マンションの駐車場の自転車事故で説教されました

先日、弊社の女子従業員が帰宅時に、マンションの駐車場内で自転車同士の接触事故を起こしました。相手は強面の男性で、「君がいきなり飛び出してくるからいけないんだ!」など、延々と2時間も説教を受けました。彼女はその場では反論できなかったのですが、時間が経つにつれ、強面の男性にも非があることが思い出され憤慨しています。とはいえ、事故から時間も経っているのですが今から男性を訴えるなど何か手段はありますか?

■今回のケースで考えられる法律的構成

(1)質問のケースにおける「説教」の犯罪性

 交通事故などの直後、現場で当事者間などが言い争いになったり、一方が他方を非難するような言動をしたりすることがあります。

 

 質問の「説教」も、要するに一方の当事者が他方の当事者を非難しているものと捉えることができるでしょう。

 

 まず、このような言動については、ある程度は社会生活内において通常生じうるものであり、受任範囲内であるといえる限り、基本的には直ちに違法となるものではないといえます。

 

 ただ、その内容や態様によっては、犯罪が成立する場合も考えられますし、交通事故とは別に損害賠償義務が生じうる場合もあります。

(2)名誉毀損罪や侮辱罪の可能性

 まず、そのような程度を越えた言動が、第三者もいるような公共の場で公然と行われ、その内容が、特定の事実や名前などを示して(事実を摘示して)相手の名誉を毀損するようなものであれば、名誉毀損罪の対象になりえます。

 

 また、事実の摘示がない場合でも、公然と人を侮辱した場合には侮辱罪の対象となりえます。

(3)強要罪の可能性

 なお、名誉毀損罪や侮辱罪が成立するまでの言動ではなかったとしても、事故の当事者であるからといって、質問のようにその場で2時間も延々と続く説教に付き合う必要は当然ありません。


 そのため、話を打ち切ってその場を去ることも考えるべきです。ただ、「説教」を聞かずに立ち去ることに危険を感じるような場合、すなわち一定の害を加える旨を告げられてその場に止まるように言われたり、現に暴行を受けたり、その他害を与えられるような態様によって、説教を聞き続けることを強要される場合には、強要罪が成立することも考えられます。

 

 強要罪は刑法223条に規定されており、同条1項は、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の拘禁刑に処する。」とします。

 

 事故の当事者であるからといって、通常考えられる程度の範囲を超えた説教を延々と聞き続ける義務を負うわけではないことは明らかであるため、これが例えば話を聞かないと暴力を振るわれるかもしれないとか、損害賠償請求をされるかもしれないと思わせるような言動と共に行われれば、強要罪も成立する可能性もないとはいえないでしょう。

(4)損害賠償請求の可能性

 上記のような刑法上の犯罪が成立する場合はもちろん、その程度まではいかない場合でも、


故意または過失による他人の行為によって損害が生じた場合には、損害賠償請求ができます(民法709条)。

 

 そのため、2時間に及ぶ説教を聞くことを強いられたことにより精神的損害が生じたとして、損害賠償請求を行うことも考えられます。

■刑事告訴や損害賠償請求には証拠が重要

 ただ、以上のような刑法犯の成立や、民事上の損害賠償請求が考えられるとしても、それが認められるためには、やはり通常の社会生活の範囲内の遣り取りを超えている必要があり、当該言動の内容や態様が客観的にも違法であるといえるような程度に至っている必要があります。

 

 その程度に至っている場合、刑事手続としては、警察に対して刑事告訴することが考えられます。

 

 また、民事上の損害賠償請求については、相手方に対して後日損害額を明示して支払を請求することになり、場合によっては民事訴訟を提起することもありえます。

 

 ただ、実際に刑事告訴や損害賠償請求を行うことができるかどうかや、その請求等が認められるかどうかについては、それを証明するための証拠の有無や程度が重要になってきます。

 

 名誉毀損罪や侮辱罪、あるいは強要罪の成立についても、民事上の損害賠償請求についても、相手に違法な言動があったことが認められるためには、同言動があったこと、その程度が違法といえる程度に至っていることについての証拠が必要です。

 防犯カメラやドライブレコーダーなどの映像や、その他録音などの客観的な証拠があれば、それらの立証は比較的容易であるといえます。

 

 しかしながら、そのような証拠がなければ、結局は「言った言わない」の水掛け論になりがちであり、そうなると、こちらの請求は認められないことにもなりかねません。

 

 特に刑事告訴の場合には、客観的な証拠がなければ警察が捜査しないことも考えられます。

 

 質問の場合、時間が経過している様子であり、なおさら証拠の確保などが困難と思われます。また、後で考えたら理不尽だと思ったとしても、その当時は特に不満等も言わず、拒否等もせずに対応していたということなのであれば、余計に請求等することは難しいかもしれません。

3 事故が起きた場合の対応

 以上からすれば、交通事故により、相手方が不当な言動を行っていると考えられる場合には、その内容を頭で記憶するだけではなく、録音や録画等により客観的に記録しておくことは重要といえます。

 

 また、交通事故が生じた場合には、まずは警察を呼ぶ必要がありますので(道路交通法72条1項)、軽い事故であったとしても速やかに通報することを考えるべきであり、警察官にその場に立ち会って貰うことも有用といえます。

 

 交通事故が起きた場合、相手との間で通常の会話は行うこともありますが、侮辱的な言動を受けたり、長時間の一方的な説教など、理不尽な対応を強要されたりする筋合いはありませんので、その点は意識しておくべきです。

 

 交通事故の態様によっては、こちら側に大きな過失があった場合にはある程度非難されることはあるかもしれませんが、それでもやはり程度の問題ですし、こちらの対応によっては、相手に過失が全くなかったことを認めたような主張を許すことにもなりかねません。

 

 そのため、こちらとしても毅然と反論することも必要な場合もありますし、理不尽な言動は無視して退避したり、他人に助けを求めたりすることなども考えて良いと思われます。

執筆 清水伸賢弁護士

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