夜間に帰宅中、対向車のヘッドライトに幻惑され、後方を歩いていた歩行者を見落とし接触してしまいました。接触した歩行者からは私の責任を強く問われていますが、そもそも事故の原因は対向車がハイビームで走行していたため、幻惑されたことによるもので、私がすべての責任を負うのは納得がいきません。とはいえ、対向車を探し出すのも難しく、私はどのような対策を取ればよいでしょうか?
いわゆるハイビームについては、法律上「走行用前照灯」といわれ、またロービームといわれるヘッドライトは「すれ違い用前照灯」といわれています(道路運送車両の保安基準32条等)。
同名称からも分かるとおり、夜間等の走行時には、基本的には走行用前照灯、すなわちハイビームで走行することが原則であるとされています(道路交通法52条1項2項、道路交通法施行令20条)。
特に交通量の多い都市などでは、夜間であっても街灯などの明かりにより視界が明るく、またすれ違い等も多いため、実際には普段はロービームで走行していることも多いですが、法律上はそのような扱いになっています。
ただ、だからといって周囲の状況も構わずに常時ハイビームの状態で走行した場合、法律上は減光等義務違反となり、反則行為とされる可能性がありますので注意が必要です。
法律上ハイビームが原則とされているのは、ロービームに比べて照射範囲が2倍以上であり、やはり見通しの悪い夜間等において遠くまで視界が確保でき、歩行者等の発見が早くなって事故防止に有用であるとされるからだといえます。
しかし他方、ハイビームは幻惑や蒸発現象(グレア現象)を起こしやすいという問題もあります。
幻惑とは、運転者が対向車のライトを直接目に受けることで、まぶしさのために一瞬視力を失うことです。
また、蒸発現象(グレア現象)とは、自車と対向車の前照灯の光が交錯する部分にいる歩行者などが蒸発したかのように見えなくなる現象です。
いずれの現象もハイビームでなければ起きないというわけではなく、普段の運転において注意することが必要ですが、ロービームが「すれ違い用」とされ、対向車とすれ違う際に使用すべきとされているのは、ハイビームの場合には特にこのような危険が生じやすいためであると考えられます。
以上のように、ハイビームでの走行が原則ですが、すれ違いの際にはロービームにしなければならないといえるので、走行の態様によっては、ハイビームのままにしていた車に責任が認められる場合はありえます。
道路交通法違反と当時の業務上過失致傷罪が争われた刑事事件においてですが、夜間、対向車と行き違う自動車の運転者がロービームにするのが遅れた場合に、対向車が急制動の措置をとり道路中央線を越えて進出することについて、予見することが可能であるとして責任を認めたような裁判例もあります(東京高裁昭和55年8月6日判決)。
この様に、ハイビームが直接的な原因で事故が生じたような場合には、刑事責任が問われることはありえます。
民事上の損害賠償請求事件でも、前照灯の状態を問題として争われるような事案がありますが、ハイビームにしていれば早期発見できたのに、ロービームで走行していたことについて過失を主張するものが多いと思われます。
ただその多くは当事者が前照灯の状態を主張した場合に、あくまでも事故の状況等を総合的に考慮する場合の一要素として検討されていると思われます。
走行時にハイビームとしていなかったこと、あるいはすれ違いの際、ロービームにしなかったことのみを取り上げて、直ちに過失としたような事例は見当たらないと思われます。
この点、対向車のハイビームが原因であったとしても、必ずしも前方不注視の責任を免れるものではないといえますし、事故の発生がハイビームによって幻惑等されたことが原因であることを証明することは難しい面もあり、質問のように事故が生じた時には既に対向車は走り去ってしまって現場におらず、事実上責任を問えない場合も多いでしょう。
まずは幻惑や蒸発現象を避けるために注意し、より慎重に運転することが必要です。
夜間の運転時には、このような危険が生じやすいことを意識して、徐行や一時停止等もしながら注意深く安全確認を行うようにしてください。
また幻惑されないように、対向車のヘッドライトを直視せず、視線を左前方にして道路の左側の白線などを見ながら正しい車線を維持するようにしましょう。
執筆 清水伸賢弁護士
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