事業所の回りには、障がい者施設があり、電動車いすを使用した障がい者の方が通行されています。従業員には障がい者に注意するように、常に声をかけていますが、万が一、このような障がい者の方と事故を起こしてしまうと、健常者との事故に比べて、過失割合は大きくなるのでしょうか?
障がいを有する者や児童・幼児、高齢者などは、通常の歩行者に比べて交通事故に遭いやすいと考えられ、いわゆる交通事故防止の観点から交通弱者といわれることがあります。
なお、電動車椅子は一定の要件を満たせば車両として取り扱われることもありますが、身体障がい者が使用するようなものは基本的に歩行者として扱われます。
これらのような交通弱者については、道路交通法14条がその保護について規定しています。
同条1項は、「目が見えない者について(準ずる者を含む)、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。」と規定しています。
一方で、同条2項では「目が見えない者以外の者(耳が聞こえない者及び政令で定める程度の身体の障害のある者を除く)は、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める用具を付けた犬を連れて道路を通行してはならない。」と白杖(盲人安全杖)の携行や盲導犬の同行を禁止しています。
同法はこのようにして、視覚障がい者自身の安全を図るとともに、外観上周囲から判別しやすくすることで、交通の安全性を図っている趣旨と考えられます。
なお、事故態様にもよりますが、視覚障がい者が道路の通行をする場合に白杖の携行や盲導犬の同行をすることが義務と定められている以上、携行ないし同行をせずに事故に遭った場合には、その点が歩行者側の過失として過失割合に影響することは考えられます。
ただし、歩道上を歩行していた視覚障がい者に対して、自動車が歩道上に乗り上げて衝突したような場合など、白杖の携行や盲導犬の同行などと事故態様に関係がないような場合には、過失割合には影響がないといえます(千葉地方裁判所平成28年8月30日判決など)。
同条3項は児童や幼児について、これらの者を保護する責任のある者に対し、交通の頻繁な道路や踏切、その附近の道路で遊ばせたり、幼児については監護者が付き添わないで歩行させてはならない旨を定めています。
また同条4項は児童又は幼児が小学校や幼稚園等の施設に通うため道路を通行している場合、誘導、合図その他適当な措置をとることが必要と認められる場所では、警察官等その他その場所に居合わせた者に対し、これらの措置をとって児童又は幼児が安全に道路を通行することができるように努めなければならないとしています。
同条5項では、「高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが道路を横断し、又は横断しようとしている場合において、当該歩行者から申出があつたときその他必要があると認められるときは、警察官等その他その場所に居合わせた者は、誘導、合図その他適当な措置をとることにより、当該歩行者が安全に道路を横断することができるように努めなければならない。」と規定しています。
本項は、高齢者や身体障がい者などが道路を横断する際に、周囲の者が安全を図る努力義務を定めています。
同法は、運転者の遵守事項として、法71条2号において「身体障害者用の車が通行しているとき、目が見えない者が第十四条第一項の規定に基づく政令で定めるつえを携え、若しくは同項の規定に基づく政令で定める盲導犬を連れて通行しているとき、耳が聞こえない者若しくは同条第二項の規定に基づく政令で定める程度の身体の障害のある者が同項の規定に基づく政令で定めるつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。」と規定しています。
また同条2号の2で「前号に掲げるもののほか、高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。」と規定しており、運転者の義務という面からも保護を図っています。
同法14条2項に基づき政令で定める程度の身体の障がいは、道路の通行に著しい支障がある程度の肢体不自由や視覚障害、聴覚障害及び平衡機能障害とされています(道路交通法施行令8条4項)。
以上のような道路交通法の規定は、実際に通常の歩行者に比べて障がい者の安全確保や保護の要請が高いといえるために定められているものといえ、そのような趣旨から、交通事故が生じた際の過失割合についても、通常の歩行者と歩行者が障がい者であった場合とでは、過失割合も異なることが多いといえます。
過失割合に影響がある場合には、上記のように道路交通法で保護されるべき者の間でもその程度に差があり、児童や高齢者の場合と、幼児や身体障害者等の場合とでは後者の方がより保護されることが多いといえます。
過失割合の程度は、具体的な事故態様にもよりますが、身体障がい者等の場合、通常の歩行者に比べて5%から20%程度の割合で歩行者側に有利な判断がされることになります。
以上のように、事故態様にもよりますが、障がいを有する人の場合には、その保護の必要性が高いと考えられていますので、事故を起こした運転者にとって過失割合は通常に比べて厳しい場合が多いといえます。
運転者としては、十分に注意し、安全に配慮した運転を行うことが重要であり、事業主も適切に指導をしておく必要があります。
特に障がい者施設が近くであり、電動車椅子の交通が多い道路状況が客観的に認識できるような場合には、危険予測をしながら、慎重な運転が必要であると考えられます。
執筆 清水伸賢弁護士
No.1078 安全管理のトラブルから事業所を守る(A4・16p)
本誌は、事業所の安全管理業務を行うに当たり、様々な法律上のトラブルから身を守るために知っておきたい法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説する小冊子「安全管理の法律問題」の続編です。
経営者や管理者が正しく法律知識を身につけ、対策することで、事業所全体の安全意識の向上へとつながり、交通事故を始めとした様々な法律上のトラブルが発生するリスクも低減することが可能となります。
(2021.12月発刊)
No.1053 安全管理の法律問題(A4・16p)
本冊子は、事故・トラブルとして6つのテーマを取り上げ、使用者責任や運行供用者責任といった事業所にかかる責任の解説をはじめとして、経営者や管理者として知っておかなければならない法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説しています。
法律知識を正しく理解することで、事業所の問題点を把握することができ、交通事故のリスクを低減することができます。
(2017.12月発刊)