令和4年度研究発表会を開催──(一社)交通科学研究会

運転者が「気づく」ことの重要性を再確認

 令和4年12月7日(水)、大阪公立大学文化交流センターにおいて、(一般社団法人)交通科学研究会の「令和4年度研究発表会」が開催されました。

 この発表会はオンラインを併用して、計7件の学術研究、調査報告、事例紹介が行われました。

 今回は、この中から実践・事例報告として発表された2件の内容を紹介します。

■「乗合バス事業者における運転者教育-神姫バスの事例-」

 兵庫県姫路市に本社を置く神姫バス株式会社は、1972年5月に研修センターを開設し、バス乗務に必要な訓練を実施しています。初任運転者に対しては指導・監督の指針に基づき教育を行っていますが、コスト面からは教育時間を短くしたい一方で、新入運転者の技量不足により教育期間が長引いている現実があります。

 同社は、新入運転者等が運転の基礎を習得するための基本コース(教習コース)を所有しており、基礎訓練を経て、一般道での本格的な実技訓練に進みます。

 以前は大型自動車運転経験者が多くを占め、基礎訓練にあまり時間を要することなく、一般道路走行訓練に移ることができていました。

 一方、大型車未経験者が大半を占める現在は、基本コース内での走行も思いのままにできない者も多くなっています。そこで同社は、「運転経験が豊富であれば運転技術を伝えることができる」といった旧来の考え方ではなく、未経験者の不安を汲み取り、新入運転者教育の見直しを図りました。

 

「教え込み」から「気づき」の教育へ

 基本コースでの訓練では従来、指導者が同乗し、4日間かけてこと細かく指導してきました。それを10日以上に延長し、その間は指導者の同乗を控え、「習うより慣れろ」の方式で、運転者が自ら体感し気づいた運転感覚を大切にするようにしました。

 また、基本コースと一般道路走行を繰り返し交互に行うようにすることで、運転者はやみくもに車両に慣れるだけではなく、一般道路で見つけた課題を、再び基本コースに持ち帰って自分で気づき、考え、修正するようになりました。

 

実体験を踏まえたカリキュラムを設定

 同様に、同社では入社1年後にも研修を実施していますが、この研修は運転者が「自ら気づくこと」を意識したプログラムに変更しました。

 具体的には、「クラクションを鳴らしてトラブルになった」「発進時に安全確認を省略したことで走行車両と接触しかけた」といった、新入運転者が1年間に体験した事案をもとに、指導者がバスの模擬走行を行います。

 その際、指導者は運転者が日常的に思っているであろう「心の声」を、たとえば「あー、またバス停に車が止まっちゃってるよ……」というような言葉に発しながら「運転あるある」を再現することで、運転者が客観的にこれらの出来事をみることができるようにしました。

 また、地元消防局とも協力して左折時の巻き込み事故を再現し、事故防止だけではなく、事故応対手順等も実際にやってみせるようにしたところ、研修の感想も「絶対に事故を起こしたくない」など、今までになかった感想が述べられるようになりました。

 

今後の課題

 今後は、研修センターと各営業所との綿密な連携体制を、より一層築き上げることが課題となっています。

 

■企業ドライバーへの「気づき」研修 ~明日からの安心運転のために~

 近年、企業の社会的責任の重要性から交通事故防止を重視する傾向を踏まえ、大阪ガスオートサービスでは運転者に「気づき」を与える3つの研修を実施しています。

 

「OGASビデオ診断システム」研修

 同社が開発した「OGASビデオ診断システム」では、道路状況やその時の運転行動(速度、確認、合図、アクセル・ブレーキ操作など)が運転中に1画面に合成され、録画することができます。そのため、運転後すぐに、運転者がどのような運転をしていたのかを明確に知ることができ、自分のイメージと比較することで気づきを得て、そして納得することができるようになります。とくに速度の出しすぎや一時不停止といった場面では、ビデオ映像を用いると一目瞭然であり、いかに運転者が「やっているつもり」であるかを気づかせることができます。

 

「コメンタリー運転」研修

 運転者が見たこと、考えたことなどを実況中継するように口に出して語りながら運転する方法を「コメンタリー運転」といいます。同社では、コメント内容を「注意対象」と「意思決定」に絞りこみ、危険予測に特化したコメンタリー運転を研修・指導しています。

 「注意対象」は運転者が危ないと感じたものを読み上げ、「意思決定」は「よーし」と「停止」の2種類のコメントのみで行います。

 運転中の危険を声に出すことで、危険を探すようになるほか、運転以外のことを考えなくなるなど、運転に集中する効果もあります。最近ではドライブレコーダーのAIによる診断技術を活用した研修も実施しています。

 

「自損事故防止」研修

 同社では、企業において近年、増加傾向にあると感じられる自損事故についても、気づきを促し、自らの運転行動を変えてもらための研修を実施しています。

 具体的には、車両の死角について実車を用いて検証するほか、訓練センター内に模擬コインパーキングを設置し、止めやすい駐車場所の選択や、料金所への車両の寄せ方など、さまざまなケーススタディを実施しています。

 

今後の課題

 ニューノーマル時代に対応した研修が求められると考えられることから、非添乗型の研修や、VR技術を活用した運転研修など、さまざまなデジタル技術を活用した研修を行う必要があります。

 

文責:シンク出版編集部

令和4年度研究発表会データ

 

・日時 令和4年12月7日(水)10:45~15:40

・会場 大阪公立大学 文化交流センター ホール

 

・プログラム

開会挨拶 交通科学研究会会長 篠原 一光(大阪大学)

 

【一般会員の部-1】

⑴ 鉄道利用者の安全ニーズに関する調査

大阪大学大学院            ○ Annisa Sakina Santoso

大阪大学大学院              秋保 亮太

大阪大学大学院・西日本旅客鉄道安全研究所 小倉 有紗

大阪大学大学院              中井 宏

 

⑵ 円滑な交通確保に向けたお客さまの行動変容訴求に対する基礎的検討

阪神高速道路株式会社          ○ 熊谷 泰知

阪神高速道路株式会社           藤岡 昌俊

 

【実践・事例報告の部】

⑶ 乗合バス事業者における運転者教育 ~神姫バスの事例~

神姫バス株式会社            ○ 船曳 晃司

神姫バス株式会社              柴田 重盛

神姫バス株式会社                             須和 憲和

 

⑷ 企業ドライバーへの「気づき」研修 ~明日からの安心運転のために~

大阪ガスオートサービス株式会社     ○ 佐藤 大輔

 

【一般会員の部-2】

⑸ 車載機器の通知を模した刺激の呈示による注意の妨害

大阪大学大学院           ○ 川島 朋也

大阪大学産業科学研究所                   木村 司

静岡理工科大学                               紀ノ定 保礼

大阪大学大学院                               篠原 一光

 

⑹ 入口誤進入車両の挙動分析による課題把握と対策提案

阪神高速技研株式会社       ○ 蘆田 龍

阪神高速道路株式会社                     鈴木 英之

阪神高速道路株式会社                     佐藤 大地

阪神高速技研株式会社                     井上 徹

阪神高速技研株式会社                     西 剛広

阪神高速技研株式会社                     水野 翔太

阪神高速技研株式会社                     西岡 悟史

 

⑺ 「飛び出し坊や」の設置状況と地域の道路形成過程との関連分析

立命館大学               ○ 小川 圭一

 

閉会挨拶 交通科学研究会副会長 飯田 克弘(大阪大学)

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