今国会(第201回国会)では「あおり運転」の厳罰化について審議が行われていますが、ご存知ですか?
審議されているのは道路交通法改正案と自動車運転死傷行為処罰法の改正案です。衆参両院の委員会で審議がすすみ、今国会で成立する見通しが立っています。
法案通りに成立すると、以下に紹介するようにあおり運転への罰則強化がすすみます。また、改正法の施行日が「公布後20日」となっていますので、遅くとも2020年7月までには施行される見込みです(※)。
2017年に東名高速道路であおり運転に起因した悲惨な死亡事故が発生して社会問題化したことを受けて、警察庁が取締りを強化するとともに、政府は罰則強化と危険運転致死傷罪への適用をすすめるため、法令改正をすすめてきました。
今回の改正により、「あおり運転」は悪質な道路交通法違反=「妨害運転」行為として明確に規定され、罰則も最高で5年以下の懲役または100万円以下の罰金と強化されます。
また、妨害運転による人身事故発生時に危険運転致死傷罪が適用される範囲が広がり、死亡事故では最長で20年の懲役で起訴される可能性があります。
また、妨害運転違反だけで即免許取消処分を受けることになります。職業ドライバーであれば仕事を失うことになりますので、この事実に注目し運転者への指導を強化してください。
(※編集部追注/道路交通法改正案は今国会で6月2日に衆院本会議で可決し10日に公布されました。6月
中頃までに違反点数と欠格期間等を定める施行令が公布され、6月30日に施行されます。
また、自動車運転死傷行為処罰法改正案は5月28日に衆院本会議で可決し、6月5日に参議院本会議で
可決し成立しました。こちらも7月2日には施行される見込みです)
他の車両の通行を妨害する目的で、
右のような行為を交通の危険を生じ
させる恐れのある方法でした場合 ⇒
●通行区分(左側通行)違反
●車間距離を詰める
●急ブレーキをかける
●不必要なクラクション
●急な進路変更(割込み)
●ハイビーム威嚇の継続
●乱暴な追越し、左からの危険な追越し
●幅寄せや蛇行運転
●高速道路での最低速度違反
●高速道路で駐停車 等
改正前
車間距離不保持違反
急ブレーキ禁止違反
追越し方法違反
警音器使用違反
駐停車違反
等を適用
■罰則
一般道路は、5万円以下の罰金
高速道路では、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
など
・道路交通法第119条
・道路交通法第120条等を適用
【違反点数と反則金】
車間距離不保持(一般道)1点
普通車反則金 6,000円
車間距離不保持(高速道)2点
普通車反則金 9,000円
急ブレーキ禁止違反 2点
普通車反則金 7,000円
追越し方法違反 2点
普通車反則金 9,000円
など
【免許の仮停止】
あおり運転をしても、飲酒運転やひき逃げ、携帯電話違反等がない場合は仮停止には含まれない。
改正後
①妨害運転(交通の危険のおそれ)
上記のような違反行為を「妨害運転(あおり運転)」と位置づけ
■罰則①
3年以下の懲役または50万円以下の罰金
②妨害運転(著しい交通の危険)
さらに、高速道路上等で相手の車を停止させたり、一般道路であっても物損事故を起こさせるなどの著しい交通の危険を生じさせた場合は
■罰則②
5年以下の懲役または100万円以下の罰金
・道路交通法第117条の2の2 第11号
・道路交通法第117条 第6号 等を新設
【違反点数と行政処分】
妨害運転は、反則通告制度の対象にはならない(反則金は適用されない)。
妨害運転 罰則1の違反の場合
違反点数 25点 → 即、免許取消処分
(欠格期間 2年/前歴0の場合)注1
妨害運転 罰則2の違反の場合
違反点数 35点 → 即、免許取消処分
(欠格期間 3年/前歴0の場合)注2
【免許の仮停止/注3】
妨害運転 罰則2の違反をして、交通の危険を生じさせ死傷事故を起こした運転者は、運転免許の効力仮停止の対象に含める
※注1 免許を再取得できない欠格期間は、処分歴等があれば最大5年まで延長される
※注2 特定違反行為になるので欠格期間は、処分歴等があれば最大10年まで延長される
※注3 「運転免許の仮停止」とは道路交通法103条の2に定める処分で、運転免許停止処分とは異なる。無免許運転や酒酔い運転、麻薬等運転、ひき逃げ、携帯電話使用違反などで死傷事故を起こした場合や信号無視・通行禁止違反などで死亡事故を起こした場合に、管轄する警察署長は免許の取消しや停止など規定の行政処分を待たずに、事故を起こした日から最長30日間、事故を起こした運転者の免許効力の仮停止をすることができる。
あおり運転のために交通事故が発生しても、過失運転致死傷罪が適用された場合、うっかりミスによる事故と同じような量刑になります。
今回の自動車運転死傷行為処罰法の改正では、「危険運転致死傷罪」の構成要件が拡大され、以下の2項目の条文が付け加えられました。
この改正により、速度を出している他車の前で停止したり、高速道路などで急停止・急接近して相手の車を徐行させたり停止させる行為をして、死傷事故に結びついた場合は危険運転の適用が可能になります。
【同法第2条 第5号・第6号】
5 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
6 高速道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう)をさせる行為
改正前
交通事故の原因にあおり行為があっても、過失運転致死傷罪が適用された場合
■罰則
7年以下の懲役・禁固、
または100万円以下の罰金
【事故の違反点数】
一般の違反行為(急ブレーキ違反や通行区分違反等)での人身事故とされた場合は、交通事故の付加点数は以下のようになる。
死亡事故 20点
全治3か月重傷 13点
3か月未満の怪我 9点
30日未満の怪我 6点
15日未満の怪我 3点
改正後
妨害目的で、重大な危険が生じる他車の前での停止、高速道路での前方停止、急接近などの行為は、危険運転致死傷罪に該当。
■罰則
傷害事故 15年以下の懲役
死亡事故 1年以上の有期懲役
※有期懲役とは最大20年の懲役をさす。
【危険運転致死傷罪の事故点数】
交通事故で危険運転致死傷罪が適用された場合は、一般の違反行為ではなく特定違反行為とされて事故の付加点数は非常に厳しくなる(かっこ内は免許取消の欠格期間/前歴なしの場合)。
危険運転致死 62点(8年)
全治3か月重傷 55点(7年)
3か月未満の怪我 51点(6年)
30日未満の怪我 48点(5年)
15日未満の怪我 45点(5年)
(※編集部注/自動車運転死傷行為処罰法改正案は5月28日に衆院本会議で可決し、6月5日には参議院の本会議で可決し成立しました。公布日6月12日、施行日7月2日)
道路交通法では、路線バスのバス停から10m以内は路線バス以外は駐停車禁止と定めています。
今回の改正で、この規定が見直され、自治体や地域のNPOが運行するデマンドバスやコミュニティバスなど「自家用有償旅客運送」の車両に関して、関係者が合意した場合には、路線バスの停留所に駐停車が可能となります。
トラックの大型・中型免許やタクシーなど第二種免許の受験資格の見直しが行われ、特別な教習の受講を条件に19歳から免許の取得が可能になります。
改正前の受験資格は第二種免許が「21歳以上で普通免許の保有歴3年以上」、第一種の大型運転免許が「21歳以上で普通免許の保有歴3年以上」、中型免許が「20歳以上で普通免許の保有歴2年以上」となっています。今回の改正で運転技能などを学ぶ教習カリキュラムを受講することを条件に「19歳以上で普通免許保有歴1年以上」の人が受験できるようになります。
なお、安全対策として、特例を受けての免許取得者は21歳(中型免許は20歳)までに違反が一定基準に達した場合は、講習の受講が義務づけられます。
理由がなく講習を受けない運転者は特例取得免許が取り消される仕組みです。
75歳以上の運転者で一定の違反歴のある者(過去3年間に信号無視や大幅なスピード超過など特定の違反歴や事故歴がある)に対して運転免許証更新時に運転技能検査を実施することになります。
技能検査の結果が一定の基準に達しない(検査中に信号無視をしてしまうなど)高齢者は、運転免許証の更新ができません。
なお、運転技能検査の対象とならない高齢運転者には実車指導を実施し、技能を評価して結果を本人に通知する制度も始まります。
また、その他の高齢運転者対策として、申請により、対象車両を自動ブレーキなどが付いた安全運転サポート車に限定するなどの条件がついた「サポカー限定免許」を与える仕組みも創設されます。限定免許の対象には自動ブレーキに加え、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した車が想定されています。
【参考】
・改正道交法「あおり運転」を厳罰化─2020年6月30日施行(最近の法令改正)
・改正道路交通法が施行されます─2020年4月1日施行(最近の法令改正)
・あおり運転の取締りが強化されています(危機管理意識を高めよう)
・あおり運転などの交通トラブルに対する対処は?(安全管理法律相談)
・「ながら運転」の厳罰化を周知していますか(危機管理意識を高めよう)
・危険性帯有者の処分について指導していますか(危機管理意識を高めよう)
・あおり運転で「殺人罪」などの判決(交通事故の判例ファイル)
・「あおり運転の車に賠償請求権なし」とした裁判例(交通事故の判例ファイル)