物損事故を軽視していませんか

■「物損事故」の発生は潜在的な危険を示唆している

 事業所の車がひとたび人身事故を起こすと、被害者への謝罪や補償、刑事罰・民事訴訟への対応など、多大なエネルギーを要します。

 

 このとき管理者・運転者とも大きな教訓として記憶し、事業所内では事故状況やその原因などの情報を共有し、同じような事故を防ぐため対策を立てたり、指導をしたりします。

 

 しかし、物損事故の場合はどうでしょうか?もちろん物損の場合も、事故証明をとらないと損害賠償保険等が適用できないので、手続きが必要となってきますが、ともすると「物損でよかった」と胸をなでおろし、そのまま忘れてしまうというケースが少なくありません。

物損事故の危険

  しかし、物損事故で済んだのは、「そこに歩行者がいなかった」「相手の車が頑丈だった」「偶然、無人の駐車車両だった」など、たまたま運がよかっただけで、一つ転べば重大な人身事故になっていた可能性も高いのです。ハインリッヒの法則が示すように、軽微な事故の先にやがて大きな事故が待っています。

 事業所での物損事故事例を洗い出し、事故の傾向と再発防止策を考えておきましょう。

■こんな事故が起こっています

物損を軽視して重大死亡事故

●2名死亡事故の送迎運転者が過去に

 何度か物損事故を起こす

 2023年9月13日、さいたま市の介護施設内で施設の送迎車にはねられて利用者2人が死亡する事故が発生し、アルバイト運転者(75歳)が逮捕されました。

 

 この運転者は施設に年齢を7歳若く報告していた年齢詐称の疑いもあり、問題視されていますが、警察の捜査に対し「送迎車の向きを変えようとしたときにアクセルとブレーキを踏み間違えた」と供述しています。

 

 運転者は働き始めた当初、何度か送迎車をこすったり、バックする際に軽微な物損事故を起こしたりしたことがあったということです。

 

 介護施設では朝夕だけの運転勤務が多く、高齢者以外はなかなか運転者を雇えない事情があります。

 デイサービスを行う事業者でつくる日本デイサービス協会の理事は、「介護施設では採用時に運転技術の確認や、事故があれば情報共有すること、利用者から急ブレーキや急発進など危ない運転がないか聞き取って運転者に注意をしている」という話をしています。

 しかし、一方で、「強く言いすぎると退職してしまうこともあり、人手不足のなかで注意しづらい場合もある」と内情を吐露しています。 

物損事故の不申告(道路交通法違反)

●送迎バスを運行する会社が

 電柱への物損事故を不届出

 

 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の作業員送迎を請け負っていたバス会社が、3年前の2020年、居眠り運転で電柱への衝突事故を起こしたにもかかわらず、県警に届けていなかったことが、今年9月18日に判明しました。

 鹿児島県警は事実を調査し、道路交通法違反(事故不申告)の疑いで、運転者に事情聴取を行いました。

 

 このバス会社は、2017年10月にも小中学校のスクールバスで回送運行中に物損事故を起こした際、「事故は社内の車庫で発生した」と虚偽の報告書を薩摩川内市に提出していました。バスの入札時に報告内容の矛盾が判明し、2019年に市から入札への指名停止処分が出されていました。

 これはあくまで推測ですが、物損事故を軽視する傾向が社内にあって、それが事故を繰り返す原因となっているのかも知れません。

*運転者は、たとえ物損事故であっても警察署(警察官)に事故を報告する義務があります。これには車両単独事故も含まれます。(道路交通法第72条第1項

■物損事故は人身事故ほどは減少していない?

見通しの悪い交差点での出会い頭

 物損事故の内容を分析した事故統計はあまりみられませんが、交通事故総合分析センターによる令和5年(第26回)交通事故・調査分析研究発表会で、興味深い研究発表がありました。

 茨城県警察本部が所有している物損事故データベース(H27~H30:約30万件)を活用したもので、物損事故の増加傾向や、生活道路の信号なし交差点で物損事故が多数発生している傾向を見い出だして、警鐘を慣らしています(※)。

 

■幹線道路での事故割合が少ない物損事故

 茨城県警の交通白書によると、人身事故は全国統計同様に長期間にわたって減少傾向にありますが、物損事故は平成30年までは、増加傾向にあったことがわかりました。 

 

 また、道路種別でみると、人身事故では幹線道路57%:生活道路38%と幹線の比率が高い反面、物損事故では幹線38%:生活34%と差がなく、残りは駐車場等が24%と道路外を占めています。

 物損事故は、速度の速い幹線道路ではなく、生活道路や駐車場などで多く発生する傾向にあります。速度が相対的に低かったり単独事故の割合が高いからだと推察されます。

 

※注)「物損事故データを活用した多発箇所の抽出および事故パターン分析」山本 俊雄

    幹線道路:高速道路、一般国道、主要地方道及び一般県道

    生活道路:一般市町村道

物損事故の推移

■物損の多い信号なし交差点では、潜在的な危険がある

 同センターで物損事故が多発している箇所を抽出して分析したところ、16箇所の交差点での事故パターンがわかりました。

 その結果によると、幹線道路の交差点が9箇所、生活道路での交差点が7箇所となり、信号のありなしでは、信号ありは2箇所、信号なしが14箇所という結果でした。

 そして、幹線道路の交差点は人身事故も物損事故も多発する傾向がみられましたが、分析対象となった生活道路の信号のない交差点では、人身事故が少なく物損事故が多発している傾向がみられました。

 生活道路の交差点での物損事故は、出会い頭事故がほとんどで、しかも36件中に7件、自転車との事故がありました。

 

 同センターでは、こうした場所が、潜在的な人身事故危険箇所の一つであると分析していて、自転車との人身事故の危険も考慮すべきと指摘しています。

 

 事業所近辺の信号のない交差点で、人身事故は過去に発生していなくても、実は、小さな物損事故が多発している場所があるかも知れません。こうした交差点では、やがて自転車等との大きな人身事故が発生する危険があります。

 運転者のヒヤリ・ハット体験なども聞き取って、交差点ごとに事故防止指導の必要性を考慮しておきましょう。 

物損事故が人身事故へ

■物損事故を軽視すると人身事故の温床となる

「管理者が許してくれた」と油断し、真摯に反省しない

物損事故を軽視しない

 生活道路の交差点で出会い頭衝突が発生しても、衝突部位や速度によっては、軽微な物損事故で終わる例が多く、補償金額も大きくなりません。

 そこで、軽い気持ちから「これからは、気を付けて安全確認をして欲しい」といった事故防止指導で終わりがちです。

 

 しかし、物損事故の原因を深掘りした場合、

  • 交差点があることに全く気づかなかった
  • 一時停止標識を見落としていた
  • ピラーの死角に気づいていなかった
  • 視野に障害があるのを気づかず見落とした
  • スマートフォンにわき見し確認しなかった
  • 交差車両は絶対来ないと思い込んでいた
  • 車や自転車が来ても相手が止まると思った
  • ノルマがきつく「急ぎの心理」だった

 といった危険な要因が隠れている場合があります。

 

 これらの要因を改善していかないと、やがて大きな人身事故に発展することがあります。管理者が問題視しなかったことで、運転者が油断し、再び同じような運転状況に陥るです。

 

 物損事故が発生したときには、人身事故同様に厳しく指導することが重要です。事故が起こったときこそ、再発を防止するチャンスがあります。

■直接、事故運転者と話すことの重要性

バック事故の危険

 ある企業の管理者は、物損事故であっても、事故報告書の内容を補うために、運転者名をチェックしてその運転者に直接連絡をとり、事故の内容を詳しく聞くように努めています。


 直接コンタクトを取ると、事故報告書では見えなかった問題点が見えてきます。


 たとえば、報告書では「バック時に、後方の荷物に当たった物損事故」とあっても、実際は歩行者のいる場所での事故であり、近くにいた作業者が間一髪気づいてくれたお陰で横切るのをやめて、荷物に衝突しただけですんだ事例でした。

 運転者は室内ミラーだけを見てバックしていて、もう少しで人身事故になる恐れがあったという事実がわかったのです。

 被害金額では判断できない重大な見落としであり、再発防止策を真剣に考える必要があります。


 なお、本社の管理者などが直接連絡をすると、「何で支店長に物損事故報告書を出したのに、また本社に説明しなければいけないのか」と不満を言う運転者もいるでしょう。

 しかし、「君が会社の車で事故を起こしたんだ!担当責任者としては本人から直接話を聞くのは当然だ」と言えば、相手も納得します。

 たとえ物損事故でも、自分が重大な事故を発生させる危険があったという自覚を与えることに、意義があります。

■車が当たったら「死んだと思え」と指導する

高さ制限バーへの衝突

 あるトラック運送事業者の運行管理者は、運転者が事故を起こして報告に来たとき、物損事故・人身事故とも別け隔てなく冷静に事故処理をして、運転者を感情的に叱ることはしないように心がけているということです。

 しかしその反面、どのような事故のケースでも「当たったということで、自分は『一度死んだ』と思いなさい」と諭しています。

 

 というのは、トラックのような重量のある車が当たった場合、相手や自分の受けるダメージは相当なものであり、軽微な事故でも決して軽く考えない癖をつけさせるためです。

 たとえば、パネルバントラックの高さをうっかり忘れて、有料駐車場出口で料金計器の横に車体を寄せすぎて計器の屋根に当たったケースでは、屋根のビニールパイプが曲がる物損事故で2万円ほどの損害賠償が発生しました。

 

 運転者は軽微な事故として報告にきました。しかし、高さ制限を忘れてしまって高架前の鋼鉄ガードに衝突してトラックが横転し、運転者が死亡した事例もあります。

 そこで、高さ制限を忘れて起こす事故の恐ろしさを伝え、「君は運がいい、命を失わずに死ぬ経験をしたんだ。ひとつ間違えば、同じようなうっかりミスで君は死んでいた」と話すと、運転者も真剣に聴いて反省してくれるということです。

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10月10日(木)

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