運転者の言葉を「聴いて」いますか

■「話す」だけでなく「聴く」ことも重要

運転者の意見を聴く

 管理者は、運転者に対して教育をしなければならない立場ですので、どうしても一方的に指導をするモードになりがちです。

 

 確かに安全のために指導し、情報を伝達することは大切なのですが、運転者がどう感じているか、何に悩んでいるかを「聴く」力がないと管理上の問題点を見過ごしてしまうおそれがあります。

 

 とくに私生活の状況や得意先・納品先などでどのような困難に出会っているかをつかむことができないと、安全指導を的確に行うことはできません。

 

 親の介護で苦しんでいるベテラン運転者などに対して、いつもと同じ仕事だから大丈夫だろうと軽く考えていると、漫然運転によって思わぬ事故などを起こすことがあります。

 

 管理者の「聴く力」の重要性を考えてみましょう。 

■ベテランほど悩みを打ち明けにくい立場にいる

運転者の悩み

 運転経験が長く若手社員を指導するような立場の人は、自分の弱みを見せられないという心理が働き、親の介護で苦しんでいたり、子どもの受験で悩んでいても周囲に相談しにくいと言われています。

 

 とくに独身の人が親の介護などを引き受けている場合、一人で問題を抱え込んでしまうケースが多くなるようです。

 

 こうした私生活の問題を「聴く」ことはプライバシー保護上も難しいとは言えます。

 しかし、何か運転者の表情から疲労感を感じたり、気になるときには、興味本位ではなく安全上の責任があるのですから、軽く見過ごさないで話を聴く機会を設けることが大切です。 

■事故例──だるいと感じて運転していて、貸切バスが横転

貸切バス居眠運転事故

 

 身内の不幸があって、盆休みの期間に法事などをすませた貸切バスのベテラン運転者(58歳)が、休み明けの運行中に居眠運転による横転事故を起こした事例があります(国土交通省の事業用自動車事故報告書より)。

 

 運転者の事故日前4週間の勤務時間に過労運転を起こすような問題はありませんでしたが、運転者への事故後の聞き取りでは、「事故前1か月は疲れが溜まってだるい」感じが続いていて、事故当日も起床時に「まだ寝ていたい」ような体のだるさを感じていたという話でした。

 

 運転者には身内の不幸があり、葬儀や新盆などの対応で溜まった疲れが取れず、周囲が思う以上に疲れていて、自分自身も疲労の深刻さに気づいていなかったようです。

 こうした疲労状態が居眠りなど意識が低下した状態での運転につながったと考えられます。

 

 「休みたい」と言いにくかったのは、周囲に迷惑や心配を掛けたくないという責任感やベテラン運転者特有の心情があった可能性があります。 

 もし、管理者や指導者が運転者との懇談などをする機会を設ける中で、「彼は実際のところかなり参っているな」と気づいていたら、事故を防ぐことができたかもしれません。 

■優れた「聴き手」は相手が気づかないことも自覚させる

聴く力

 話を聴く態度で重要なポイントとしては、問題を解決してやろうと意気込んだり、指導しようと構えないで、友人のように「貴方が話したいと思うなら、ただ素直に聴きます」というスタンスに立つことだといわれます。

 

 アメリカのビジネス界で最近ベストセラーになった「LISTEN」という本の著者、ケイト・マーフィというジャーナリストは、聴く力を持つためのキーワードとして以下のようなポイントを上げています。

  • 「アドバイス」をしだす人は、きちんと相手の話を聴いていない
  • 「よい聴き手」とは、話し手と同じ感情になって聴ける人
  • 本気で聴く人は、相手の話を遮って自分の考えを話し始めたりしない
  • 相手が自分でもわかっていないことを聴き出せるのが、優れた聴き手である

   ※「LISTEN」─知性豊かで創造力がある人になれる(ケイト・マーフィ著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳、日経BP刊

■居眠運転などの体験を聴き出し、気づきを促す

居眠運転への聞き取り

 

 いきなり優れた「聴き手」になるのは難しいですが、長年物流企業の運行管理者を務め、現在は物流企業コンサルタント業務に携わる丸山利明氏(TM安全企画)は、かつて居眠運転の指導に関して、こんなエピソードを紹介していました。

 「聴き方」のヒントになります。

 

丸山氏 「居眠運転の防止を図る、といってもただ危険性を説明するだけでは、説得力がないのです。

 実際に居眠運転をする状況について、まず知りたかったので、運転者たちと懇談をする機会に、自分が運転者時代『居眠運転をして谷底転落寸前で止まって肝を冷やした』という失敗談をしたところ、多くの運転者が『自分もそんな経験がある』と居眠運転で事故の寸前までいった例を話してくれました」

 

 例えば……「気がついたら、高速道路の走行車線でブレーキを踏んで眠っていた」

      「2回目まではハッと一瞬で目覚めたが、3回目の居眠りのとき路肩の縁石にタイヤを

       こすって目覚め、慌ててコンビニ駐車場に入った」

      「サービスエリアに入るランプウェイに停止している状態で目が覚めた」

 

■誤った成功体験の影響に気づかせる

過労・居眠運転

 丸山氏は、こうした会話をくだけた雰囲気の中で続けながら、どうして、そんなに無理な運行をしていたのだろうと考えてもらったとき、運転者の心情が見えてきたそうです。

 

丸山氏 「渋滞や事故・災害などで予想外に配送が遅れていても、居眠運転の危険をおかしてまで無理をして翌朝、予定時刻通りに荷主の現場に到着できたとき、『よく頑張ってくれたよな』『あんなに渋滞がひどかったのに君はすごいな』と喜んでもらえる。会社の上司も評価してくれる。その達成感が、たまらないということでした」

 

 このような誤った成功体験が、居眠運転をしてしまう背景の一つにあったのです。

 丸山氏は、その後は運転者一人ひとりに声をかけて、頑張って走行する苦労を評価しながらも、実は怖いんだろう、無理をしているんじゃないかと聴くことで、運転者自身の気づきを促すようにしたと言っています。

 

 無理をして行くのではなく、「勇気を持って寝る(遅れを受け入れる)」ことができないのか?と気づかせるのが目的です。

 しかしそのためには、まず「苦労して走行しているんだ」という話をしてもらい、その心情を受け入れないといけないということです。

 

 自分がギリギリの無理をしているのではないか、報われない危険をおかしているのではないかということは、実は他の人に話してみないとなかなか自覚できないのです。そのためには、評価や指導を前面に出さずに、まず親身になって話を聴いてくれる先輩や上司が必要だということです。

 

 無理して運転してしまうことの怖さに気づくことができてから、「居眠事故を起こせば、まず逮捕されるのは運転者、会社も責任を追及されるけれど、結局一番重い罪をかぶるのも運転者。決して報われない」という話をしたそうです。

■味噌汁で運転者の本音を引き出す

味噌汁を振る舞う運行管理者

 

 現在は産業カウンセラーを務めていますが、かつては物流企業の運行管理者の仕事に携わっていたM女史は、管理者時代「味噌汁のおばさん」で知られていました。

 

 彼女は担当していた物流会社の営業所で、自社・他社・傭車に限らず、休憩所に入ってくる運転者全員に「味噌汁」を振る舞うのを日課にして、運転者とのコミュニケーションを図っていたそうです。

 

 どんなに気難しい無口な運転者でも、温かい味噌汁をお腹に入れて、和やかな雰囲気になると、自然と口が緩み一言二言と話をするようになります。

 中には、有益な道路情報や他社の業務における最新情報等を聞かせてくれる場合もありますが、M女史が気にしていたのは、何かおもしろくない体験、あるいは逆に良い体験で運転者自身が聴いてほしいことがないかということです。

 

 運転者が自然と話し出す内容には、納品先倉庫のリフトマンに虐められたエピソードや道路で怖いヒヤリ・ハット体験をしたこと、あるいは、エンストした車を助けて感謝されたことなど様々な内容がありました。

 

 良い話には皆で一緒に笑い、虐められた運転者には「それはひどいね」と寄り添い、どういった対応が有効かを運転者たちと一緒に考える。ヒヤリ・ハッとした運転者にはもう少し長く休憩していくように勧める……会話をすることで運転者の表情が明るくなって、気持ちよく安全運転をスタートする助けになろうと考えていたということです。

 

 コロナ禍を経て、味噌汁を出す活動などが難しい時代になってきましたが、こうした姿勢にも「聴く力」のヒントがあると考えます。

■運転者の情報をきめ細かく聴き出すことで信頼を得る

運転者からの意見聴取
配車連絡時に情報収集

 以前、物流技術研究会の配車担当者研修会に参加したところ、ある物流事業者のベテラン配車担当者の話が、非常に参考になりました。

 配車の説明をするとき、いかに多くの情報を運転者に与えるかではなく、説明は3つのポイントぐらいで簡単にして、むしろ運転者からたくさんの話をしてもらうことを心がけるというのです。

 

 その理由は、配車の成否は実は運転者の理解よりも感情にかかっていて、その配車先や業務について何か問題を感じていたら「言ってもらう」ことが大切なのだということでした。

 この配車先で何か疑問や懸念はないですか?と聴くと、過去に連絡した事項通りにはいかなかった先方の事情があったり、受付担当者の不公平・差別的な対応、長時間の荷持ち、契約にはないラップ作業や運転者のフォークリフト作業の有無が現地でしかわからない、といった問題点を教えてくれることがあります。

 

 そこで運転者の要望を聴いてしまうと、配車担当者は何らかの対応をしなければならなくなり、何も聴かずに一方的に指示したほうが楽でしょうが、その担当者は、むしろ今後の運行管理にとってプラスであるという考え方でした。

 

 たとえ配車担当者が、荷主側の問題点をすぐには100%改善できなくても、「あの担当者は運転者の話をちゃんと聴いてくれる」ということは事実として残り、運転者の見方が変わるのです。

 運転者は、一応言うべきことは伝えたと考え納得して仕事に向かうし、その後に運行先で少しでも仕事がスムーズに行けば、担当者をより信頼するようになります。

 多くの運転者から同種の情報があり、荷主の対応が「目に余る」と判断すれば、荷主に文書などで相応の対応変更を求めることにも繋がります。

 

 運転者の声に耳を傾ける姿勢こそが、管理者側の力量を増し、現場力を高めるということで研修会での意見集約をしました。 

当サイト参考記事

 

 ◆運転者のストレスに配慮していますか(危機管理意識を高めよう)

 運転者のストレスに配慮していますか(その2)(危機管理意識を高めよう)

 ◆居眠運転の危険に気づこう危機管理意識を高めよう

ホーム 運転管理のヒント危機管理意識を高めよう >運転者の言葉を「聴いて」いますか

■ドライバーの心をつかむアプローチをマンガで紹介

 現場の管理者による指導・監督は、交通事故防止の要と言っても過言ではありませんが、「十分な時間がない」などといった理由から、実際には実のある指導ができていないのが実態ではないでしょうか?

 

 限られた時間の中で、安全教育の成果を上げるには、まず第一に「ドライバーの心をつかむ」ことが必要です。

 

 本書は、管理者がドライバー指導の際に、まずドライバーに納得してもらい、そこから安全運転に導くためのヒントが得られる6つの事例をマンガで紹介しています。

 管理者のための参考書として、おすすめします。

 

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