島崎 敢の安全辞典-項目30「ハザードマップ」

■はじめに

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ハザードマップで自宅と会社の災害リスクを確認

 防災を考えるうえで、最初に手に取ってほしいものが一つあります。ハザードマップです。

 

 災害のリスクは、空間的に均一ではありません。同じ街の中でも、津波がやってくる場所と来ない場所、洪水で深く浸水する場所とそうでない場所、土砂災害が起きやすい斜面とそうでない場所がはっきりと分かれています。

 

 この「どこが、どのくらい危ないのか」を地図の上に示したものがハザードマップです。

 

 これを一度見ておくだけで、自分が普段生活している場所に危険があるのか、もし災害が起きたらどこまで逃げれば安全なのか、どう行動すればよいのかが見えてきます。

 

 逆に言えば、これを知らないままだと、いざ何かが起きたときに、どう動けばいいのか判断できないということでもあります。今回は、防災の「基本の基本」であるハザードマップについて取り上げます。

■ハザードマップとは

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 ハザードマップとは、災害による危険を空間的に示した地図のことです。地形や過去の災害記録、コンピュータによる浸水・氾濫のシミュレーションなど、さまざまな情報を重ね合わせて作られています。

 

 対象となる災害は実に多様です。津波、洪水、内水氾濫(雨水が排水しきれずに起こる浸水)、高潮、土砂災害といったものが代表的ですが、地域によっては火山の溶岩流や火山灰、地盤の液状化、豪雪などのマップも用意されています。

 

 その土地で起こりうる災害の種類によって、どんなマップが作られるかが変わるわけです。地図を眺めていると、思わぬ発見もあります。

 

 たとえば東京の東側のような低い土地では、広い範囲がまるごと浸水想定区域として塗られている場所もあり、自分の住む地域の地形的な特徴に改めて気づかされます。

 

 

 ハザードマップは、防災基本計画に基づき、全国の自治体が整備することが義務付けられています。

 

 一枚の地図の裏には、測量やシミュレーション計算、複数の情報の重ね合わせといった、お金も時間も労力もかかる作業が積み重なっています。それらは税金によって賄われ、私たち市民が自由に利用できる形で公開されています。

 

 これだけ各地のハザードマップが整備されている国は世界でも珍しく、日本の防災力の一つの表れだと言えるでしょう。使わない手はありません。

■安全との関わり

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自然災害は人間の想像を超えてくることが多い

 ハザードマップを活用するうえで、ぜひ知っておきたいのが「想定のレベル」という考え方です。少し専門的になりますが、命に関わる大切な話なので説明します。

 

 津波を例にとると、現在の想定には「レベル1(L1)」と「レベル2(L2)」の二段階があります。

 

 L1は数十年から百数十年に一度程度の頻度で起こる津波で、防潮堤などの構造物によって被害を出さないことを目標とするもの、L2は数百年から千年に一度という極めて低頻度で発生する最大クラスの津波で、避難を中心とした対策によって犠牲者を最小化することを目標とするものです。

 

 そして、津波ハザードマップの浸水想定区域は、基本的にこのL2、つまり最悪のケースを前提に描かれています。

 

 この二段階の想定は、東日本大震災の教訓から生まれたものです。それ以前は、より小さい想定(L1に近いもの)でマップが作られているケースが多くありました。その結果、深刻な事態が起きてしまいました。

 

 その象徴的な事例が、宮城県石巻市の大川小学校です。同校は当時のハザードマップ上では津波の浸水想定区域の外にあり、避難所にも指定されていました。

 

 しかしそのハザードマップは、M7クラスの宮城県沖地震を想定したもので、東北地方を襲ったような巨大津波を想定したものではありませんでした。

 

 結果として、児童・教職員あわせて84名が犠牲になるという痛ましい事態となりました。後の裁判では、ハザードマップで浸水想定区域の外であっても、学校の立地などを詳細に検討すれば津波被害を予見できたはずだと判断されています。

 

 現在のハザードマップは東日本大震災の教訓を踏まえてL2の浸水域で作り直されたものですが、ハザードマップを信じすぎないことも需要です。

 

 想定はあくまで想定であり、科学には限界があります。災害は、人間の想像を超えてくることのほうがむしろ多いのです。

■事例と実践

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ハザードマップの確認を従業員にすすめよう

 では、ハザードマップはどこでどう見たら良いのでしょうか。まず実用的なツールとして、国土交通省の「重ねるハザードマップ」をおすすめします。

 

 自治体のハザードマップはPDFファイルで公開されていることが多く、地名がわからないとどのファイルを見ればいいのか迷うこともありますが、重ねるハザードマップはGoogleマップのように地図を自由に拡大縮小できます。

 

 洪水・土砂災害・津波・高潮といった複数のリスク情報を一枚の地図に重ねて表示できますので、広い範囲を見渡したいときには特に便利です。

 

 もちろん、住んでいる場所など、良く知っている土地ならば、自治体が公開しているハザードマップも是非見ておくべきです。

 

 津波の到達時間、水が引くまでの時間、火災が起きやすい木造密集地、防災倉庫の場所や、地域防災計画に基づいた避難方向など、地域に密着した情報が載っていることがあります。

 

 そのうえで、想定のレベルを正しく理解して行動することが大切ですが、よくない考え方が二つあります。

 

 一つは「自分の場所は塗られていないから大丈夫」という油断。これは大川小学校の教訓そのものです。もう一つは逆に、「自分はリスクが高すぎる場所に住んでいるから、逃げてもしょうがない」という諦めです。

 

 津波ハザードマップがL2想定で作られているということは、実際にはそこまで来ない(L1規模で収まる)可能性も十分にあるということでもあります。

 

 だからこそ、諦めずに、その時にできる最善の行動を取る、逃げられるところまで逃げることが重要です。そして塗られた区域のすぐ外にいるからといって、安心しきってよいわけでもありません。想定はあくまで目安であり、それを超える災害は起こりうるのです。

 

 最後に、自然災害以外のハザードマップについても紹介しておきましょう。

 

 交通事故も交差点によって危険なところとそうでないところがありますし、犯罪についても同じことが言えます。

 

 実際に交通事故や犯罪のハザードマップも存在します。空間的なリスクを把握し、危険な場所には近寄らない、あるいは何かあったときにすぐ離れられるよう準備しておく。これがリスク回避の基本です。

 

 まずは一度、自分の住む街のハザードマップを開いてみてください。それが、防災の確かな第一歩になります。

執筆:島崎 敢 近畿大学准教授

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