島崎 敢の安全辞典ー項目13「アフォーダンス」

■はじめに

アフォーダンス,島崎 敢,安全辞典,説明書なしで使える道具

 私たちは日常、様々な道具を説明書なしに使っています。椅子を見れば座れることがわかり、ドアノブを見れば回して開けることがわかります。

 

 この「物が私たちに何をすべきか教えてくれる」性質を、アフォーダンスと呼びます。

 

 アフォーダンスは単なるデザインの話ではなく、安全に深く関わる概念です。

 

 適切なアフォーダンスを持つ道具は直感的に正しく使えますが、不適切なアフォーダンスは誤った使い方を誘発し、事故につながることがあります。

 

 身の回りの物を「この物は何をアフォードしているか」という視点で見ると、安全に対する新しい気づきが得られるでしょう。

■アフォーダンスとは

座ることをアフォードする椅子
椅子は「座ること」をアフォードしている

 アフォーダンスは、ジェームズ・J・ギブソンによって提唱された概念です。物の形や状態が人間に対して知覚や行動を促すことを指します。

 

 例えば椅子は、見ただけでそれが座るものであることが直感的にわかります。このとき椅子は私たち人間に「座ること」をアフォードしていると考えます。

 

 ボタンは「押すこと」を、レバーは「引くこと」をアフォードしています。

 

 興味深いのは、アフォーダンスが時代とともに変化していることです。かつてのスマートフォンやタッチパネルには、物理的なボタンの見た目を模したデザインが使われていました。

 

 しかし現在ではフラットなデザインが主流です。これは私たちの心の中にあるモデルが変化し、新しいアフォーダンスを学習してきた証拠と言えるでしょう。

■安全との関わり

謝ったアフォーダンスの理解は危険行動につながる
脚立の天板を跨ぐのは禁止

 アフォーダンスと安全の関係には、良い面と悪い面があります。

 

 良い面としては、適切なアフォーダンスを持つ製品は説明なく正しく使えることです。大工道具のトンカチやノコギリは、見れば使い方がわかるアフォーダンスの塊です。

 

 説明書も必要なく、間違った使い方をされることもほとんどありません。同様に、ガスコンロのつまみと火口の対応関係が明確であれば、素早く正確に操作できます。

 

 しかし悪い面もあります。製品が設計者の意図とは異なる使い方をアフォードしてしまう場合です。

 

 椅子は座ることだけでなく、踏み台としての使い方もアフォードしています。特にキャスター付きの椅子に乗って高いところの物を取ろうとすると、転倒事故につながる可能性があります。

 

 脚立も興味深い例です。脚立はそのアフォーダンスが高すぎるために、多くの人が説明書を見ません。その結果、正しい使い方のルール(天板に乗ってはいけない、開き角度を守るなど)が知られないまま使われ、事故が起きてしまうのです。

 

 現代社会では、アフォーダンスだけでは対応できないほど複雑な機器が増えています。

 

 刀で自分を誤って刺すことは考えにくいですが、銃、大砲、飛行機、潜水艦といった複雑なシステムでは、全体をアフォーダンスだけで理解することは不可能です。

 

 しかし、それでも個々のユーザーインターフェイス(※)においては、アフォーダンスの影響は依然として大きいのです。

 

 例えば、みんながよく間違える操作というのは、アフォーダンスの概念を踏まえて考えるとわかりやすくなります。

 

 ドアを押すべきか引くべきか迷う、コピー機のボタン配置がわかりにくい、非常口の開け方が直感的でない。こうした問題の多くは、その物が「間違った操作」をアフォードしてしまっているために起こります。

(※)アプリ、Webサイト、製品とユーザーをつなぐ「接点」

■事例と実践

アフォードの勘違いを防ぐ注意書き
誤ったアフォードを防ぐ警告表示の例

 設計者は、自分が設計した製品が意図した使い方の他にどのような行為をアフォードするか十分に考える必要があります。

 

 例えば、ガスコンロでは右のつまみが右の火口に対応しているか、つまみをどちらに回すと火が強くなるかといった対応関係を明確にすることが重要です。

 

 こうした対応関係が直感的でないと、緊急時の素早い操作が妨げられ、事故リスクが高まります。

 

 キャスター付きの椅子であれば、危険な使い方(踏み台として使う)をアフォードしないよう、あるいはできないよう設計変更することが求められます。

 

 または、警告表示を目立つ位置に配置するといった対策も考えられます。

 

 より複雑な機器では、インターフェイスデザインがますます重要になります。電動工具や産業機械では、誤操作を防ぐための工夫が不可欠です。

 

 非常停止ボタンは赤色で大きく、手のひらで叩けば押せる形状にするなど、緊急時に正しい行動をアフォードする設計が求められます。

 

 面白いのは、身の回りで「違う使い方をアフォードしている例」を探してみることです。

 

 階段に座る、手すりに荷物をかける、トイレットペーパーホルダーにスマホを置く。こうした行動は、設計者の意図とは異なりますが、その物の形や位置が自然とそうした使い方をアフォードしているために起こります。

 

 こうした視点を養っていくと、職場のリスクにも気づきやすくなります。「この機械のこの部分、本来の使い方ではないけれど、こういう使い方をアフォードしていないだろうか」「この配置だと、誤った操作をアフォードしてしまわないだろうか」。

 

 そんなふうに考えることで、潜在的な危険を事前に発見できるのです。

 

 私たちの身の回りには、アフォーダンスであふれています。「この物は何をアフォードしているか」「意図しない使い方をアフォードしていないか」という視点を持つことで、より安全な製品の使い方、そして設計につながります。

 

 日常の道具を、ぜひこの視点で見直してみてください。

 

執筆:島崎 敢 近畿大学准教授

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