危険運転致死傷罪について質問します。テレビのニュースなどを見ていると、危険運転致死傷罪を適用するか否かを争う事例をよく見ます。そのため、国でも危険運転致死傷罪適用の基準を明確化しようとしているようですが、具体的に基準の内容を教えてください。
危険運転致死傷罪とは、文字通り危険な運転を行ったことで他人に対して死亡や傷害の結果を生じさせた場合の罪です。
元々は刑法の業務上過失致死傷罪の一類型とされていましたが、法定刑が軽いとの批判等から、平成13年に刑法において危険運転致死傷罪として独立の罪とされ、致傷罪は10年以下の懲役、致死罪は1年以上の有期懲役とされました。
その際の危険運転の態様は、
とされました。
その後、刑法自体の法定刑の上限が引き上げられ、その後平成25年に自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律として独立した法律になる際、危険運転の類型として
「通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」
が追加されました。
また同法第3条1項で
「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する」
同条2項で
「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする」
と定められました(「おそれがある状態」も処罰範囲に含まれました。)。また、アルコールや薬物の影響についての免脱罪や、無免許の場合の加重なども定められました。
そして令和2年に、さらに危険運転の類型として、
「車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為(同条第5号)」
「高速自動車国道等において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為(同条第6号)」
が追加されました。
以上のように、実際に生じた事故や危険運転の態様などから、危険運転の類型を増やし、また罰則も重くされてきました。
しかし、危険で悪質といえる運転行為には様々な態様があり、実際に生じている危険かつ悪質な運転行為による死傷の事案について、適切に対処できていないのではないかという指摘がなされていました。
特に危険運転事案の被害者の立場からは、危険運転の範囲を拡大して厳罰を求める声もあります。
また、従前までの改正でも、類型を増やすなどして適用範囲を明確にする検討はされていましたが、「正常な運転が困難な状態」や「進行を制御することが困難な高速度」など、評価自体が分かれるような文言もあり、その基準が曖昧であるとの意見もありました。
このような事情もあり、構成要件を明確にして、適切な運用を確保すべきとの見地から、危険運転致死傷罪の要件が見直されることになりました。
具体的にはまず、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態(アルコール影響正常運転困難状態)について、「身体に血液1ミリリットルにつき1.0mg又は呼気1リットルにつき0.5mg以上にアルコールを保有する状態、その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう」と数値により明確にするとされています。
また従来、「進行を制御することが困難な高速度」とされていた速度については、「最高速度時速60kmを超える道路では最高速度をさらに時速60km超える速度、最高速度時速60km以下の道路では最高速度をさらに時速50km超える速度」を危険運転として一定の数値で判断できるようにし、また「その他道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」を併せて危険運転としています。
さらに、従来必ずしも規制の対象とされていなかった、いわゆるドリフト走行やウィリー走行について、「殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為」と定義してそれにより人を死傷させた時も危険運転致死傷罪が成立するとされています。
同改正案は、国会の審議を経て、夏ごろに施行される見通しと言われています。
今回の数値基準のような改正は、どのような行為が危険運転致死傷罪に該当するかが明確になるという面はあります。
一方で、危険かつ悪質な運転行為であるが、今まで危険運転致死傷罪により処罰されていなかった行為について、同罪による処罰を可能にするという面もあり、今まで同罪に該当しなかったものが含まれうるため、従前までに比べて処罰範囲が広がることになるといえます。
また数値基準が設定されることは、通常の場合その基準を超えれば機械的に同罪に該当するとして処理されると思われるため、具体的な道路状況等によって本当に危険運転致死傷罪として罰するべきといえるのか疑問があるような場合でも同罪が検討されることになります。
この点、既に決定している道路交通法施行令の改正により、令和8年9月1日からいわゆる生活道路について最高速度が時速30kmに引き下げられることになっています。
もし生活道路では時速80kmを超える走行で人身事故があれば、危険運転致死傷罪に該当することになります。
生活道路において時速80kmを超える速度で走行すること自体、危険でもあり、そもそも法定速度は遵守すべきですが、運転者はこのような改正も把握し、危険運転とされるような運転を行わないように注意する必要があります。

執筆 清水伸賢弁護士
No.1078 安全管理のトラブルから事業所を守る(A4・16p)
本誌は、事業所の安全管理業務を行うに当たり、様々な法律上のトラブルから身を守るために知っておきたい法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説する小冊子「安全管理の法律問題」の続編です。
経営者や管理者が正しく法律知識を身につけ、対策することで、事業所全体の安全意識の向上へとつながり、交通事故を始めとした様々な法律上のトラブルが発生するリスクも低減することが可能となります。
(2021.12月発刊)
No.1053 安全管理の法律問題(A4・16p)
本冊子は、事故・トラブルとして6つのテーマを取り上げ、使用者責任や運行供用者責任といった事業所にかかる責任の解説をはじめとして、経営者や管理者として知っておかなければならない法律知識を清水伸賢弁護士がわかりやすく解説しています。
法律知識を正しく理解することで、事業所の問題点を把握することができ、交通事故のリスクを低減することができます。
(2017.12月発刊)