令和8年6月20日(土)~21日(日)にかけて、兵庫県の姫路市市民会館にて、日本交通心理学会第91回姫路大会が開催されました。
本大会には、260名が参加し、25件の研究が発表されるなど、大いに盛況な大会となりました。
今回はその中から、木下典男氏(元国土交通省・大臣官房首席運輸安全調査官)による基調講演「バスの安全に必要なもの」を取り上げて紹介します。
日本交通心理学会とは…
日本交通心理学会は1975年日本交通心理学研究会として創立しました。交通に関わる諸問題について心理学を中心とした研究を行うことにより、交通事故の抑止とよき交通環境の建設に寄与することを目的としています。学会の認定資格である交通心理士は、地域や企業の交通安全のリーダーとしての役割を担っており、今後ますますの活躍が期待されています。
バス業界は深刻な人手不足により、応募者の大半が運転経験の乏しい40〜60代の中高年未経験者となっている。
高年齢化に伴う健康リスクを抱える中、2024年問題等の法規制強化が追い打ちをかけており、将来的に時間外労働が年720時間制限へ移行すれば、さらに多くの路線が維持できなくなる試算もある。
打開策としての外国人採用は、バス特有の「旅客対応」「運賃収納(現金扱い)」「漢字」の壁や文化の違いによる孤独感から難航しているが、現地訓練校の設立や段階的なキャッシュレス化による負担軽減の試みも始まっている。
「最初から大型車経験のある人材」の採用は過去のものとなり、現在は入社後に養成するスタイルが主流である。しかし、完全な素人である新人運転士は、指導員ごとの教え方のブレに混乱している。
この教育訓練システムの「標準化」が事故防止に直結することは事業者データからも実証されており、研修センターと営業所が連携して指導内容を改定・標準化した企業では、未改定の企業に比べ、経験年数の浅い運転手の事故惹起頻度が大幅に低い水準に抑えられている。
現行の「集合教育」は資料作成や説明に膨大な時間を費やしており、労働時間規制の観点から時代に合っておらず、eラーニングへの移行による現場の負担軽減が急務である。また、多発する車内人身事故や交差点事故に直結した体験教育が機能していない点も課題である。
さらに、指導者側の能力に関する問題も根深い。多くのバス会社では「無事故のベテラン運転士」が教官に選ばれるが、「本人が無事故であること」と「他者に教える能力」は別である。
教官が「バス停に寄せる技術」などを感覚で処理しており、論理的な説明ができない。「車間が5メートルあればハンドルを1回半回せばぶつからない」といった具体的な論理化・図解を行い、素人でも理解できるシステム構築が必要である。
本社の安全担当部署には、「効果検証(Check)を想定せずに施策を企画(Plan)するためPDCAが回らない」「業務引き継ぎ書の不在により人事異動のたびに取り組みがリセットされる」といったマネジメント不足が見られる。
事故対策もヒューマンファクターの分析を行わず、「注意と指導の徹底」という個人の責任追及と精神論に終始しがちである。
今後は新しい施策を増やすだけでなく、時代遅れの取組みを「やめる決断」による既存業務の削減が不可欠である。
新施策の導入時も一斉に広げず、一部の営業所でトライアルを行う「スモールスタート」の思想が求められる。
バス事業者が目指すべきは、教育訓練システムを根本から見直し、事故後の処罰から「予防対策」へ軸足を切り替えることである。同時に、全社的な車両のオートマ化や先進安全自動車(ASV)の導入といったハード面での運転負荷軽減を進めることが有効である。
これらを持続させるには、中期経営計画に人手不足だけでなく「教育訓練システムの見直し」や「高齢化対策」を具体的な予算とともに盛り込む必要がある。
そして、経営陣への昇格ルートに「安全部署の複数回経験」というキャリアパスを確立し、企業全体の安全マネジメントの視点を変革していくことが、路線維持と安全担保の鍵となる。
日本交通心理学会第91回姫路大会データ
・日時 令和8年6月20日(土)~21日(日)
・会場 姫路市市民会館・第ホール
・主催 日本交通心理学会
・協賛 公益社団法人兵庫県バス協会
・後援 一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会