています。

 これらの実態を憂慮して同協会は、飲酒運転の根絶キャンペーンを強化しています。 

酒気残り対策

常習化していた事故運転者の飲酒

 千葉県八街市で飲酒運転事故を起こした運転者の状況を報道をもとに整理してみると、以下のような特徴があります。

 

配達先から帰社途中に飲酒──事故は午後3時25分ごろ発生し、飲酒のため居眠運転状態になって小学生の列に突っ込んでいます。運転者は鉄筋資材の配達業務を終えて、会社に戻る途中に焼酎を購入し、近くのサービスエリアで食事中に飲酒して運転していました。

 

業務中の飲酒運転が常習化──取調べに対して「2020年から飲酒した状態で運転するようになった」「週に2、3回、日常的に飲酒運転を繰り返していた」と供述しています。

 

周囲から飲酒の懸念を指摘──運転者の勤務先に下請け会社社員から計4回「あの運転者が酒臭いぞ」と連絡がありましたが、上司は前夜の深酒が残っているのだと思い込んで、本人には「気を付けてくれ」と注意しただけでした。

 

 会社が、事故を起こした運転者の飲酒習慣に関する認識が甘かったため、長期にわたって飲酒運転が繰り返され、結果的に大きな事故に結びついています。 

■アルコール依存症は否認の病気

アルコール依存症
依存症を自覚することは難しい

「依存症ではない」、「お酒をコントロールできる」と主張する

 

 アルコール依存症は否認の病気とも言われていて、なかなか自分が病気であることを認めようとしません。

 毎日、多量な飲酒をする習慣から脱却できないでいるのに、自分がお酒を飲む量をコントロールできていると思い込んでいたり、いつでもお酒を止められると考え、周囲の助言を否定しがちです。

 

■心理的な依存から始まる

 しかし、長年多量にお酒を飲む習慣が続いている人の中には、実際に心理的な依存が始まっていて、自分では止められなくなっていることが多いのです。

 やがて、仕事や家族のことなどより、お酒のことだけに関心が集中するようになります。

 

■身体的な依存へ

 心理的依存状態のとき症状に気づいて、断酒治療や自助努力グループなどに参加すればまだ良いのですが、そのまま放置するとやがて、身体的な依存状態に陥ります。

 お酒が少しでも切れると手が震えたり、動悸・発汗などの症状が表れ、それを止めるためにさらに強いアルコールを求めるようになります。場合によっては幻聴や被害妄想などの症状が表れ、不安や恐怖のあまり、激しい自傷行為や他害行為などの問題行動を引き起こすこともあります。

 

 さすがに身体的依存が深まると、昼間から飲酒状態が続き様子がおかしいので周囲に気づかれやすくなりますが、場合によっては運転中に大事故を起こすことなどにつながります。

■事業所では、依存症の早期発見に努めよう

アルコール依存症

 危険薬物や大麻・麻薬などと違って、合法化されたドラッグであるアルコールは、飲酒量が多いだけでは社会問題になりません。

 

 「酒の席のことだから」など、日本の社会では歴史的にアルコールの影響を大目に見る傾向があったこともあり、酒に強い人を非難したり差別する風潮はみられません。むしろ中高年男性の中には、お酒が飲めない若い人を軽蔑する傾向が残っています。

 このため、アルコール依存症の危険を見えにくくしている可能性があります。

 

 一方で、一度アルコール依存症と診断されると「アル中」「意志が弱い人間だ」といった偏見や差別の目を向ける人がいて、こうした無理解が患者の依存症否定や治療意欲を減じることにつながっています。 

 飲酒のコントロールができないことを病気ではなく、本人の意志の弱さや性格の問題と決めつけて非難すると、治療のチャンスを失い兼ねません。

 事故等の責任はともかく、飲酒のコントロール障害を責めるのは見当違いな叱責となります。

 

 事業所では以下のような兆候に目を配り、依存症の疑いがある運転者の早期発見に努めるとともに、親身になって相談に乗りましょう。

 

 ● 飲むときは「多量の飲酒をする」人間として知られている(※)

 ● 酒の席のケンカや酒にまつわるトラブルなどを過去に起こしている

 ● 「飲んで記憶を失ったことがある」と自慢げに語ることがある

 ● 酒に強いが、肝臓病・糖尿病などの病気で少し長く入院したことがある

 ● 休日や自宅勤務のとき、朝から酒を飲んでいるという噂がある

 ● 目つきや顔つきが最近変化していると職場で話題である

 ● 朝から顔色が悪く、酒の匂いがするという評判である

  

  ※飲酒量には個人差があり、長年、多量に飲酒を続けても全く依存症にかからない人がいます。 

■専門医療機関で“依存症治療”を

 アルコール依存症は本人の意志の強弱や性格の問題で発症するわけではなく、アルコールを飲む習慣があれば、誰でもなる可能性がある病気です。

 長年、高カロリー食をとる生活習慣があたっために高脂血症や高血圧症などに罹患するのと同じです。

 偏見を持たずに「病気である」ことを理解し、サポートする姿勢が重要です。

 

 周囲の適切な相談や治療により、本人が日常生活と業務の遂行を取り戻すことができます。

 

 ただし、依存症は精神疾患の一種ですので、身内だけで解決しようとするとかえって症状が悪化することがあります。

 患者とサポートする側は、この病気について詳しい専門医師に相談し、そのアドバイスを受けて対応することが大切です。

■アルコール依存症における症状の特徴

■多量飲酒癖や生活習慣の異常を早期に発見しよう

【参考】アルコール依存症の兆候をみのがさないチェックリスト

新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト:男性版( KAST-M )

次の10項目の質問に回答して点数を合計し、合計点数で判定します。

最近6か月の間に次のようなことがありましたか? はい いいえ
1. 食事は1曰3回、ほぼ規則的にとっている

○ 0点

○ 1点

2. 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある

○ 1点

○ 0点

3. 酒を飲まないと寝付けないことが多い

○ 1点

○ 0点

4. 二曰酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことがある

○ 1点

○ 0点

5. 酒をやめる必要性を感じたことがある

○ 1点

○ 0点

6. 酒を飲まなければいい人だとよく言われる

○ 1点

○ 0点

7. 家族に隠すようにして酒を飲むことがある

○ 1点

○ 0点

8. 酒がきれたときに、汗が出たり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦し

   いことがある

○ 1点

○ 0点

9. 朝酒や昼酒の経験が何度かある

○ 1点

○ 0点

10. 飲まないほうがよい生活を送れそうだと思う

○ 1点

○ 0点

 チェックした合計点数

 判 定  

 合計点が4 点以上  アルコール依存症の疑いあり
 合計点が1~3 点

 要注意(質問項目1番による1点のみの場合は正常)

 合計点が0点  正常

※4点以上の判定が出た場合は専門医への相談が勧められています。

  「要注意」の方は、お酒を飲む量や頻度などに注意が必要です。

新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト:女性版( KAST-F )

次の8項目の質問に回答して点数を合計します。合計点数で判定します。

最近6か月の間に次のようなことがありましたか? はい いいえ
1. 酒を飲まないと寝付けないことが多い

○ 1点

○ 0点

2. 医師からアルコールを控えるようにと言われたことがある

○ 1点

○ 0点

3. せめて今日だけは酒を飲むまいと思っていても、つい飲んでしまうこと

    が多い

○ 1点

○ 0点

4. 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある

○ 1点

○ 0点

5. 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある

○ 1点

○ 0点

6. 私のしていた仕事をまわりのひとがするようになった

○ 1点

○ 0点

7. 酒を飲まなければいい人だとよく言われる

○ 1点

○ 0点

8. 自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある

○ 1点

○ 0点

チェックした合計点数

 判 定  

 合計点が3点以上  アルコール依存症の疑いあり
 合計点が1~2点

 要注意(質問項目6番による1点のみの場合は正常)

 合計点が0点  正常

※3点以上の判定が出た場合は専門医への相談が勧められています。

  「要注意」の方は、お酒を飲む量や頻度などに注意が必要です。

【参考】飲酒運転事故の傾向

 警察庁の統計によると、令和2年中の飲酒運転による交通事故件数は2,522件で、前年と比べて減少(前年比-525件、-17.2%)しています。死亡事故件数は159件で、こちらも、前年と比べて減少(前年比-17件、-9.7%)しました。

 飲酒運転による死亡事故は、平成14年以降何度も厳罰化や飲酒運転根絶に対する社会的気運の高まり等によって大幅に減少してきましたが、平成20年以降は減少幅が縮小して下げ止まり傾向にあると言われています。

飲酒運転死亡事故

■飲酒有無別の死亡事故率

 

 左の図を見ると、 飲酒運転による死亡事故率は、飲酒なしの約8.1倍と極めて高くなっています。

 飲酒運転による交通事故は死亡事故につながる危険性が非常に高く、依然として交通死者抑止の重要な課題となっていることがわかります。


■外部サイト、参考ページ

 この記事は以下のサイトを参照にしました。

 ・ 依存症の理解を深めるための普及啓発事業(厚生労働省)

 ・ 依存症スクリーニングテスト(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)

 ・ アルコール依存症について(厚生労働省e-ヘルスネット

 ・ 特定非営利活動法人ASK インストラクター養成WEBサイト

 ・ アルコール健康障害対策(厚生労働省

 ・「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル

  (国土交通省発行/2023年1月改訂)

■当サイト・参考記事

ホーム 運転管理のヒント危機管理意識を高めよう >アルコール依存症の危険を理解していますか?

■「安全運転管理者のための酒気帯び確認の手引」のご紹介

 2021年6月に発生した千葉県八街市の児童死傷事故は、白ナンバートラック運転者の飲酒運転が原因でした。この事故を契機に、政府は安全運転管理者選任事業所におけるアルコールチェックの強化を定め、道路交通法施行規則を改正しています。

 

 本書は、安全運転管理者がアルコール検知器などを使用して酒気帯び確認を行う上で押さえておきたいポイントを、イラスト入りでわかりやすく解説しています。

 また、アルコール依存症の基礎知識や飲酒運転の罰則などを収録していますので、管理者が飲酒運転根絶に向けた取組みを行う上で欠かせない1冊となっています。

 

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